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株式会社SDGインパクトジャパン

https://sdgimpactjapan.com/jp/

〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル7階

SDGインパクトジャパン「ジェンダーインパクトファンド」立ち上げメンバーに聞く、フェムテックの現在とこれから

サステナブルな取り組み ESGの取り組み
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SIJ ジェンダーインパクトファンド インタビュー

近年とみに耳にする「フェムテック(Femtech)」という言葉。「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」をかけあわせた造語で、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する製品・サービスを意味します。

サステナブルファイナンスを展開する株式会社SDGインパクトジャパン(以下、「SIJ」)は現在、ジェンダー領域に特化したベンチャーキャピタル(VC)ファンド「ジェンダーインパクトファンド」を立ち上げを企画しています。

同ファンドは、「(事業そのものの領域を問わず)女性起業家が創業者である事業」ないし「(創業者の性別を問わず)女性の健康やウェルビーイングに資する事業」を投資対象とするファンドです。

フェムテックはまさしく、後者に関わるテーマ。ファンド立ち上げを主導するSIJ*の増渕翔さんと山本美里さんに、日本におけるフェムテック市場の現況と展望を聞きました。
* ファンドの運用はSDGインパクトジャパンの100%子会社であるSIJ Capital合同会社が行う予定です。

 

2023年時点のフェムテック市場はグローバルで5兆円超、日本では「夜明け前」

まずは、フェムテック市場の概況を教えてください。

増渕

フェムテックとは一般的に、女性の健康やウェルビーイングに関する課題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指す言葉として使われます。日本では約10年前から、スタートアップ界隈で普及してきました。

山本

一口に「フェムテック」と言っても、そのテーマは多岐にわたります。女性がライフステージに沿って直面する月経や避妊、不妊・妊娠、産後ケア、更年期、さらには、乳がんや子宮内膜症などの女性特有疾患、性に対して心身ともに健康であることを指すセクシュアルウェルネスなども、フェムテックのテーマに含まれます。

増渕

欧米がけん引するグローバルのフェムテック市場は、2023年時点で5兆円を超えるマーケット(※1)へと成長しており、インフラに近いサービスも続々と登場しています。

一方、日本国内のフェムテック市場は、2023年時点で700億~800億円と推察(※2)されています。日本を含むアジア地域におけるフェムテック市場は“夜明け前”の黎明期と言えるでしょう。

※1:フェムテック市場:オファリング別、用途別、最終用途別-2024~2030年の世界予測 by 360iResearch 参照
※2:矢野経済研究所(フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査を実施(2023年))参照

フェムテックが隆盛を極めている欧米の市場と日本の市場とを隔てる要素は?

増渕

ひとつは、不妊治療の保険適用の有無やピルに関する規制といった「行政による規制」の差異が大きく影響します。また、「テクノロジースタートアップの台頭の度合い」も差分のひとつです。

日本でまず広がりを見せたのは、吸水ショーツのようないわゆるフェムケア製品でした。

続いてよりテクノロジーを活用したフェムテックが入ってきましたが、スムーズに広がったかというとそうではなく、医療に関する製品・サービスへの法的規制が障壁となり、浸透に時間を要しました。

例えば不妊治療が保険適用外だと、利用も需要も制限されます。そうすると、サービス提供者や対応するクリニックも増えません。

しかし近年、日本でも2022年4月から不妊治療が保険適用内となり、風向きが変わってきました。保険適用内で利用しやすい価格帯となったことで、ニーズが高まっています。

一方で、受け皿となるサービス提供者やクリニックは足りていない状況です。不妊治療領域におけるイノベーションなどは、まさしく現在のようなタイミングで生まれてきます。

近年日本でもスタートアップが台頭してきたことで、企業にとって「こんなサービスを使ったらこんな効果が出る」とイメージしやすいサービスが登場しています。

抽象的に女性活躍推進の機運を感じながらも何をすればいいか分からなかった企業にとって、具体的に導入できるサービスや発信できるメッセージの選択肢が増えてきました。

ジェンダー不平等に対応しないことで生じる損失は年間34兆円

社会の潮流や文化的な面で、日本におけるフェムテックの普及を阻む要素はありますか?

山本

グローバルなビジネスシーンでは、ジェンダー課題はまず「人権」の文脈で語られます。「ジェンダーによる不公正が存在するのであればそれを正す必要がある」という人権としての課題意識がベースにあります。

他方、日本では「ジェンダーによる不公正を正すべき」という感覚が伝わりづらく、その先の「ジェンダーギャップによってこれだけの経済損失があるから企業として取り組むべき」というロジックのほうが響きやすい。

この点は大きな文化的差異と認識しています。

変化の兆しは?

