
廃車の座席が新たな価値を帯びて生まれ変わる——東京メトロのアップサイクルプロジェクトが再び注目を集めている。
丸ノ内線座席がアップサイクル商品に 東京メトロが限定販売を開始
東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は、伊勢丹新宿店で開催される「ピース de ミライ」にて、丸ノ内線02系の引退車両座席をアップサイクルした限定商品「東京メトロロゴ入りペンケース」を販売する。開催期間は2025年4月9日から22日までで、商品の生地には制服袖章タグやブラックジーンズ素材を使用した特別仕様となっている。
この商品は2023年から始まったアップサイクルプロジェクトの第三弾にあたり、過去に発売された第一弾商品は販売からわずか3分で完売する人気を博した。素材の縫製と仕上げは、デニムリメイクを得意とするヤマサワプレスが担当し、すべてが手作業による一点ものとして提供される。
他社にない再活用アプローチ 廃材を“記憶を宿す商品”に昇華
アップサイクルという言葉自体は近年広く使われるようになったが、東京メトロのプロジェクトは単なる再利用では終わらない。ポイントは「素材の背景にある記憶」を丁寧に扱っている点にある。
座席の布地に制服の袖章タグをあしらうなど、車両と職員の“現場の記憶”をプロダクトに重ねていくアプローチが特徴的だ。また、廃材とユーズドストックのジーンズという異素材を組み合わせることで、手触りのある「ストーリー性」を商品の価値として打ち出している。これは、廃材活用を“感性”のレベルにまで引き上げた点で、他社には見られない発想である。
プロジェクトの源流にある思想は「記憶を都市に還す」
このプロジェクトの根底にあるのは「引退車両に新たな価値を与える」という明確なテーマである。金属部品は比較的リサイクルしやすい一方で、布製の座席シートなどは資源循環が難しく、処理が課題とされてきた。東京メトロはそこにあえて向き合い、「再資源化が難しい素材にこそ価値を」と捉えた。
さらに注目すべきは、この取り組みが“都市と時間の記憶”の再構築として展開されている点だ。地下鉄という生活インフラに密着した存在を素材に昇華することで、記憶を「廃棄」せず、モノとして残す選択をしている。そこには企業としての責任と、公共交通機関としてのアイデンティティが交差している。
東京メトロから学ぶアップサイクルの本質と経営のヒント
このプロジェクトは、単なる環境施策ではなく、持続可能な経営における「共感創造」のあり方を示唆している。環境配慮のその先にあるのは、消費者が感情的に共鳴する「物語」の創出である。そのためには、素材の選定だけでなく、他業種との協業や、文化的文脈の再編集が求められる。
また、大量生産では再現できない「一点ものの価値」を丁寧に磨き上げる姿勢は、今後のプロダクト設計やブランド戦略にも通じる示唆を含んでいる。東京メトロの挑戦は、静かで地道なように見えて、持続可能性という未来への橋を、確かにかけている。