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株式会社SDGインパクトジャパン

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〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル7階

「ビジョンと社会実装、その間にあるギャップを埋める」医療AI/DXのエコシステムが求められる理由とは?

サステナブルな取り組み ESGの取り組み
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Bio Engineering Capital株式会社 代表取締役 島原 佑基さん
Bio Engineering Capital株式会社 代表取締役 島原佑基氏(Bio Engineering Capitalより)

世界に類を見ないスピードで高齢化が進む日本。医療現場における人材不足は深刻化し、国民皆保険の維持も危ぶまれているような状況です。

そんななか、医療現場の負担軽減、診断精度の向上、さらには医療の質向上にも寄与し得る技術が、医療AI/DXです。

SDG Impact Japan(以下「SIJ」)は2024年8月、医療AI/DXや再生医療などのライフサイエンス領域の起業家を支援するBio Engineering Capital株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役:島原 佑基、以下「BEC社」)と、資本業務提携を行いました。

その目的はまさに、医療AI/DXを加速させるエコシステムの創出です。

医療分野の画像解析AI事業を手掛ける医療AIベンチャー、エルピクセル株式会社(以下、エルピクセル社)の創業者として日本の医療AIをけん引してきた島原氏に、エコシステム創出の重要性、戦略、そして展望を聞きました。

急成長する医療AI/DX市場と、日本が抱える導入の壁

―まずは、国内における医療AI/DXの現況を教えてください。

医療AIは、2012年頃にアメリカで深層学習ブームが起きたことが発端となり、世界的に注目を集めるようになりました。日本ではその数年後にブームが到来し、医療分野への応用も始まりました。

私は2014年にエルピクセル社を立ち上げ、2019年に深層学習を活用した脳のMRI医療機器の承認を取得しました。これが日本で初めて深層学習を活用した医療AIだと言われています。

日本でAIが可視化されるようになったのはここ10年ほどのことで、医療現場で本格的に活用され始めたのは、ここ5年ほど。

さらに、放射線系の医療AIや「Software as a Medical Device: SaMD(サムディ)」と呼ばれるプログラム医療機器に対して診療報酬が加点されるようになったのが2022年で、そこから急速に導入が進みました。

医療ヘルスケアの市場概況
(BEC会社紹介資料より)

AIヘルスケア市場は世界的に成長産業といわれていて、2030年までに1,880億ドルの市場になると見込まれています。

なかでも医療画像AI市場は、世界で20.9億ドル、日本円で数千億円ほどの市場規模になるといわれています。

日本市場が占める割合は約20%ほどと言われており、日本の画像診断AIは将来的に数百億円の市場規模となることが予想されます。

―急速に普及してきているとはいえ、日本の医療AI/DXが米国に比べて遅れをとっているのはなぜでしょうか。

様々な理由がありますが、そのうちの一つは保険制度の違いです。

アメリカでは医療費の単価が高く、医療機関は、費用対効果の高い医療AI/DXを積極的に導入しています。

一方、日本では、国民皆保険制度のもと医療費が抑制されているため、医療機関は新たな技術導入に慎重にならざるを得ない状況があります。これが、医療AI導入の大きな障壁となっています。

日本では、医療AIを導入しても、診療報酬として認められなければ医療機関にとって経済的なメリットがありません。

逆に、「医療AIには技術料として30点加算されます」というような仕組みができれば、ほとんどの医療機関が導入するでしょう。

実際に、診療報酬改定で放射線学会の要望で実質的に医療AIを管理することが加点対象となったことで、対象機関は急速に導入が進みました。

医療AI/DXの社会実装に不可欠なエコシステムを創出する

―医療AI/DXのエコシステム創出が必要であると考えた理由を教えてください。

私は、エルピクセル社で研究開発と事業開発に注力してきましたが、いくら良質な医療AIを開発しても、いわゆる社会開発が不十分では社会実装しきれないことを痛感しました。

そこで、社会開発の一環として、事業者目線から医療AIの開発環境の整備や実効性ある医療AI/DXを普及させるための政策提言などを行ってきました。

しかしながら、一事業者としてできることには限りがあります。

豊富なデータを収集し、良質なAIを作り、超高齢化社会における課題解決に役立つ技術を社会実装するには、医療AI/DX領域のエコシステム創出が必要であると考えました。

