![チューリッヒ旧市街とリマト川の眺望](https://coki.jp/wp-content/uploads/2025/01/View-of-Zurich-Old-Town-and-the-Limmat-River.jpg)
スイスの有権者は2月9日の国民投票で、厳格な環境規制を求める「環境責任イニシアチブ」を大差で否決した。最終結果では、反対票が69.8%を占め、全26州が反対に回った。投票率は38%と平均を下回り、低調だった。
「環境保護か経済か」スイスの選択
今回の国民発議は、スイスの経済活動を「地球の限界」、すなわち自然の回復能力の範囲内に収めることを目指すものだった。特に気候変動、生物多様性、淡水利用に焦点を当て、消費削減を義務付ける内容だった。
支持派は、温室効果ガスの大幅削減を求め、「持続可能な未来のために必要な一歩」と訴えた。一方、政府や経済界は、同案の具体策が不透明であり、企業の国外移転や物価上昇を招くと警戒し、反対を表明していた。
「過激すぎた提案」専門家が分析
スイス公共放送(SRF)では「環境問題は依然として重要視されているが、今回の提案は多くの有権者にとって『過激』すぎた」との分析が紹介された。
投票前の世論調査でも、経済的影響を懸念する声が多数を占めており、否決される可能性が高いとされていた。政府の試算では、可決された場合、企業の競争力が低下し、国内産業に深刻な影響を与える恐れがあった。
環境派は反発「環境政策の流れは止まらない」今後の展望
投票結果を受け、緑の党青年部は声明で「現状維持派が勝利した」と強い不満を示した。同党は「科学的根拠に基づく環境危機への警鐘が無視された」と主張し、反対派の「不安を煽る戦術」が有権者の判断を左右したと批判した。
一方、左派の社会民主党(SP)のリンダ・デ・ヴェントゥーラ氏は、「この結果は環境保護そのものへの反対ではない」と指摘。過去には気候保護法(2023年)や電力法(2024年)が可決されており、「有権者は一定の進展を求めている」と語った。
反対派の中道右派・中央党(Die Mitte)のマキシム・モワ氏も、「有権者は環境問題に関心を持っているが、非現実的な目標を押し付けられることを望んでいない」とコメント。生活の質を著しく悪化させる可能性があったことも、反対票が増えた理由とされる。
低投票率が示す社会の関心の低さ
今回の投票率38%は、過去の国民投票と比較しても低水準だった。メディアの報道量が平均を下回ったことや、同時期に発表された国防相の辞任ニュースなどが影響したとみられる。
否決でも終わらない議論
スイスの直接民主制では、国民発議が否決されることは珍しくない。しかし、過去には最低生活保障や軍隊廃止案などが否決されたものの、その後の議論を通じて影響を与えた例もある。
今回の環境責任イニシアチブの否決が、スイスの環境政策にどのような変化をもたらすのか、今後の動向が注目される。