近年、法人や企業にとってESGに関する取り組みが重要視される中、カーボンフットプリントの管理は避けて通れない課題となっています。
しかし、カーボンフットプリントを管理するにはコストや測定方法、専門人材などをどのようにすればいいのかと苦慮してしまう人も多いかと思います。
そこで本記事では、カーボンフットプリントの基本的な概念から測定・管理の方法、ESG対応においてどのような役割を果たすのかを、実際の企業の実例を用いながら解説していきます。
カーボンフットプリントへの理解を深め、脱炭素化へ舵を切ることで持続可能な企業活動に繋がることでしょう。
カーボンフットプリントとは?
カーボンフットプリントの定義
カーボンフットプリントとは、企業の製品やサービスが、環境に与える影響をCO2排出量に換算して数値化したものです。
つまり、提供される製品やサービスがどのくらい環境に影響を及ぼすか、“見える化”するための指標として用いられます。
カーボンフットプリントの計算方法
カーボンフットプリントの計算には、次の5つの段階でCO2排出量を計測する必要があります。
- 原材料調達
- 生産・製造
- 流通・輸送
- 使用・維持管理
- 廃棄・リサイクル
これら、5つの段階でCO2排出量を計測するのですが、ISO14067:2018やGHGなどの国際標準に準じたルールで算定することも必要となります。
カーボンフットプリントと脱炭素の関係は?
脱炭素時代の到来にともない、企業はビジネスモデルの再設計とカーボンフットプリントの削減に重点を置く必要があります。ここでは、カーボンフットプリントと脱炭素化の関係について紹介します。
脱炭素化の重要性
ステークホルダーから高い評価を受けて、企業活動を持続させるためには、脱炭素化への対応は必須です。
パリ協定やSDGsの策定後、世界的にみても、企業がESG対応を進めていくことは主流となっているからです。
ESG投資という言葉もあるように、機関投資家にとっては、国際基準での評価を獲得している企業かが投資対象になるかの判断基準ともなります。
これからの企業の事業活動においては、脱炭素化の対応は必要不可欠といえます。
事業プロセスを再設計する機会になる
カーボンフットプリントは事業プロセスの中で”脱炭素化”への課題を明確にして、事業プロセスを再設計する機会になります。
カーボンフットプリントを導入していない場合、企業は脱炭素化への取り組みをどこから始めるべきか明確にできません。
無計画に脱炭素化を目指すと、CO2排出量の削減に失敗したり、余計なコストがかかったりする恐れがあります。
再生可能エネルギーの活用で効率アップ
再生可能エネルギーの活用は”脱炭素化”を実現するために、エネルギー効率を向上させてくれます。
脱炭素化を進めるためには、再生可能エネルギーの活用が不可欠です。再生可能エネルギーの使用により、特に生産・製造段階や流通・輸送段階でのCO2排出量を大幅に削減できます。
カーボンフットプリントの導入•管理により再生可能エネルギーを効果的に活用すべきプロセスを特定できます。
カーボンフットプリントの導入により、エネルギー効率を向上させ、社内外のステークホルダーに対して脱炭素化の取り組みをアピールすることができます。
ステークホルダーとの連携
カーボンフットプリントは、顧客、金融市場、政府などのステークホルダーからの”信頼”を得るための重要な評価指標です。
カーボンフットプリントの管理により、ステークホルダーとの連携を深め、企業のESG対応を示すことができます。
脱炭素化を進めるには、市場における脱炭素・低炭素製品(グリーン製品)が選択されることが重要であり、カーボンフットプリントは客観的な情報をステークホルダーに示すことができる指標となってきています。
サプライチェーン構築の重要性
サプライチェーンは企業のカーボンフットプリント削減努力における中心的な要素であり、持続可能なサプライチェーンの構築はこれを実現する重要なステップです。
企業はカーボンフットプリントを測定し管理する能力を強化し、持続可能なビジネスモデルへの移行を促進し、最終的には企業の長期的な競争力を向上させることができます。
ここでは、カーボンフットプリントとサプライチェーンの構築について解説していきます。
サプライチェーンの環境影響
持続可能なサプライチェーンを構築することは、持続可能なビジネスモデルへの移行を進めるためには重要です。
正確にサプライチェーン全体の環境への影響を評価する際に、カーボンフットプリントの測定が重要となるからです。
サプライチェーン全体でのCO2排出量を把握して、削減するためには、サプライチェーン全体の環境への影響を正確に評価して、どのように持続可能なサプライチェーンの構築を実施するかを決定することができます。
カーボンフットプリントでサプライチェーン全体を評価することで、どのように改善するべきか明確に数値で示すことが可能となり、持続可能なサプライチェーン構築を促すことができます。
