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阪南倉庫株式会社

https://capsohn.co.jp/

〒590-0959 大阪府堺市堺区大町西3丁2番3号

072-232-0267

女性が倉庫を変えた  阪南倉庫「男女比50%」の現場はどのようにして生まれたのか

ステークホルダーVOICE 社員・家族
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阪南倉庫、車両手配をする女性社員たち
阪南倉庫、車両手配をする女性社員たち

大阪・泉大津の内陸部に、2万坪の物流拠点が立ち並ぶ。

その内部では、倉庫業界の常識とは明らかに異なる光景が広がっている。フォークリフトを操る女性、配車業務を担う若手女性社員、そして年齢の若いスタッフたちが軽やかに行き交う姿だ。

数字にして男女比はほぼ11。従業員数は約235名(2025年時点)で、平均年齢は38歳前後というから、倉庫現場の一般的なイメージとは大きくかけ離れている。

だがこの職場は、偶然こうなったわけではない。

40年にわたり続けてきた現場改善、採用方針の転換、そして“人を中心に置く”という経営思想の積み重ねが、静かにこの光景をつくりあげてきた。阪南倉庫に話を聞くと、その変化の過程がじわりと浮かび上がってくる。

 

南大阪に根ざした倉庫会社が歩んできた道のり

阪南倉庫 女性スタッフ

阪南倉庫は、1914年に堺市で創業し、その後も地元の堺で事業を展開してきた。

1981年以降、大阪港と関西国際空港の中間に位置する泉大津市に2万坪の倉庫を構え、長年、南大阪を支える物流基盤として地域産業に寄り添ってきた。

営業部の泉博之部長は、同社の特徴を穏やかな口調で語った。

阪南倉庫泉さん
泉さん

「地元の高校や大学から採用を続けています。若い人が多い職場で、男女比も自然と半々に近づきました。倉庫業としてはかなり若い会社だと思います」

直近の年商は28億円(2025年3月期)で、地場企業として安定した運営を続ける。

輸送や通関は協力会社やグループ企業が担い、同社は“陸側の倉庫”として保管・加工・情報連携を核に据える。この“地に足のついた立ち位置”こそ、同社が変化を堅実に積み重ねられた理由でもある。

阪南倉庫 女性社員

変革の源流にいたのは、歴代社長の「働く人を中心に置く」という思想

阪南倉庫の現場改革が始まったのは、約40年前。当時の社長が、「力任せの作業では未来がない」と見抜いたことが端緒だった。そこで導入されたのが、同社の根幹になる「五ない主義」である。

持たせない・歩かせない・探させない・考えさせない・待たせない。

重量物を人が運ばなくても良いようにレーンを敷き、天井ホイストを整備し、可動式台車や自社開発の在庫管理システムを導入した。人の体力に依存しない現場をつくることで、作業品質の安定化、事故リスクの低減、そして“誰でも働ける環境”が整っていった。

この思想は、現社長・堀畑浩重氏にも受け継がれた。堀畑氏は「現場が働きやすくなれば、会社は自然と強くなる」という考えをしなやかに持ち続け、改革を一度も止めなかった。

その象徴が、2020年に若手主導で策定した「ビジョンマップ」だ。企業理念を若手社員の視点で再度つくり直した取り組みは、倉庫業としては極めて珍しい。

泉氏はこう話す。

「社長が“人を中心に置く”という考えを大事にしてくれているからこそ、若手が自然に意見を言える雰囲気が生まれています」

堀畑氏の思想は、現場の細部にまで確かに息づいている。

 

