株式会社LIXIL Advanced Showroom シニアアドバイザーの関氏(左)、健康推進部のディビジョンリーダー小泉氏(右)(撮影:安藤ショウカ)
企業の持続的な成長の鍵は、社員一人ひとりの健康と働きがいにある。
株式会社LIXIL Advanced Showroom(以下、LAS)は「お客さまの笑顔のために」というミッションを掲げ、全国80以上のショールームを運営している。
ピープルビジネスである同社の業態は社員の笑顔が生み出す価値こそが、お客さまの満足度や企業価値の向上につながる。そのため、健康経営の推進やエンゲージメント向上の取り組みを率先して進めている。
今回は、シニアアドバイザーの関氏と健康推進部のディビジョンリーダー小泉氏に、同社の人的資本経営の現在、社員が笑顔でいられるための取り組み、そしてLASが目指す未来について語ってもらった。
「健康」と「笑顔」で創造するLASの価値向上戦略
LASでは「健康」と「笑顔」が特にキーワードとなって事業展開している印象を受けます。その背景をお聞かせください。
LASシニアアドバイザーの関氏。入社以来、企業価値向上のための戦略策定や施策実行に携わる。経営戦略の立案や企業文化の構築を担当し、社員一人ひとりのエンゲージメント向上を目指す。
関
LASの社員の多くはショールームの現場で、お客さまと直接触れ合う「感情労働」に従事しています。これはお客さまに笑顔で接する一方で、細やかな気遣いなど心身に負担がかかる部分も少なくありません。
そのような環境の中、社員が「自分の仕事に価値を見いだせる」「心身ともに健康でいられる」と実感できることが重要だと考えています。
だからこそ、働きがいや健康を支える仕組みをつくり、社員にとって安心してはたらける環境を整えたいと思いました。
健康推進部ディビジョンリーダーの小泉氏。従業員の健康管理を担う部門をリード。社員が健康でいられる職場環境の整備に注力している。
小泉
私も同じ想いです。感情労働という仕事の特性上、LASの社員は知らず知らずのうちに大きなストレスを抱えることがあります。
健康というのは、それを失ったときの影響が非常に大きく、職場全体のパフォーマンスにも関わりますし、その人自身の人生にも大きく関わります。
そのため、社員がストレスをため込む前にサポートできる体制をつくることが大切だと思いました。
健康を維持することは、働きがいを感じるためのベースでもあるのでしょうか?
関
その通りです。健康でなければ、どんなに素晴らしい仕事をしても、続けることが難しくなります。
たとえば、LASでは「開花だより(※1)」という取り組みを通じて、社員が自分の仕事の価値を実感できる仕組みをつくっていますが、それを最大限に活かすためには、心身ともに健康である状態が欠かせないのです。
健康は、働きがいを感じる土台であり、その上で達成感や幸福感が積み重なっていくものだと思います。
小泉
そうですね。健康推進部では、社員が健康であるための具体策としてサーベイや相談体制を整えていますが、同時に、社員が自分のはたらきを「価値あるもの」だと感じられる仕組みも重要だと考えています。
たとえば「SMILEポイント(※2)」は、社員同士が感謝の気持ちを贈り合うことで、職場の連帯感を高めるだけではなく、健康的な職場環境をつくる一助になっています。
健康が働きがいの土台となり、その上に達成感や充実感を積み上げていくという考えですね。健康を支える仕組みをつくる中で、特に意識されたことはありますか?
小泉
健康の取り組みというと、結果だけを重視しがちですが、LASではプロセスも大切にしています。
たとえば、社員が自分の体調に意識を向け、日々の生活や働き方を少しずつ改善していけるような支援を目指しています。
一方通行的に制度を提供するのではなく、社員が主体的に健康を考えられるような環境づくりを意識しています。
関
健康に関する取り組みは、社員へのメッセージでもあります。「あなたたちの健康が会社にとって何より大切だ」というメッセージを形にすることが重要だと考えています。
健康が守られなければ、働きがいどころか、仕事そのものが続けられなくなってしまう。だからこそ、社員が健康でいられるための具体的な施策をしっかりと考え、実行していくことを心がけています。
社員の健康と働きがいを支える仕組み、その背景には「社員を大切にする」という強い思いがあるのですね。
小泉
そうです。健康かつ笑顔ではたらく社員がいるからこそ、お客さまを笑顔にし、ご満足いただけることができる。健康と働きがいは切り離せないものであり、それを支えることが私たちの使命だと思っています。
関
その通りですね。「お客さまの笑顔のために」というミッションを実現するには、まず社員が心身ともに健康であることが大前提です。
健康と働きがい、この二つを両輪として支え続けることで、LASの価値がさらに高まると信じています。
※補足
※1「開花だより」とは、ショールームでの接客に対してお客さまお客さまから高い評価をいただいた際に作成されるフィードバックシート。この「開花だより」が1万通集まるたびに、桜の木を1本植えるという取り組み
※2「SMILEポイント」とは、LAS社内でValuesに沿った行動をした社員に贈られるポイント。社員同士で贈り合うことができ、ポイントを贈る際はメッセージが添えられるコミュニケーションツール。また、ポイント数に応じて社会貢献活動の団体に寄付することもできる。
LASのMVVや、「開花だより」、「SMILEポイント」については以下の記事から詳しい取り組みの効果を見ることができます。
「笑顔」と「健康」を支える人的資本経営や人財戦略
LASが取り組む人的資本経営や人財戦略について、特に重視されているポイントはどのようなところでしょうか?