山本

このような差異がありながらも、我々は、日本のフェムテック市場は今後伸びると考えています。

その根拠としては、少子高齢化社会において企業の中枢で活躍する女性が増えており、かつ女性のプレイヤーとしての重要性が高まっていることが挙げられます。

2024年2月には、経済産業省による「女性の健康課題による日本社会の経済損失は年3.4兆円に上る」というデータが示されました。

日本のビジネス界でジェンダー不平等に対応しないことが明確に「損失」として意識され始め、「解決しないとまずい」という切迫感が出てきました。 

女性の健康課題による経済損失の表
引用元:『女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について』経済産業省 ヘルスケア産業課
山本

また、若い世代を中心にSNSなどを介して欧米とつながりやすくなり、エンパワメントされる女性の増加やフェムテックへの意識の変化が見られます。

増渕

統合報告書等における女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示も、追い風になっていると思います。

法改正ないし社会的関心の高まりを受け、企業としても女性の労働環境改善にしっかり取り組み、その成果を明らかにしていかなければいけないという潮流が生まれています。

海外の特化型VCファンド活況、ジェンダーやフェムテックは「もっと資金供給されるべきテーマ」。

フェムテックへの投資の動機となる事実やデータがあれば教えてください。

増渕

まず、海外でジェンダーやフェムテックに特化したVCファンドが次々と登場しており、順調な投資活動を展開している事例があります。

私たちが認識しているだけでもそのようなファンドが10個は生まれていて、直近のファンドレイズの状況や投資先企業の成長を見ても順調に推移しています。

しっかりとパフォーマンスを発揮し、大企業とスタートアップの接点創出などリターンの顕在化に向けて貢献しています。

山本

女性や家族の健康のためのデジタルヘルスプラットフォームを提供するMaven Clinicをはじめ、ユニコーン企業(企業評価額10億ドル以上の設立10年以内の未上場企業)も複数登場しています。

増加傾向を示すExitは、2021年までに105件になりました。2019年に上場した生殖医療の福利厚生サービスのProgynyは、2024年2月時点の時価総額が約38億ドル(約5,700億円)にも上っています。

増渕

国内のスタートアップ全体に目を向けると、次々と数百億円規模のVCファンドが立ち上がっています。そして国内スタートアップの起業家に占める女性の割合は現在20~30%で、伸長傾向にあります。

一方で、全資金調達額のうち女性起業家の調達額は2%に留まっています。
一概に調達額だけでは測れない部分もありますが、2%はあまりに少ない。

女性起業家が関心を向けやすい女性特有の健康課題に向けたサービス・製品は、まだまだ資金供給が必要とされるテーマです。裏を返せば、それだけポテンシャルがあるということでもあります。

こうした情報やメッセージを投資家の方々に伝えることが、私たちのようなプレイヤーの社会的意義でもあります。

伸びるサービスのポイントは、「数値化」「成果への貢献」「データ収集」

日本のフェムテック市場で伸びが期待される領域は?

増渕

まず、法改正を受けてニーズが高まっているものの受け皿としてのサービス提供者が不足している不妊治療の領域は、伸びが期待できます。

山本

また、女性の健康状態や働きやすさを改善しながら従業員のパフォーマンスや成果への貢献も見据えたサービス設計ができるスタートアップは、領域を問わず伸びるでしょう。

例えば月経や更年期に関するサービスは、一義的にはもちろん女性が健康に快適に過ごすためのツールです。しかしそれだけでは企業に導入されにくい。

女性の健康状態や働きやすさをパフォーマンスと結びつけて数値化し、パフォーマンス向上がどれだけ会社の成果に貢献するかを示せるような製品・サービス設計ができて初めて、伸びが期待できると考えます。

米国でフェムテック市場が急激に拡大した背景には、「フェムテックが従業員に対する誘因になる」という理解が広がり、福利厚生としての導入が進んだことが挙げられます。

特に公的制度が薄い世代にとっては、企業がいかに充実した福利厚生メニューを持っているかが勤務先としての魅力に大きく紐づいています。

日本と米国とでは保険制度も異なるので前提条件は異な
りますが、それでも卵子凍結などの不妊治療をサポートする福利厚生メニューを導入する国内企業も出てきています。

企業に市場を推進する力がある以上、「女性の健康を改善する」ことの先にある「パフォーマンスや成果にどう影響するか」まで見渡せるサービスが、より普及しやすいのだと思います。

増渕

加えて、女性の健康に関するデータをしっかり集められるビジネスは伸びるでしょう。例えば月経に関して、経血の濃度や粘度から健康リスクを推測できるようなサービスが登場しています。

月経やホルモンに関する情報など、ある意味ブラックボックス化されていた女性の健康データを収集できて、それらのデータをもとにサービスを開発し、ユーザーに届けられる。

そんな強みを持つスタートアップには、分野を問わず大きな可能性を感じます。

具体的にはどのようなサービスがありますか?

