
2027年度から、厚生年金の保険料負担が一部の高所得者層にとって増加する見通しとなった。これは、政府が成立させた年金関連法の一部改正により、「標準報酬月額」の上限が引き上げられることによる措置で、厚生労働省の推計によれば約243万人が対象となる。給与水準によっては月額9,100円超の負担増となる可能性もある。
「上限65万円」ルール見直しへ 現行制度の課題
厚生年金や健康保険などの社会保険料は、被保険者の月収を基にした「標準報酬月額」によって算出される。現在、厚生年金におけるこの基準額は、最低8万8000円から最高65万円までの32段階で設定されており、上限に達するとそれ以上の報酬であっても一律で「65万円」とみなされる。
健康保険では、より細かい段階区分とともに上限が139万円まで設けられており、報酬の実態に即した反映がなされている。一方、厚生年金では実収入との乖離が生じやすく、特に高所得者にとっては保険料と将来受け取る年金額との間にアンバランスがあるとの指摘があった。
7月の「定時決定」で決まる保険料 9月から反映
毎年7月には、会社員などの被保険者を対象に、「標準報酬月額」の見直しが行われる。この「定時決定」は、4月から6月までの給与を基に実施され、その結果は9月以降の保険料に反映される仕組みとなっている。
今回の制度改正により、現行65万円の上限が段階的に引き上げられることで、高所得者にとっては標準報酬月額の上昇とともに保険料負担が増す。一方、これまで上限により抑えられていた将来の年金額も、報酬実態に応じて増加することが期待されている。
最大で月額9100円の負担増も 対象は243万人
厚生労働省によると、現在の被保険者のうち標準報酬月額65万円超の層は約243万人に上る。これは男性の被保険者の約9.6%に相当する。この層が、今回の上限引き上げによって影響を受ける見通しである。
負担増の金額は報酬水準によって異なるが、月額で最大9,100円の引き上げとなる試算も示されている。企業にとっては、従業員の社会保険料の事業主負担分も増加するため、財務上のインパクトを伴う可能性もある。
改正の対象は高所得層 低・中所得者に影響はなし
今回の標準報酬月額上限引き上げは、高所得者のみを対象とする制度改正である。標準報酬月額が65万円未満の中・低所得者については、保険料や年金額への影響は一切ない。改正によって新たに創設される33等級(68万円)、34等級(71万円)、35等級(75万円)の等級は、現在の等級区分を超える層に限って適用される。
厚生労働省の説明によれば、制度改正の背景には「所得比例の原則に基づいた公平性の確保」がある。これまでは、報酬が上限を超えても年金額に反映されず、保険料の負担能力に見合った給付が行われにくい状態が続いていた。上限の引き上げによって、高所得者も応分の負担を行い、それに見合った将来給付を受ける仕組みへと改められる。
今後のスケジュールと確認ポイント
上限引き上げは、以下のスケジュールで段階的に実施される予定である。
年度 | 新しい標準報酬月額の上限 | 区分等級 |
---|---|---|
2027年9月~ | 68万円 | 33等級 |
2028年9月~ | 71万円 | 34等級 |
2029年9月~ | 75万円 | 35等級 |
新たな標準報酬月額の導入により、保険料の計算根拠となる金額が変更されることになる。対象者自身は、給与明細に記載される「厚生年金保険料」や「標準報酬月額」に注目し、保険料の変動を把握することが求められる。