地方の企業が抱える人材不足や後継者問題、そして障がい者の就労機会――一見別々に見えるこれらの課題を、ひとつの仕組みでつなぎ直そうとする経営者がいる。
異色の経歴を持ちながら、多様な事業に挑戦し続けてきたセルフ・エー株式会社代表取締役大島公一氏だ。なぜ彼は数ある選択肢の中から「障がい者就労支援」と「事業承継」に力を注ぐのか。
その背景には、利益だけでは測れない“人の想い”を軸にした独自の経営哲学があった。
支援ではなく“戦力”へ……就労支援の“その先”を見据えて
東京都千代田区にオフィスを構えるセルフ・エー株式会社(2010年設立)は、障がい者就労支援施設や障がい者グループホーム(共同生活援助)の運営・管理の他、障がい者就労支援事業のコンサルティング、更にはEC事業、バイクやペット関連事業など多種多様な事業を行っている。
同社の創業者で現代表取締役の大島公一氏の経歴も異色だ。82年に金沢市で生まれ、中学校までをすごした後、高校を中退。17歳で上京し芸能関係の仕事を目指してホストクラブやダーツバーなど様々な職を転々とする。パチスロで生計を立てていたこともあったという。
「他にも投資関連の仕事に手を付けたり、イベントチケット販売や協賛先を探す仕事をしたり、光触媒を使った衛生管理商品の営業などなど……。個人事業主としてやっていたのでお金をもらえず、騙されたことも沢山ありましたね」と大島氏は当時を振り返って語る。
04年、22歳の時にブランド品の輸入事業を立ち上げ、ヨーロッパと日本を往復するようになる。09年には故郷北陸で運送業もスタート。併せて海の家の運営や中古車販売、土木作業員の派遣、マレーシアで産業廃棄物処理事業……。大島氏の経歴には枚挙に暇がないほどの仕事が並ぶ。
「自分が飽きっぽいからかもしれませんが、とにかく面白そうだと思った事業には色々挑戦してみました。人から『こういう事業があるよ』とか『困っている人がいるから助けてほしい』と聞いて、それに飛び込んでいくうちに数多くの事業をするようになっていましたね」
そう語る大島氏だが、現在セルフ・エー株式会社では障がい者就労支援がコア事業となっている。それはどうしてなのだろうか。
「以前、入札事業に携わっていた中で、基金訓練事業の存在を知った。介護職の資格取得のための研修を開催すると補助金が下りる、という制度を利用した事業なのですが、その後運送事業と自動車業を行った際に障害がある方から応募があった。
「会社運営をしていく中で、一つの事業に集中していてはリスクが大きい」。常々そう考えていた大島氏は、これを機に障がい者の就労支援事業にも取り組んでいくことになる。以来、現在では全国に113拠点、のべ6000人の障がい者雇用ネットワークを創出している。
「働きたい人に働く場を提供したい、という想いはずっと持っていたのでぜひやってみようと思いました。地方で事業をしていると、人口減少の問題は付きまといます、担い手がいないので会社を畳む人も多い。しかし地方でも働きたい人たちは存在する。そこを繋げていきたい。大事なのは障がい者と仕事をするノウハウですが、私たちがそれを提供すれば事業を継続することができるんです。
ただ同じように就労支援事業をやっている業者に目を向けてみると、国からの支援ありきになってるところも少なくない。私たちのこれからの目標はこれらの支援が無くても運営していけるように利益性を確保していくことです。そして障がい者でも就労支援施設に頼ることなく立派な労働力として社会に参加していけるような世の中にしたい。労働力の再設計を目指しているんです。そのためにも様々な事業を平行しつつ、全ての働く人たちが笑顔で楽しく生活できる方法を模索していきたいと思っています」
障がい者の方にEC事業に関わる作業をしていただくことで、就労機会を創出している
「この事業、どうにかならないか」……続けることで生まれる価値
障がい者の就労支援事業に積極的に取り組んできた大島さんが近年、力を入れているのが事業承継だと伺いましたが、なぜそこに着目したのでしょうか。
大島
事業を行っていると昔から『大島君、この会社どうにかならんかな』みたいな話が結構来るんです。一生懸命働き、寝る時間も削りながら会社を支えているのに、なかなかうまくいかなかったり、自分を犠牲にして従業員や取引先を守り続けている方の話をこれまで多く聞いてきました。
そうした現状を、何とかしたいと思った。人の想いや歴史が詰まった会社を潰さずに、事業を継続させるのはとても大切なことです。お金とか利便性の意味合いももちろんある。けれど資産価値を計算してM&Aをするかしないかを判断するより、そういう『想い』を前提とした事業承継があってもいいんじゃないか、と思った。
事業を続けてもらいたい、その願いからの事業承継であったり、障がい者の就労支援事業だと。
大島
お父さんとお母さん二人だけとか、ちょっと従業員がいるぐらいで運営している会社に、国からの支援も入る就労支援ができれば、人材不足が解消できるし、本業とは別の収入も得られる。歴史がある会社を自分の代で廃業しなくてもよくなる。極端な話し、小さなラーメン屋や定食屋でもいいんです。
それを事業承継と言うと俗人的に感じられてしまいますが、単純に後継ぎや働く人材の問題です。『長年愛された店が閉店します』なんてニュースが出ると、突然人が押し寄せたりすることがあります。閉店するのは残念だ、とそれまで来ていなかった人が集まって来る。
あなたたちがこれまで来なかったから閉店するのに、それをいかにも寂しい・残念と語られるのが私には納得いかない。それだったらその店を引き継いで続けていく人がいてもいいのではないでしょうか?。