人材のアロケーションを促す

エコシステムができれば、第一に、優秀な人材のアロケーションが可能になります。

医療AI/DXの開発には、高度な技術力を持つエンジニアの存在が不可欠です。しかし、日本の医療AI/DX業界が優秀なエンジニアを獲得できるだけの魅力的な環境を提供できているとは言いがたい。

Googleなどの巨大IT企業と比較して、給与水準や開発環境の面で見劣りしてしまう現状があります。

また、医療AI/DXの開発には大量の医療データが必要ですが、日本の医療現場ではまだまだデータの共有や活用が進んでいません。

さらに、医療AI/DXを開発したとしても、すぐに医療現場で活用できるわけではありません。薬事承認や保険適用など、クリアしなければならないハードルが多く存在します。

これらの課題を解決し、医療AI/DXの開発を加速させるには、ベンダー、医療機関、投資家など、様々なプレイヤーが連携し、それぞれの強みを生かしながら課題解決に取り組むエコシステムを構築していかなければなりません。

東京医科歯科大学との協業
左から
東京科学大学 飯田香緒里 副理事、同大学 東條有伸 理事、るBio Engineering Capital 島原氏、同社パートナー 熊切雄三氏(
東京科学大学との協業 プレスリリースより)

エコシステム創出の前提として、そもそも日本には欧米と比べてスタートアップを立ち上げる起業家が少ないことが課題のひとつでした。

どうすれば起業家を増やせるか思案していたところに、起業家育成や産学協同に力を入れておられる
東京科学大学とのご縁がありました。

イノベーションのコアは科学であり、大学にあります。東京科学大学には、起業家教育支援プラグラムやピッチコンテストなど、起業家を育成するための土台が整っていました。

もっとも、研究と産学連携のベースはあるものの、そこに資金を提供するファンドと事業をハンズオンする機能が欠けていました。

そこで、われわれのファンドが資金を提供しつつ、起業経験者をハンズオンで支援していこうと、連携を図るに至りました。

経済的インセンティブを促す

エコシステムが多様で大きくなれば、保険制度をはじめとする経済的インセンティブへの働きかけもしやすくなります。

先ほど、日本が米国に対して遅れをとっている要因として保険制度を挙げました。日本では、労働人口の減少とともに、国民皆保険制度の財源も今後減少の一途をたどります。

限られた財源から医療AI/DXに診療報酬が割り振られる流れを作るには、医療AI/DXに関する法整備や保険適用範囲の拡大など、事業者目線から働きかけていく必要があります。

Bio Engineering Capitalのリソースを活用したソーシング
BEC会社紹介資料より

超高齢社会の到来を目前に、日本政府も医療AI/DXに積極的なビジョンを掲げています。

ビジョン自体にはもちろん賛成するのですが、それを実行するための起業家を支援したり実際に医療現場に導入されやすい仕組みを作ったりするための事業者目線の推進力が欠けていると感じています。

私たちは、このエコシステムを創出することで、ビジョンと社会実装との間にあるギャップを埋める役割を担いたい。

その一環として今回、医療AI/DXの開発に必要な資金提供や人材育成などのサポートを提供すべく、SIJとの資本業務提携による医療AI/DXに特化したベンチャーキャピタルファンドを設立し、将来性のあるスタートアップ企業への投資を積極的に行うこととしました。

医療AI推進機構
医療AI推進機構のプレスリリースより

スタートアップを支援するには、資金だけでなく、データも法規制対応も必要です。

このため、ファンド設立と同月の2023年11月、オープンイノベーションで世界最大級の医療データプラットフォームを構築し、法規制対応支援や先進的なシステム開発等を通じて医療AI業界の発展を目指す「医療AI推進機構」も立ち上げています(https://mapi-jp.org/)。

ファンドと機構のシナジーをうまく活かして、エコシステムに貢献したいと考えています。

エコシステム創出の先に広がる未来とは?