“男女比50%”は偶然ではなく、設計思想がつくった必然だった

五ない主義の導入後、倉庫現場は徐々に“力仕事の職場”から“誰でも働ける職場”へと変わっていった。

人が歩き回らなくていい導線、荷物を持ち上げない設備、失敗しにくい作業手順。こうした積み上げが、女性の採用・定着を自然と後押しした。

総務部の課長代理、上野紀氏は次のように語る。

阪南倉庫 上野さん
上野さん

「力任せの作業が減ったことで女性が増え、結果として作業が丁寧になり、パレットや商品の傷も減りました。現場の品質そのものが上がったんです」

“女性が入れるようにした”のではなく、“女性がいたほうが現場がよくなる”構造が静かに生まれていった。

現場の声が現場を変える 改善提案文化の成熟

阪南倉庫 いただきます ごちそうさまでした賞受賞の様子
阪南倉庫 いただきます ごちそうさま賞受賞の様子

阪南倉庫の改革を支えてきたもう一つの柱が、改善提案制度「いただきます・ごちそうさま賞」である。

制度は派手ではないが、“日々の仕事のしんどさ”を改善する提案が確実に形になる仕組みだ。

例えば、ある現場では段ボール梱包の形状と材質の見直しが提案された。作業時間は1ケース50秒から15秒に縮み、資材単価は162円から98円へ。大量出荷時には1,000ケースで約9万円の改善効果になる。

また、ピッキング・仕分け・梱包を1台の台車で完結させる動線の再設計により、23坪のエリアを保管スペースに転換でき、年間100万円を超える価値が生まれている。

これらはすべて、現場から出た声が起点となったものだ。

堀畑社長が“現場が働きやすくなれば会社は強くなる”と説くのは、この積み重ねが社員の働き方と企業価値を同時に押し上げていることを知っているからだろう。

2.8トンの積み重ね  環境整備を文化にした「きれいで賞」

阪南倉庫 きれいで賞受賞の様子
きれいで賞の受賞の様子

さらに、同社独自の文化として根付いているのが「きれいで賞」だ。

2014年の開始以来、毎月各営業所で集めたごみを計測し、1kgあたり1,000円として会社が営業所に還元する仕組みで、累計回収量は2,810.39kg、還元総額は280万円超に達する。この取り組みは単なる美化活動ではない。

通路が整い、棚卸しや作業がしやすくなり、事故リスクが減り、働く人の心理的安全性が高まる。特に女性にとって、清潔で整った現場は働き続ける重要な理由になる。

 

若手の感性が会社の未来を形づくる

若手社員が中心となって、2019年に構想開始、2020年に完成・配布した「ビジョンマップ」には、

VISION:多様な仕事を設計する倉庫
MISSION:社会を繋ぎ、支える。
VALUE:信義・誠実・共栄


と掲げられている。

現場を知る若手の声を中心に理念を再構築する取り組みは、社長の「人を中心に置く」という思想の延長線上にある。

このビジョンにより、阪南倉庫は従来の「モノを動かす会社」ではなく、顧客・従業員・商品・未来の流れを“設計する会社”へと進んだ。

若手女性社員の声が示す“いまの阪南倉庫”

若手女性社員・星理賀氏の話は、いまの阪南倉庫を象徴するものだった。

阪南倉庫 星さん
星さん

「倉庫は男性の力仕事だと思っていました。でも見学すると、設備が工夫されていて無理なく働ける。若い人も女性も多く、安心して働けると感じました」

星氏は新人時代、トラックの配車業務も担当した。かつてはベテラン男性が担う仕事だったが、同社では情報システムによって属人性が薄れ、若手でも担える。

泉氏は「女性の方が調整が丁寧で、運送会社とのやり取りがスムーズになる場面も多い」と語る。
女性が“入れる”だけでなく、“活躍する必然”がこの現場にはある。

静かに、しかし確実に続いていく変化

阪南倉庫の改革には、劇的な瞬間はない。
あるのは、十年単位で続いた「働く人を中心に置く倉庫づくり」という姿勢だ。

五ない主義で現場が変わり、改善提案で声が形になり、環境整備が文化となり、若手が未来をデザインできる職場になった。

そしてその中心には、歴代社長が貫いてきた“人を大事にする思想”が確かに息づいている。 南大阪の倉庫で静かに続いてきた40年の変化は、これからの働き方を考える上で、ひとつの大きなヒントになるだろう。

阪南倉庫 運動会の様子
運動会の様子

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。株式会社東洋経済新報社ビジネスプロモーション局兼務。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。 連載:日経MJ・日本経済新聞電子版『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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