もちろん、廃業するのは自由ですし、しょうがないこともあると思います。しかし店や会社があると、そこにコミュニティが生まれて、集まっている人々がいる。それが廃業することで消滅してしまうんです。
利益第一より、人々の想いを残していくことが重要だと。
大島
もちろん、従業員の生活を守ることや、支援を継続していくために利益は必要です。ただ、利益だけを追い続けることが正解だとは思っていません。私自身、利益だけを目的にするのであれば、この仕事を選んでいないと思います。
どんな人も受け入れられる余力を持っていたい。その余力を生み出すための環境整備や仕組みを考え、さまざまな選択肢をつくっていくことが、経営者の役割だと思っています。選択肢を知らないことで、行き場を失ってしまう人もいます。私たちの事業は、そうした状況に対して別の道や可能性を提供するためのものでもあります。 お店や会社には、人が集まり、そこでつながりや想いが生まれています。その価値は、利益や数字だけでは測れないもの。だからこそ、その場所がなくなることで失われるものは決して小さくないと思っています。
地域というお話がありましたが、金沢で事業をする意義についてお伺いします。
大島
私自身が10代から東京に出ていっていろんな経験をした後に、金沢に戻って会社を立ち上げた経歴がありますが、金沢に帰ってきて思ったのは『東京に行かなければならない理由はない』のではないかということ。地方に住んでいると東京がキラキラした世界に見えるので、夢を掴むために上京していくのだけど、行っても燻っている人も多く見てきました。
私は金沢に戻ってきた時、金沢最高!と思った。例えば資金1000万円を集めて事業を始めるとして、東京の1000万と金沢の1000万では価値がまったく違う。金沢で1000万でできる事業に、東京では数千万、ひょっとしたら1憶用意しなければならないかもしれない。それは金沢に限ったことではなく、どこの地方でも同じです。東京にはない、事業を行う利点が地方には隠されているんです。
地方の人口が東京などの大都市に流出することについてはどうでしょうか。
大島
石川県で言えば、能登で24年に震災が起き、復興しなければならないと言われてはいますが、しかし人口の流出は震災前からあったんです。能登の人たちはまず金沢市に出て来る。そこからさらに大都市へ行きたい人は、東京や大阪に行く。この人の流れはずっと以前からあるのに、ただ能登の復興を!と声高に叫んでいても、そもそも人が戻ってこない仕組みになってしまっている。
これもどこの地方でも同じだと思います。人口が減る→担い手のいなくなった企業が廃業する→雇用が無くなり人が流出して人口が減る、の悪循環になる。だからこそ事業を続けて人が集まる場を残していくことが大事なんです。
self-A のオフィスの風景
「自己実現」を掲げる企業のこれから
御社の社名セルフ・エーとは「自己実現」を表していると伺いました。その社名に絡めて今後の事業展開についてお伺いします。
大島
私には事業が拡大していく中で『このまま大きい会社になっても、その先に何があるのだろうか?』という疑問がありました。抱えている多数の社員を成績で序列し、利益を追求するいわゆる『大企業』になりたくはなかった。
それで社内コンペ『ドリームチャレンジプロジェクト』を2021年からスタートしました。これは叶えたい夢を応募してもらい、その夢を叶える資金的な援助をするものです。子どもにグローブを買ってあげたい、主人と旅行がしたい、ロードバイクが欲しいとかなんでもいい。
世の中には仮に10万円のボーナスをもらったとしても、現実を見てしまい、やりたいことにそれを使う選択肢がなく、生活費にまわす選択を取る人が人が大半だと思います。だから夢を実現できない理由が単純にお金なんだったら支援したい。大事なのはなぜその夢を叶えたいのか、叶えたらどうなるのか。それを応援したいので始めました。
大島さんは常に困っている人を応援している気がします。
大島
僕が感動を与えられる側ではないから、感動を与えられる人たちを応援したいという想いはありますね。
『大企業』が目標ではないとしたら、どういった将来像があるのでしょうか?
大島
ドリームチャレンジプロジェクトはお金がなくて実現できない夢を援助する、という気持ちでやっていますが、そんな活動をもっと拡大していきたいと思っています。
例えば奨学金。私自身は中卒ですし、夢を実現するために学歴が必要不可欠だとは考えていませんが、若い人が将来を拓くために必要なら、学費の援助もしてきたい。それで『大島奨学金』を考えたこともあるのですが、最終的にはこれまでの事業や活動を一まとめにして、『大島財団』みたいなカタチを作ってきたいと思っています。
大島
いや、それだって『財団』とカッコイイ名前がついていたら面白くない?程度の発想なんです(笑)。
ただもし私が死んだとしても組織の中に一つの血脈、定まった意志が残されていれば、今までの事業に通底してきた想いが受け継がれると思ったのです。それを残すための一つの方法が『大島財団』だと。
今後事業を拡大していくためには同じような想いを持った仲間が増えたらいいと考えています。同じような感覚を持った経営者や他の地域で活動している人と出会って、共に歩んでいきたいと願っています。

セルフ・エー株式会社
https://www.self-a.net/
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