―エコシステムを構築することで、日本の医療はどのように変わっていくのでしょうか。

まずは、医療のAI/DXが加速することで、間違いなく医療を効率化できます。

例えば、AIが搭載された問診システムを使うことで、受診前に問診を終え、医師の診察時間を短縮できます。

また、ここ1~2年で生成AIが急速に発展してきたことで、患者レポートを瞬時に作成できるようになりました。

医者が過去50年の患者データを遡って診断するなどおよそ不可能ですが、AIであれば一瞬でできてしまいます。

さらには、電子カルテ、画像データ、検査データなどの患者の医療情報を一元管理し、医療機関間で共有できるシステムを構築できれば、重複検査や煩雑な手続きを解消できます。

医師の長時間労働が社会問題化するなか、医師にとっても患者にとってもメリットの大きい効率化を実現できるのです。

医療情報がデータ化され、一元化されれば、医療機関同士だけでなく、医者と患者との間の情報共有もしやすくなります。

現在、個人のヘルスケア情報を本人の意思に基づき個人レベルで一元管理できるPHR(Personal Health Record)の普及に向けた動きも見られます。

医師が患者の日々の健康情報や生活習慣に関する情報にアクセスしやすくなると同時に、患者も自身の医療情報にアクセスしやすくなります。

情報格差が修正され、医療を受ける患者の納得感を高める効果も期待できるでしょう。

医療AIのイメージ画像
医療AIのイメージ画像 エルピクセル社HPより

また、例えば画像診断AIを使うことで、人間の目が届かない箇所の病気を発見したり、ヒューマンエラーを低減したりと、診断精度を高めることができます。

医療AI領域で最も活用が進んでいる領域が、放射線撮影と画像診断です。放射線撮影にAIを使うことで、がんの検出率は10%ほど向上する例もあります。

国のアジェンダのひとつである「がんの早期発見」に貢献することはいうまでもありません。

放射線画像領域の画像診断支援AI、すでに数千施設以上の施設に導入されています。

AIの解析回数は日本だけで数千万件を超えており、この記事をご覧の皆様やご家族・親戚も気付かぬうちにAIの恩恵を受けているかもしれません。

現在は、肺がんや脳腫瘍の発見、前律腺がんの治療など、ある程度定型的な診断・治療にAIが活用されています。

しかし、将来的には、「沈黙の臓器」と呼ばれるすい臓をはじめとする腹部の疾患にも、AIが当たり前のように使われるようになるでしょう。

さらには、医療AIが医師をサポートすることで、すでに医師不足が問題となっている過疎地域や僻地でも、高度な医療を提供できる可能性がひらけてきます。

医療AI/DXは、都市部と地方との地域間格差を解消する一助となるかもしれません。

このように、医療AI/DXの社会実装の先には、医療の効率化、診断精度の向上、そして公平な医療の実現にも貢献できる可能性が広がっています。

―最後に、医療AI/DX領域のエコシステムによって実現したい未来像をお聞かせください。

医療AI/DXは、日本の医療が抱える様々な課題へのソリューションとなり得る、革新的な技術です。

私たちが目指すのは、医療AI/DXの力で、いつでもどこでも、誰もが質の高い医療を受けられる社会を実現することです。

短期的には、研究開発から導入までの膨大なコストがかかりますし、医師や受益者である患者の啓発も含め、乗り越えるべきハードルがあることも否定できません。

しかしながら、国民皆保険が危機的な状況にあるなか、国や行政に頼っているばかりでは最低限の医療も守られない社会になってしまいます。

医療AI/DXのエコシステムのなかで優秀な起業家を育て、資金を提供するファンドを組成し、中長期的な目線で医療AI/DXに投資していく。まさにその一歩を踏み出したところです。

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ライター:

1985年生まれ。米国の大学で政治哲学を学び、帰国後大学院で法律を学ぶ。裁判所勤務を経て酒類担当記者に転身。酒蔵や醸造機器メーカーの現場取材、トップインタビューの機会に恵まれる。老舗企業の取り組みや地域貢献、製造業における女性活躍の現状について知り、気候危機、ジェンダー、地方の活力創出といった分野への関心を深める。企業の「想い」と人の「語り」の発信が、よりよい社会の推進力になると信じて、執筆を続けている。

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