経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2024年10月11日、「第6回カーボンリサイクル産学官国際会議2024」を東京都内で開催した。
世界各国から産官学の専門家が集結し、カーボンニュートラル実現に向けた鍵となるカーボンリサイクルの技術開発や国際連携の必要性について議論が交わされた。
各国の連携でカーボンリサイクルを推進
会議は、カーボンリサイクルに関する最新の知見や技術情報を共有し、国際的な連携を強化することを目的としたものだ。
会場となったウェスティンホテル東京とオンラインを合わせて、27の国と地域から、約840人が参加した。会議では、3つのテーマでパネルディスカッションが行われた。
カーボンリサイクルの役割と課題
「カーボンニュートラルに向けたカーボンリサイクルの役割」をテーマとしたセッションでは、日本、オーストラリア、国際エネルギー機関(IEA)、地球環境戦略研究機関(IGES)の代表が登壇し、各国の取り組み状況やカーボンリサイクルへの期待について発表があり、温室効果ガス実質ゼロの実現に向けてカーボンリサイクルが重要な役割を持つことが改めて示された。
パネルディスカッションでは、カーボンリサイクルが温室効果ガス実質ゼロ達成に貢献する重要性が改めて示された。
特に、CO2を原料としたプラスチックや燃料の製造は、従来の製造プロセスと比較してCO2排出量を大幅に削減できる可能性があり、注目を集めている。
一方で、カーボンリサイクル製品の普及にはコストの低減が課題であり、そのためには安価な水素などの調達が不可欠となる。
そこで、原料を安価に調達できる国で製造し、世界各国に輸出するといった、国境を越えたサプライチェーンの構築も視野に入れる必要性が議論された。
その際、国境を越えた製品の製造・流通におけるCO2排出削減量の評価や配分方法、さらには国際的なCO2排出量取引制度への対応など、解決すべき新たな課題も浮上した。
市場創出とサプライチェーン構築が鍵
「カーボンリサイクル市場の国際展開と投資促進」に関するセッションでは、企業や金融機関の立場から、カーボンリサイクル市場の現状と今後の展望、投資促進のための課題や戦略について議論が交わされた。
近年、世界的にカーボンリサイクル関連の技術開発が活発化しており、CO2を原料としたコンクリートや燃料、化学品などの製造が進んでいる。
2025年大阪・関西万博では、パビリオンの建設資材にCO2を原料としたコンクリートが使用されるなど、カーボンリサイクル技術の社会実装に向けた具体的なプロジェクトも始まっている。
パネルディスカッションでは、カーボンリサイクル市場を本格的に創出していくためには、異業種連携によるCO2の集約拠点の設置や、原料調達から製品製造、利用、リサイクルに至るまでの一貫したサプライチェーン構築を推進していく必要性が強調された。
また、カーボンリサイクル製品の環境価値を適切に評価し、価格に反映させる仕組みや、投資リスクを低減するための政策支援の必要性についても議論がなされた。
技術開発加速へ国際連携を強化
「カーボンリサイクルの技術開発」をテーマとしたセッションでは、世界各国で進められている技術開発の現状や今後の展望、国際連携の重要性について議論された。
カーボンリサイクル技術は、CO2を分離・回収する技術、CO2を貯留する技術、CO2を化学的に変換して燃料や素材を製造する技術など、多岐にわたる。
近年では、CO2から直接燃料を合成する技術や、CO2を原料としたプラスチックを製造する技術など、革新的な技術開発も進んでいる。
パネルディスカッションでは、これらの新技術を実用化し、商用化につなげていくためには、触媒開発やプラントのスケールアップといった技術的な課題を克服する必要がある。
さらに、実証段階から事業化を見据えた企業間の連携や、日本が主導する国際的な技術開発拠点間の連携強化など、技術開発を加速させるための具体的な提案がなされた。
閉会挨拶では、NEDOの斎藤保理事長が「国際機関や各国から産官学の関係者が一堂に会することで、カーボンリサイクルの意義や役割に関する理解を深め、技術開発へのさらなる支援や国際協力の必要性を確認できた。