小泉
LASのビジネスは「ピープルビジネス」です。
つまり、社員自身が生み出す価値がそのままお客さまの満足度や会社の成長につながるという特徴を持っています。社員が健康で、いきいきとはたらける環境を整えることが、LASにとって何よりも重要な戦略です。
そのため、私たち健康推進部では、心身両面の健康をサポートするための仕組みを充実させています。
例えば、毎月実施しているコンディションサーベイでは、社員の体調やメンタルの状態を定期的に把握して必要なサポートを提供しています。
また、健康に関する情報提供やセミナーを通じて、社員一人ひとりが自分の健康を意識し、主体的に管理できるような環境づくりを目指しています。
関
健康推進の取り組みは、単なる福利厚生の一環ではありません。我々のような接客業務を中心とする企業において、社員の健康は企業価値そのものに直結します。
お客さまとの接点で最前線に立つ社員が笑顔でいること。それを支えるための健康管理や働きがい向上の施策は、人的資本経営の根幹です。
健康経営の推進にとどまらず、今後の人財戦略にも結びつけて考えられているのですね。
関
その通りです。LASでは、社員が長く安心してはたらける環境を整えることを重要視しています。
例えば、ライフイベントに応じた柔軟なはたらき方を支援する制度や、キャリアアップにつながる研修制度を多く導入しています。
これにより、社員が自身のライフステージに合わせて最適な働き方を選べるようにしています。
また、マネジメントの部分では、社員一人ひとりに寄り添った対応が重要だと考えています。そのために作成したのが「マネジメントポリシー」という指針です。
このポリシーを策定した背景には、ショールームという現場が全国に広がっている中で、拠点ごとにマネージャーの考え方や対応が異なることで生じるギャップを埋めたいという思いがありました。
LASのマネジメントポリシー1頁目には桜の樹とともに理念体系がわかりやすく示されている。
マネジメントポリシーの策定には、具体的にはどのような想いが込められているのでしょうか?
関
ポリシーの策定にあたっては、「社員がどの拠点でも安心してはたらける環境をつくりたい」という思いが最優先でした。
現場のマネージャーはそれぞれが一生懸命に取り組んでいるのですが、地域や個人の考え方によって対応が異なってしまうこともあります。
それがときに社員の戸惑いや不安を生む要因になってしまうことがあったんです。
そこで、会社としてのマネジメントの一貫性を保ちながら、現場ではたらく社員を支えるための具体的な指針をまとめようと考えました。
ポリシーの中には、コミュニケーションの仕方や、社員との信頼関係をどう築くべきかについて具体的な方針を盛り込んでいます。
小泉
このポリシーがあることで、健康推進の観点から見ても非常に大きな効果があります。
たとえば、マネージャーが部下の体調やメンタルの状態を定期的にサポートする体制を整えやすくなりますし、社員にとっても「上司が自分を見てくれている」という安心感につながります。
それによって、社員が心身ともに健康を保ちながらはたらける環境が構築されていくと思っています。
関
また、ポリシーを作る際には、具体的な数字やロジックだけでなく、感情や情緒に訴えかける表現も意識しました。
マネージャーを務める社員の多くが女性ということもあり、感覚的に共感しやすい内容にすることで、ポリシーが自然と現場に浸透するよう工夫しています。
マネジメントポリシーがあることで、現場の一体感や社員の安心感が向上しそうですね。
関
その通りです。マネジメントの部分をしっかりと支えることが、社員全体のパフォーマンス向上にもつながります。
このポリシーを軸にマネージャーや現場の意見を吸い上げ、より良いマネジメントの形を模索し今でも深化し続けています。
小泉
マネジメントポリシーは、社員の安心感や働きがいを高めるための重要なツールです。それが最終的には、社員の健康を守る仕組みとしても機能し、会社全体の成長にもつながると考えています。
社員と共に描く未来と持続的な成長
これまでの取り組みがどのような変化や成果を生み出しているのか、具体的な数字も含めて教えていただけますか?
小泉
健康推進部としての取り組みによる効果は、さまざまな形で現れています。
まず、社員の健康状態を把握するために毎月実施しているコンディションサーベイの結果ですが、5段階の健康スコアにおいて「不調」と答えた社員の割合が、健康推進部設立前と比較して60%改善されました。
また、ストレスチェックの高ストレス者率も、設立前の10.9%から7.4%に改善されています。
数値的にも大きな改善が見られますね。それは健康だけでなく、働きがいや離職率にも影響を与えているのでしょうか?