サプライヤーとの連携
持続可能なサプライチェーンを構築するためには、サプライヤーとの連携が必須です。サプライヤーと連携し、サプライチェーン全体のCO2排出量を評価し、持続可能な転換を図る必要があります。
企業の直接的な活動だけでは、サプライチェーン全体の環境への影響を軽減するには不十分です。
カーボンフットプリントを把握することで、プロセスごとの環境への影響を把握し、サプライヤーも課題を認識し、連携を深めることができます。
プロセス効率の向上
カーボンフットプリントの測定・管理の効率を向上させるためにはプロセス効率の向上が欠かせません。測定・管理に様々なコストがかかることは企業活動を妨げる要因になります。
例えば、データの収集にはデジタルトランスフォーメーション(DX)により、製品単位での排出量データの自動的かつ継続的な測定方法によりCO2排出量のデータ化を進めることで企業の負担を軽減できます。
また、一次データを共有し、円滑な評価を行う体制を整え、第三者検証サービスを活用することで、プロセス効率の向上を図ることが可能です。
サステナビリティの評価
サステナビリティの評価は企業のESG対応の評価に直接的に反映されます。
サステナビリティの評価を通してカーボンフットプリント削減の取り組みがサプライチェーン全体のCO2削減にどのように影響しているかが明確になります。
諸外国では業界団体がカーボンフットプリント算定のルール作りを推進しています。
業界横断的な取り組みとして、製品のカーボンフットプリント算定ルールの策定や、サプライチェーン全体でのデータ共有が進んでいます。
日本ではサステナビリティの評価は発展途上ですが、いくつかの業界で共通のルール作りや算定ツールの共有が進んでいます。
継続的な改善のフィードバックループ
サプライチェーン全体のカーボンフットプリント削減に取り組む際には、継続的な評価が必要です。
以下の点が重要です:
- 国際的なルールへの対応:ISO 14067:2018やGHG Protocol Product Standardに準拠し、統一された基準に基づいた排出量計算を行います。
- カーボンフットプリントラベルと宣言:製品の環境負荷を定量的に表示し、透明性を高めます。
- サプライヤエンゲージメント: サプライチェーン全体での排出量削減を目指し、サプライヤーに開示と排出削減を要請します。
- 金融市場での企業活動の評価: ESG投資の拡大に伴い、企業はCO2排出量に関する情報を開示し、投資家や金融機関からの評価を受けます。この評価がフィードバックとして企業に戻り、継続的な改善を促します。
- 消費者向けの企業ブランディングと製品マーケティング: 製品の カーボンフットプリントを消費者に訴求し、環境意識の高い消費者を引きつけます。これにより、市場からのフィードバックを受け、製品の環境パフォーマンスの改善につながります。
- 検証: ISO 14065:2020に基づいた環境情報の妥当性確認や検証を行います。
カーボンフットプリント管理の導入事例
企業のカーボンフットプリント管理の導入事例は、カーボンフットプリント削減の効果的な戦略と実施方法を理解し、現在の取り組みを改善するためのヒントを得ることができます。
いくつかの事例を取り上げて、企業がESG目標を達成し、脱炭素化の努力を前進させるための具体的なステップを紹介したいと思います。
導入事例の概要
リコー
項目 | 概要 |
方法 | ライフサイクルアセスメント(LCA)方法 |
2030年ESG目標 | ゼロカーボン社会を目指し、生産プロセスの改善、製品のエネルギー効率の向上、供給業者へのCO₂削減活動の支援を行う。 |
取り組み | 環境技術を製品に組み込み、リサイクル素材の使用、パッケージの削減、再生可能エネルギーの採用、リサイクルしやすい製品づくりに取り組む。 各製品のカーボンフットプリントの開示 |
国際基準の評価 | 国際基準に従い、エコリーフ環境ラベルプログラムを通じて製品の環境評価を実施。 |
パナソニック
項目 | 概要 |
方法 | エネルギー節約活動(LED照明の使用など)、Factory Energy Management System (FEMS)のような先進的なエネルギー節約技術、生産性の向上、および革新的な製造プロセスの促進 |
2030年ESG目標 | すべての運営会社の拠点で2030年までに実質ゼロのCO₂排出 |
取り組み | ゼロCO₂工場の数を増やし、再生可能エネルギーの利用、エネルギー保存モジュールや水素燃料電池の採用、100%再生可能エネルギー源からの電力の調達など 各製品のカーボンフットプリントの開示 |
国際基準の評価 | 経団連カーボンニュートラルアクションプランへの参加 |
千代田化工建設株式会社
項目 | 概要 |
方法 | エンジニアリング能力と革新的なデジタル技術の組み合わせ |
