「本業の年間昇給額」と「副業1案件」の衝撃

「本業で1年間、成果を出して勝ち取った年間昇給額は数十万円でした。でも、2024年に軽い気持ちで副業を始めたら、たった1つの案件でそれと同額を稼げてしまって。その時、自分のキャリアって本業だけでいいんだっけ?と考えさせられたんです」
現在、人材系スタートアップでCOO室長を務める傍ら、関連企業にも兼務出向しAI推進を担う上野雅博氏は、自身の体験をそう振り返る。
しかし、上野氏が立ち上げたプロジェクト「B-Side」の動機は、単にお金が稼げるという事実だけではなかった。そこには、アイレップ(現Hakuhodo DY ONE)、電通デジタルといった大手広告代理店、そして現在の事業会社スタートアップへとキャリアを歩む中で感じ続けてきた、ある強烈な感覚があった。
このまま本業だけでいいのかという「違和感」
上野氏は、自身と同じように大手企業で働く個人に向けてこう語りかける。

「いま大手企業で働いている人ほど、『このままでいいのか?』という違和感を、どこかで感じているのではないでしょうか。それは能力不足ではなく、むしろ環境が個人の専門性を十分に使い切れていないことから生まれる感覚です」
生産性が高い人ほど、本業を早く終わらせることができる。しかし、そこで生まれた「能力の余白」は、社外に価値提供する回路を持たないまま消えていく。今の現場にいる自分たちだからこそ出せる価値があるのに、それを使う場がない。 この「消える余白」を社会に還元するために、上野氏は「副業」の定義を再解釈する。
「副業は、会社を辞めるための準備ではありません。今いる場所に軸足を置いたまま、自分の専門性を再評価するための機会です。 一度、社外で価値を出してみると、不思議と本業の見え方も変わります。会社の看板がない状態で、自分の人間性と専門性だけで向き合ったとき、何が提供できて、何が足りないのかに気づける。会社に依存しすぎず、かといって背を向けるわけでもない。単なる”時間の切り売り”でもない。そんな働き方が、これからはごく自然な選択肢になっていくはずです」
原点としての「グロース支援」
上野氏にとって、組織の枠を超えて専門家を集めるという手法は、今回が初めての試みではない。その原点は、2019年に電通デジタル在籍時に立ち上げた電通及び電通デジタル公認のバーチャル組織「電通グロースハックプロジェクト」にある。
当時、上野氏は広告会社の枠組みを超え、スタートアップの成長を「請け負う」ためのバーチャル組織を組成した。そこにはPR、事業開発、エンジニア、データアナリストなど、部署横断的に多様なプロフェッショナルが集結していた。
一人の担当者が全てを抱え込むのではなく、フェーズや課題に合わせて最適な専門家がチームを組んで解決に当たる。この成功体験が、会社という境界線すら取り払った現在の「B-Side」の構想へとつながっている。
「丸投げ」が生む空洞
なぜ今、こうした動きが必要なのか。上野氏は、現在の日本のビジネス構造が抱える「知の停滞」に警鐘を鳴らす。 日本は人材流動性が低く、転職が少ない社会だ。そのため、専門性が会社という箱に固定されてしまう。結果、事業会社の中にノウハウが生まれず、代理店への依存が深まっていく。
しかし、代理店に丸投げしても、レポートは納品されるが「どう考えるべきか」という思考プロセスまでは社内に根付かない。

さらに、そこには歪みも生じる。高額な大手コンサルは理論は美しいが現場から遠く、実行時に壁にぶつかることがある。一方で、一般的なフリーランスや副業人材は案件数を追う傾向にあり、本質的な課題解決に至らないこともある。加えて、提案に来た優秀なパートナーと実際に手を動かす担当者が違う「担当者ガチャ」も発生しがちだ。
内製化が進まず、知見が特定の外部企業に固定され続ける。この悪循環を断ち切るために設計されたのが、B-Sideという仕組みである。
現役インハウスという武器
B-sideが掲げる定義は明確だ。全員が現役インハウスであり、コンサル経験を持ち、「リファーラル(紹介制)」でつながっていること。参画メンバーのバックグラウンドは多岐にわたる。電通、博報堂といった大手広告代理店出身者から、Google、Yahoo!Japan(現LINEヤフー)、アクセンチュアの出身者まで、名だたる企業の最前線で経験を積んだ猛者たちが集う。
職能も、戦略コンサルタントやストラテジックプランナー、UXコンサルタントといった上流工程から、デジタルマーケティング、フルスタックエンジニア、データアナリストといった実装部隊まで網羅されており、サービスを作ることも、広めることも、使わせることもできる盤石な布陣だ。
彼らの最大の強みは、現場の制約条件を理解している点にある。予算、人、時間。事業会社の中には無数の制約があることを彼らは骨身に沁みて知っている。だからこそ、高額コンサルのような空理空論は提案しないし、無駄な資料も作らない、その上Feeも低く抑えられる

これは世界的潮流である「マイクロコンサルティング」の実践でもある。企業は大規模な契約ではなく、特定の専門知識に対し、柔軟に、小さく、早く知見を求めている。 実際、B-sideでは現在、広告代理店のSEO/AEO(AIエンジン最適化)事業の内製化支援や、AIを活用した爆速開発の内製化プロジェクトなどが進行している。
導入ハードルは高いが大手コンサルに頼むにはコストが合わない領域に、現役の実務家たちが「マイクロ」に入り込むことで、劇的な変化を生み出しているのだ。
雇用を「接続点」に変える
B-sideが目指すのは、単なる副業マッチングではない。雇用を「囲い込み」から「接続点」へと変える社会実験だ。
副業は、ある種の「プチ転職」と言える。会社を辞めることなく、外部の知見を組織に取り込み、また個人の知見を社会へ還流させる。B-sideは、企業と個人の新しい接続点として機能しようとしている。
メンバーは本業で生活基盤があるため、無理に高額なフィーを請求する必要がない。現場最前線の生きた知見を適正な価格で提供できるため、一般的な代理店に発注するよりもROI(投資対効果)が高くなる可能性を秘めている。
最後に上野氏は、こうした副業人材を活用しようとする企業に向けて、熱く提言する。

「副業人材を活用するというのは、単に『人手を補う』ことだけではありません。社内にない視点や判断基準を、一時的に組織の中に取り込むことです。 フルタイム採用や大手コンサルでは重すぎる、でも社内だけでは答えが出ない。そうした『判断に詰まる領域』こそ、副業人材が最も力を発揮します。重要なのは、実行を丸投げすることではなく、『どう考えるべきか』『どこで線を引くべきか』を一緒に決めること。そのプロセスが残ることで、初めて専門性は社内に蓄積されます」
「副業人材の活用は、テイの良いコスト削減策ではなく、組織の学習速度を上げるための投資です。短期間でも質の高い意思決定を積み重ねられる企業ほど、変化に強くなっていくはずです」
B-Side紹介スライド:https://docs.google.com/presentation/d/1I3vvKfN_oovY9fSoLylTPbcTz49RqiF5UEkkyVw2VQU/edit?usp=sharing
B-Side公式サイト:https://bsidejobs.com/about