関
はい、離職率にも改善が見られます。LASの年間離職率は、以前は年間20%ほどありましたが、現在では年間9.4%まで減少しています。
ライフイベントやキャリアの変化による退職はどうしても一定数ありますが、制度やサポートの充実によって、これまで「仕方なく辞める」というケースは減少してきていると実感しています。
小泉
働きがいに関しても、社員が自分のはたらきを肯定的に捉えられる機会が増えています。
「開花だより」などの取り組みを通じて、お客さまから寄せられる感謝の言葉や評価を直接感じられることが、社員のモチベーション向上につながっています。
また、SMILEポイントの導入によって、職場内での感謝の文化が醸成され、コミュニケーションの質も向上していると実感しています。
これらの取り組みが、LASの全体的な企業価値にも反映されているのではないでしょうか?
関
そうですね。たとえば、社員や元社員が口コミを投稿する「オープンワーク」では、LASのスコアが大きく向上しました。2015年時点では3.44だったスコアが、2024年現在では3.89にまで上がっています。
特に、「社員の相互尊重」や「働きやすさ」に関するスコアの向上が顕著で、外部からの評価も着実に改善しています。
社員の健康と働きがいを支える施策が、数字としても効果を発揮していることがわかりますね。それらの成果を踏まえて、今後LASが目指す方向性について教えてください。
小泉
これまでの成果を踏まえつつ、さらに幅広い視点で健康推進の取り組みを進化させていきたいと考えています。
特に、メンタルヘルスの分野は今後の課題であり、ストレスケアや予防策を強化していく必要があります。
近年、社会全体でメンタルヘルスの不調を抱える人が増加しており、LASにおいても感情労働を担う社員の特性上、その影響を無視することはできません。
そのため、ストレスの予防や早期対応に重点を置いた施策をさらに整備し、社員が安心してはたらける環境をつくっていきます。
また、健康というテーマを通じて社員同士がつながり合い、相互に支え合える仕組みづくりを目指していきます。
関
LASは、「お客さまの笑顔のために」というミッションを実現するため、社員の健康と働きがいを両輪として支える取り組みを続けていきます。
その結果、社員一人ひとりが自分の価値を実感し、安心していきいきとはたらける会社であり続けたいと思っています。
また、LAS自身が健康経営や人的資本経営の先進的な事例として、業界全体に良い影響を与えられる存在になれるように日々進化していきたいと考えています。
読者へのメッセージ
最後に、読者の方々に向けて、メッセージをお願いします。
関
LASでは、「お客さまの笑顔のために」というミッションのもと、社員一人ひとりの健康と働きがいを大切にした環境づくりに取り組んできました。
「社員が笑顔でいられるからこそ、お客さまも笑顔になれる」という考え方は、業種や職種に関係なく、多くの企業にとって共通するテーマだと思います。
この記事を通じて、LASの取り組みに共感していただき、働き方や職場文化を見直すきっかけにしていただけたら嬉しいです。
企業の成長を支える土台は、やはり人であり、その人たちが健康でいきいきとはたらける環境をつくることが大切だと考えています。
小泉
健康というのは、社員が働きがいや生産性を感じるための最も基本的な要素です。LASでは、健康推進部として、社員一人ひとりが主体的に健康を意識し、自分を大切にできるようなサポート体制を整えています。
また、メンタルヘルスの課題が社会全体で注目されている現在、会社としてどれだけ社員を支えられるかが、企業の持続可能な成長の鍵を握ると感じています。
この取材を通じて、LASの取り組みが読者の皆さんにとって何か気づきや参考になれば幸いです。一緒に「健康で笑顔ではたらける社会」を目指していければと思います。
お二人ともありがとうございました。LASの「笑顔」と「健康」を軸にした取り組みが、読者の皆さんにとっても新たな視点や学びを提供することを期待しています。
LASの経営における軸には「笑顔」が据えられている。それを体現するように、取材でも終始笑顔の花が咲いていた。
今回の取材を通して、LASが、社員の「笑顔」と「健康」を中心に据えた人材戦略を徹底している点に強い印象を受けた。特に、ショールームの現場でお客さまと向き合う社員一人ひとりの健康や働きがいを重視し、そのための具体的な施策を次々と実行してきた結果が、確かな数値として現れていることに驚かされた。
さらに印象的だったのは、健康推進や働きがい向上を単なる福利厚生としてではなく、企業価値そのものに直結する戦略と捉えている姿勢だ。社員が健康で、いきいきとはたらける環境をつくることが、お客さまの笑顔を生み出し、それが企業の持続可能な成長につながるという明確な哲学がある。その哲学を中心にした取り組みを継続しながら、さらなる改善を目指す姿勢は、LASの強みであり魅力だと感じた。
LASの取り組みは、はたらく環境の整備に悩む企業や、人的資本経営の実践に課題を感じている経営者にとっても、一つの参考となるのではないだろうか。「健康」と「笑顔」を両輪として支えるLASがこれから描く未来の姿に、さらなる期待が高まったとかんじた。
◎会社情報
会社名:株式会社 LIXIL Advanced Showroom
本社所在地:東京都港区浜松町2-5-5 PMO浜松町7階
代表者:代表取締役社長 鈴木 浩之
設立日:2013年9月20日
資本金:1億円
事業内容:ショールーム施設等の運営管理