2030年のESG目標 | 港未来本社と子安研究パークオフィスでの内部努力、および国内外の建設現場でのクライアント、パートナー、サプライヤーとの協力を通じて、直接CO2排出量と間接CO2排出量の削減。 |
取り組み | サプライチェーンでのCO2削減については、カーボンリサイクルと脱炭素社会の実現に向けて、すべてのステークホルダーとの協力 |
国際基準の評価 | 国際的な環境管理基準ISO 14001を取得。 削減計画は、技術開発、経済状況、政策・制度の支援に応じて定期 的に見直し。 |
実施戦略と達成目標
リコー
実施戦略 | ・製品のライフサイクル全体でCO2排出量を計算し、環境に責任のあ る製品を提供することで顧客の環境への影響を削減 ・エコリーフ環境ラベルプログラムを通じて製品の環境評価を実施。 |
達成目標 | ・2030年までに製造・管理によるCO2排出量と電力消費によるCO2排 出量を63%、サプライチェーン全体で40%削減 ・再生可能エネルギーへの切り替えを50%に |
パナソニック
実施戦略 | ・ZERO CO₂工場の推進、エネルギー節約、再生可能エネルギーの利用拡大 ・経団連カーボンニュートラリティアクションプランへの参加 |
達成目標 | ・2024年までに37のZERO CO₂工場を達成し、CO₂排出量を260,000トン削減 |
千代田化工建設
実施戦略 | ・ISO14001認証の取得、社内外での環境教育と意識向上活動、GHG排出削減に向けた技術の発展、経済状況、政策の支援に応じた定期的な見直し |
達成目標 | ・製造・管理によるCO2排出量と電力消費によるCO2排出量削減を、2030年までに港未来本社と子安研究パークオフィスでの取り組みを通じて実施 ・サプライチェーン全体では、すべてのステークホルダーとの協力を通じてCO2排出量を削減 |
今後の展望
今後は中小企業でもESG対応が進むことが予測されます。ESG対応の向上により、海外でも競争力を持った企業へと成長することが可能です。
カーボンフットプリントを導入し、ESG対応に取り組んでいる大企業は増えています。
カーボンフットプリント導入時には、他社の事例も参考にしながら共通のステップを踏むことで、客観的な評価が行えます。
全ての企業でカーボンフットプリントを継続することでフィードバックを得て、持続可能なビジネスモデルへの移行を促進できます。
カーボンフットプリントとESG対応をしたいなら
カーボンフットプリントの透明性は、ステークホルダーとの信頼関係を強化し、企業の持続可能性へのコミットメントを明示する上で不可欠です。
透明なレポーティングとコミュニケーションは、企業が法規制を遵守し、ステークホルダーおよび社会全体からの信頼を得る助けとなります。
カーボンフットプリントを導入して、ESG対応を向上させることについて解説していきます。
透明性の重要性
カーボンフットプリントの透明性はESG対応の環境要因において極めて重要です。
透明性のあるカーボンフットプリントの報告は、企業のESG対応への評価を向上させ、ステークホルダーからの信頼を得ることができます。
国際基準に準拠した基準を用いてカーボンフットプリントを導入することや、第三者機関による独立した検証、オープンアクセス可能な報告システムの整備は、企業の取り組みの透明性を高め、ステークホルダーへの情報提供するために重要です。
ステークホルダーへのコミュニケーション
企業がESG対応を向上させるためには、ステークホルダーとのコミュニケーションが必要です。
企業が実施している取り組みに対して、ステークホルダーからフィードバックを得ながら改善を進めていく必要があります。
カーボンフットプリントはステークホルダーからフィードバックを得るための一つの情報源となり、ステークホルダーにとっても、企業に対するフィードバックを伝える上での一つの判断材料になります。
信頼と企業価値
カーボンフットプリントを導入した企業は市場での企業価値が高まり、未来の企業活動がよりステークホルダーのために価値のあるものになります。
カーボンフットプリントを導入することにより、ESG対応の環境要因のパフォーマンスを向上させることができます。
また、カーボンフットプリントの透明性を高めたシステムを構築することで、ステークホルダーとの信頼関係を深めます。
カーボンフットプリントの導入と管理は、信頼と企業価値を発展させるための重要な取り組みです。
まとめ
カーボンフットプリントとESGの関係、実際の導入事例を紹介してきました。
近年では、サステナブルな事業活動が求められる中、企業にとってカーボンフットプリントの管理は必要不可欠なものとなっています。
大企業が率先して推進をすることにより、サプライヤーに対してもカーボンフットプリントの管理は強く求められることでしょう。
本記事がきっかけで、カーボンフットプリントの理解が深まれば幸いです。