増渕

フェムテック事業を展開する先進的な企業、Flora株式会社(以下「Flora」)のサービスは、福利厚生の文脈で多数の大企業に導入されています。

同社の法人向けサービス『flora biz』は、女性の健康課題から男性の不妊、育児うつや更年期まで、様々な課題に関するリテラシーを高める機能、自身の健康状態に不安を感じた際にオンラインでAIや医師に相談できる機能に加え、健康状態や働きやすさに関するサーベイをとる機能も備えています。


さらには、サーベイの結果をもとに健康経営指標やD&I指標への影響を可視化でき、経営的な判断材料として活用できます。機能面だけでなくデータ収集の観点からも、優れたサービスと言えるでしょう。

・flora buz https://main.flora-tech.jp/florabiz

不妊治療の領域では、「女性医療×AI」を軸にサービスを展開するvivola株式会社(以下「vivola」)のサービスが挙げられます。

例えば患者向けのサービス『cocoromi』は、患者が自分のデータと統計データ、そして自身と似た人の同質データを比較し、戦略的に不妊治療の意思決定をできるようサポートするアプリケーションです。

同社は、医療機関向けのサービスと不妊治療患者向けのサービスの両方を提供しているスタートアップです。

不妊治療の臨床データが不足している現状に対して、医療機関と患者の双方から不妊治療に関するデータを集め、各々の治療や意思決定に活用できる仕組みを構築し、課題解決を図っています。
・vivola https://www.vivola.jp/#service

健康やウェルネスを誰もが求めていい社会へ

最後に、SIJが「女性の健康やウェルビーイングに資する事業」を投資対象とするファンドの組成を通じて目指したい社会の姿をお聞かせください。

増渕

単に経済的観点から「フェムテックを伸ばしたい」というよりは、「フェムテックが伸びる社会でなくてはいけない」のだと思います。

女性特有の課題や健康状態によって選択肢が狭まりそうなとき、課題解決を支援する製品やサービスがフェムテックです。

女性の健康やウェルビーイングに貢献する企業が成長して「当たり前」、そんな社会を実現する一助になりたいと考えています。

山本

そのためには、社会全体で「健康やウェルネスを誰もが追い求めていい」という意識を高めていかなくてはなりません。

今の日本社会では、女性自身も自分の健康状態について適切な知識を持っていない状況です。自身のコンディションを「不調」と認識していいのか、それについて声を上げていいのか、病院に行くべきなのか……。

適切な情報やアドバイスに辿り着けず、「ホルモンバランスの乱れ」で片づけられてしまうケースもあります。

まずはきちんと「知る」ことのできるシステム、そして改善につなげていける仕組みづくりが求められます。不妊治療に関しても、日本は欧米と比べて受診年齢が圧倒的に高い傾向にあります。

年齢は不妊治療の成功率に影響する要素のひとつですが、日本ではそういった情報に若いうちから触れられる機会や仕組みが不十分で、妊娠確率や妊よう性に関する情報はあまり知られていません。

実効性ある解決につなげるには、ファンドの取り組みひいてはフェムテックの普及と並行して、アウェアネス(意識)の向上が欠かせません。

アウェアネスを高めるには、公的機関の施策をはじめ、社会全体が変わっていく必要があります。

SIJとしては、多方面のプレイヤーを巻き込みながら、共感してくださる方々に投資いただき、ファンドとしての機能を果たしていければと思います。

増渕

女性の健康課題に限らず、日本社会では夫婦間の問題や自身の不調に関して外部のサービスやカウンセリングを利用することにネガティブな捉え方をする風潮があります。

不妊治療の受診のタイミングの遅れも、そういった相談しにくい状況やサービスを選択しづらい制度的な難しさに起因している部分もあったと思います。

近年、法改正やテクノロジーの台頭によってようやく、フェムテック利用の壁が下がるタイミングを迎えました。

経済的にアクセスしやすいサービスにしていくためにも、今後テクノロジーが貢献できるだろうと期待しています。

◎企業概要
株式会社SDGインパクトジャパン
・本社所在地:東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル7階
・代表者:代表取締役Co-CEO 小木曽 麻里、前川 昭平
・設立:2021年1月
・ウェブサイト:https://sdgimpactjapan.com/jp/

◎インタビュイー
SIJ 増渕さん
株式会社SDGインパクトジャパン 増渕翔さん

SIJ山本さん
株式会社SDGインパクトジャパン 山本美里さん

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ライター:

1985年生まれ。米国の大学で政治哲学を学び、帰国後大学院で法律を学ぶ。裁判所勤務を経て酒類担当記者に転身。酒蔵や醸造機器メーカーの現場取材、トップインタビューの機会に恵まれる。老舗企業の取り組みや地域貢献、製造業における女性活躍の現状について知り、気候危機、ジェンダー、地方の活力創出といった分野への関心を深める。企業の「想い」と人の「語り」の発信が、よりよい社会の推進力になると信じて、執筆を続けている。

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