一日も早いカーボンニュートラル世界の実現につながることを期待する」と述べた。
【会議情報補足】
会議概要
・日時:令和6年10月11日(金曜日)13:00~17:00
・場所:ウェスティンホテル東京(東京都目黒区三田1丁目4−1)及び、オンライン
・参加人数:現地参加291人、オンライン参加551人
・参加国等:27か国・地域
カーボンリサイクル産学官国際会議について
持続可能な社会の実現への取組において、気候変動問題は克服しなくてはならない課題であり、脱炭素社会を実現する技術開発や社会実装に取り組むことが求められています。こうした取組の中で、カーボンリサイクルは、エネルギー需要部分で発生するCO2を多様な炭素化合物として再利用するサーキュラーエコノミーの根幹となる技術となります。経済産業省とNEDOは、2019年以降毎年、「カーボンリサイクル産学官国際会議(カーボンリサイクル国際会議)」を日本で開催しています。本会議は、カーボンリサイクルについて、各国の将来的な実装に向けた取組の確認、および各国間の協力関係を強化するために、活発に議論をする場として日本で開催されるものです。
イベント登壇者
【開会式】
経済産業省 経済産業大臣政務官
竹内 真二
東アジア・アセアン経済研究センター
アジア・ゼロエミッション・センター
センター長
ヌキ・アジャ・ウタマ
オーストラリア政府
外務貿易省 エネルギー多様化担当
ディレクター
カーメラ・パヴリック・サール
国際エネルギー機関
エネルギー技術政策課
主任エネルギー技術責任者
ティムール・ギュル
米国エネルギー省化石エネルギー・
炭素管理局 次官補
ブラッド・クラブツリー
一般社団法人カーボンリサイクルファンド
会長
満岡 次郎
【パネルディスカッション パネルA】
カーボンニュートラルに向けたカーボンリサイクルの役割
<モデレーター>
一般財団法人日本エネルギー経済研究所
理事 環境ユニット担任
坂本 敏幸
<パネリスト>
経済産業省資源エネルギー庁
燃料環境適合利用推進課 課長
刀禰 正樹
オーストラリア政府
気候変動・エネルギー・環境・水源省
越境CCSディレクター
カラ・ピーチ
国際エネルギー機関 Energy Analyst,
Energy Technology Policy Division
International Energy Agency
サラ・ブディニス
公益財団法人 地球環境戦略研究機関
TSU特別コンサルタント / 上席研究員
田辺 清人
【パネルディスカッション パネルB】
カーボンリサイクル市場の国際展開と投資促進
<モデレーター>
三井住友フィナンシャルグループ
サステナブルソリューション部 上席調査役
三井住友銀行 サステナブルソリューション部 部長
チヴァース 陽子
<パネリスト>
株式会社TBM
執行役員CKO
次世代事業本部長
中村 友哉
KBC Process Technology Limited
Chief Executive Officer
松原 孝行
Nordic Electrofuel AS
CEO
グンナー・ホーレン
東京ガス株式会社
GXカンパニー e-methane推進部長
小林 裕司
【パネルディスカッション パネルC】
カーボンリサイクルの技術開発
<モデレーター>
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
教授
藤川 茂紀
<パネリスト>
SCGケミカルズ
デジタル担当取締役
兼脱炭素技術担当取締役
チャロトーン・スラチャート
ローレンス・リバモア・ナショナル・
ラボラトリー
Engineer – Analyst
コリー・マイヤーズ
オーストラリア連邦科学産業研究機構
エネルギー資源研究ディレクター
ガス産業社会環境研究
アライアンスディレクター
ダミアン・バレット
国立研究開発法人新エネルギー・
産業技術総合開発機構(NEDO)
大畑 通隆
Carbon Conversion and
Future Energy Carriers
PhD Senior Principal Scientist,
Division Director
チェン・ルーウェイ
【閉会式】
国立研究開発法人新エネルギー・
産業技術総合開発機構(NEDO) 理事長
斎藤 保