さる8月26日の朝、窓の総合商社、マテックス株式会社が運営する【HIRAKU IKEBUKURO01 SOCIAL DESIGN LIBRARY】(以下、SDL)にて、「窓にワクワクお絵描き体験」イベントが開催された。
NPO法人ブランディングポートの経験学習プログラム「B-CAMP」の参加学生が企画運営した、幼児から小学生までが楽しめる、このイベントの模様をお伝えしよう。
SDLは5月19日のオープン以来、ほぼ毎週、週末など時には連日、様々なイベントが行われている。
トークセッションやセミナーなど、ビジネスパーソンを対象とした内容を中心にしつつ、ハンドパンの演奏付きの朗読劇や、今回のような体験型レクチャーなど子ども向けのイベントも開催される。
ブランディングポートは子どもたちを含めた若年層を対象に、経験学習の場およびキャリア教育の機会を提供することを目的に2017年8月に発足。
「全ての若者に自分ブランドな生き方を」を合言葉に、通常は企業などと組み、大学生・高校生に地域貢献に繋がるプロジェクトを企画運営させたりしている。
幼児や小学低学年向けのイベントはこれが初の挑戦ということで、携わった学生たちも色々と試行錯誤を重ねた。
マテックスもブランディングポートも所在地は池袋で、両者を取り持ったのはSDL のファウンダーの一人で、としまNPO推進協議会代表理事の柳田好史氏だった。
マテックスの文化的拠点、SDLを舞台とする以上、同社の主な商材である窓、そして、社会デザインの意義を広める役割を持つ私設図書館のSDLが擁する本はキーノートになる。
これを子どもがどう楽しんで理解してくれるか。
今回参加した5名の学生たちは、同社でSDLの企画担当をする、事業統括本部部長の村山剛氏らと何回かミーティングを持ち、多くのヒントがそこからもたらされた。
窓の主要素材はガラスだが、それらも今や多種多様。子どもはどんなガラス=窓に共感するのだろう。
その答えがまさにイベントのコンテンツだった。取材する私自身、ガラスはこうも進化したのか、と驚く素材が子どもたちを喜ばすために扱われた。
イベントは2部構成で、第一部では窓のプロであるエコ窓普及促進会が、体験ワークを通じて、「エコ窓とは何か?」を教える。夏休みの自由研究にもつながるテーマだ。
そして、第二部では、子どもたちにお気に入りの絵本を持参させ、中でも好きなページを小さな窓枠内のガラスに描かせる。描いた作品はSDLのエントランスにしばらく飾られる、という寸法だ。
では、早速イベントの様子をレポートしよう。
第1部は題して「エコ窓ってなあに?」。
会場の端に用意されたのは2つのガラスの見本だ。一つは四方がガラス製のボックス。中にプラスチック製のペンギンの人形とぎっしり氷が詰まっている。
もう一つは上面にガラス板を張って、内部に電球を仕込んだ木箱で、直径5cmほどの鉄球がそこに載っている。ボックスの四面のガラスはそれぞれ種類が異なる。
通常の製品が1枚、一般複層(ペア)ガラス、真空ガラス1枚、同2枚重ねと変わり、屋内は空調が効いているとはいえ、すでに通常品を用いた面は結露で汗をかいている。
通常品や複層ガラスは内部の温度を外面にも伝え、ひんやり冷たいと同時にびしょびしょだ。
子どもたちはおっかなびっくり、各自に結露温度がステッカーで示されているガラスに手を伸ばす。通常だと8℃、複層だと−1℃、真空1枚で−8℃、その二枚重ねはなんと−23℃。真空ガラスの圧勝だ。
子どもたちからは「ヒヤヒヤ」「べっちょり」「あれ、冷たくない」などの声が一斉に漏れる。
まだ文字が読めない2〜3歳児でも、外面が冷えていないのが真空ガラスだと教えれば、触感がもたらす刷り込みで瞬時にその名を覚えてしまうだろう。
真空ガラスは魔法瓶と同じ「真空断熱技術」を利用した構造になっており、2枚のガラスの間の0.2ミリの真空層とガラスにコーティングされた特殊金属膜が、断熱性能を大幅に向上させる。
価格もペアガラスの2倍程度するが、この断熱効果を知れば、どちらがエコでお得かも了解できる。村山氏によれば、イベントは「商材の親御さんへのアピール」もそこはかとなく兼ねるのだ。
一方、鉄球が置かれていることでわかるだろうが、木箱のガラスは強化ガラス。鉄球を上から恐る恐る落とすと、バンと鈍い音がしてビリビリ震えるが、ガラスは無事だ。
真空ガラス同様、日本板硝子の製品で「ラミペーンシェルター」といい、やはり中間膜を設けて圧着させた合わせガラスで、割れにくく、割れても破片が飛び散らない。
防災防犯ガラスと呼ばれるカテゴリーの製品で、中間膜の効果で紫外線も99%以上カットする。
これらに触れてエコ窓について知ったら、第2部は「お気に入りの絵本を窓にかこう! 」。
ガラスに絵を描くための画材、日本理化学工業製の「キットパス」を使い、持ち込んだ愛読する絵本を手本に、思い思いの絵をガラスに描く。
子どもたちはみんな一心不乱に取り組んでいた。ガラスはシンプルな木材の額に嵌められていたが、これらを作ったのも村山氏なのだという。
ガラスに絵を描くといえば、昭和後期育ちは水森亜土のパフォーマンスを思い浮かべるかもしれない。
しかし、あちらはアクリル板に描いており、画材も油性マジックだった。
板はおそらく誰かが持って帰るか、処分されたのだろう。
ところが、今ではガラス(やホワイトボード、プラスチック等の平滑面)に絵を描く専用のクレヨンがある。キットパスは水で溶かせば水彩画も楽しめる、すなわち濡れた布で簡単に消すことが可能ということだ。
キットパスは2022年、主原料も従来のパラフィンから国産米を精米した米ぬかから取り出されるライスワックスに変え、乳児が誤って口にしても安全。
しかも、廃棄物同様の米ぬかの再利用法としても画期的だ。
ちなみに日本理化学工業は日本テレビの『24時間テレビ』内のスペシャルドラマ、『虹色のチョーク 知的障がい者と歩んだ町工場のキセキ』の原作のモデルとされた。
夢中でガラスに絵を描く子どもたちを眺め、幼い時分、ガラスにクレヨンでいたずら描きをし、母にこっぴどく怒られたのをふと思い出した。
子供心に画用紙より大きく、無色透明なキャンバスが欲しかったのだ。自分の拙い絵は外の景色を映し出す窓と同化していた。庭には四季を彩る花が咲き、芝生の緑が鮮やかだった。
そこに蝶や蝉やバッタを描いた。見上げれば青空が広がり、自ずとクレヨンの雲を沸き立たせ、鳥や飛行機を飛ばしていた。
イベントが終わり、親子に話を聞いて回ると、子どもらは異口同音に「楽しかった」。大人たちもまた口を揃えて、ご近所住まいなら「こんな場所が近くにできてよかった」、遠方から来たなら「ウチの街にもこんな場所が欲しい」。
集客に奔走した学生の一人、中央大学文学部の大西リナさんもそんな言葉に「苦労が報われました」と安堵の息をついていた。
地域に開かれたサード・プレイス。それがHIRAKU設置の最大理由だ。松本俊輔総務部長が最後にしみじみ語った言葉がいち早く現実となる日を待とうではないか。
「集まるメンバーに子どもも加わり、家族で通ってくれる場となれば。第二、第三のHIRAKUを我が社のゆかりがある土地に作っていきたい」