企業とは、個と組織の絶妙なる均衡の上に成り立っている。
事業の成長サイクルは、幼年期、成長期、成熟期、衰退期という4つのフェーズがあるが、短期間に企業全体の急成長と衰退、そして立ち上げを経験した人事経験者は極めて珍しいだろう。
2021年7月にAdecco Group Japanに新たな戦力として迎えられた古河原久美さんは、その経験値を宝とし、ゼロイチで生み出すカスタムメイドのコンサルテーションを展開していく。
時にはクライアントに伴走し、また自走を助ける。今回は、古河原さんに粘り強くしなやかな適応力に富んだ新たなチームの取り組みを伺った。
Adecco Group Japanが手掛けるコンサルティング
Adecco Group Japanのコンサルティング部の業務内容について聞かせてください。
古河原
HR領域の課題として思いつくだろう諸問題のほぼ全領域をカバーしています。例えば、「人材不足」という会社に対して、人を紹介するのが一般的な紹介会社だと思います。
でも、これでは問題に対しての応急処置に過ぎないケースもあります。人を必要とする根本の要因や人手不足に陥る構造を見出し解決すること。それがコンサルティング部の仕事になります。
人事制度を設計することはもちろん、それを実装していくことをハンズオンで行っていくケースもあります。従業員の育成に悩んでいるクライアントに対しては、育成の仕組みを構築することから支援します。
また、社員のエンゲージメント向上が求められるケースでは、エンゲージメントを向上させるための組織開発支援も行います。
組織・人事といったHRに関するすべての課題の解決を行います。その際、クライアントの悩みや課題に徹底的に寄り添う伴走型のコンサルティングを心掛けています。
古河原
人財サービスのグローバルカンパニーである、Adecco Groupの総合力を生かせることでしょうか。もうひとつは、コンサルという言葉で想起される、戦略や運用設計レベルの提案仕事に留まらないことです。
制度や仕組みの設計だけではなく、それらの仕組みをクライアント自身が効果的に運用できる状態にすることまでが、弊社の役割だと考えています。
そのためには、社内での浸透を見据えたクライアント目線での細やかな運用設計、クライアントへのノウハウ提供や育成、そしてプロ人財の紹介・派遣等を通した実装、定着までの伴走支援が必要になります。
クライアントが抱える課題に対して適切なソリューションを見出し、私たちの支援が終わった後、クライアントが自走できる状態を作りだすこと。
私たちがビジョンとして掲げる「人財躍動化」を真に体現するには、その段階まで徹底して伴走していくことではじめて成せるものだと考えています。
世界最大級のHR会社のリソースをいかすことができ、単に人材の紹介に留まらない。制度設計を作って終わりではない。トータルで支援ができますよ、ということですね。
古河原
我々の強みは、個と組織の両面であらゆる方向からの支援ができることです。様々な人材ソリューションの実績や体制を備えています。
ただ、それでもクライアントの全ニーズに対応しきれてはいないと考えています。私たちコンサルティング部は、その最後のミゾを埋める存在になることを目指しています。
古河原
Adecco Group Japanは一万数千社という顧客基盤を有しています。
営業担当者から、「組織人事に何かしらの課題がありそう」というクライアントの情報をキャッチしたら、我々の部署に繋いでもらう流れができています。
また、今後は情報発信やデジタルマーケティングなどにも積極的に関わっていきたいと考え、部内に営業戦略チームも新設しました。
案件化に際して心掛けていることは、クライアントも気づいていない、本質的な課題を掴むことです。
例えば、クライアントが求める人財像を明らかにする段階で、「なぜ、そのスキルをもった人財を必要とするのか」といった「なぜ」を丁寧にヒアリングしていきます。
また、全ての人事課題は複雑に絡み合い繋がっているものなので、採用がうまくいっていないという相談だとしても、手法や人財要件、フェーズごとに問題はないのかということに加え、条件や報酬、入社後の育成やマネジメント、定着など、様々な角度で課題が隠れていないかを考えます。
クライアントが相談を持ち掛けてくる段階では、単に「人材不足」といった、すでに顕在化している課題のみのケースが多いです。通常の人材会社であれば、単に人をご紹介して終わりかもしれません。
しかし、当社にはHRのプロフェッショナルが揃っており、全員があらゆる組織の人財を躍動化するために仕事に取り組んでいます。
クライアントが人材不足に陥る構造や要因を見出し、問題の本質を明示して、一緒に課題解決を行う存在であることを常に意識しています。
コンサルと人事畑の”アベンジャーズ”
コンサルティング部には、どのようなメンバーがいるのでしょうか。
古河原
基本としてAdecco Group Japanのビジョンである「『人財躍動化」を通じて、社会を変える。』に共感している者たちで構成されています。一人ひとりが本気で「人財躍動化」を実現したいと思っています。
経歴としては、コンサル畑を歩んできた者が多いです。大手外資コンサルから、ブティック系のコンサルファーム、人材開発系専門コンサルなど全員コンサルの経験があります。
同時に、私のようにHR領域からの出身者もまざっての混成チームとなっています。戦略の提案から人事の現場経験が問われる実行フェーズまで両方の経験を有していることが特徴です。
2022年8月現在 20名のチームで、この先も拡大を続けていきます。
cokiのテーマが持続可能な社会づくりに寄与する取り組みの紹介サイトなのですが、ESGやSDGsを意識することはありますか?
古河原
最近では、ESGやSDGsがメガトレンドとなっています。財務資本だけではなく非財務資本が注目されるようになり、今後この流れはより顕著なものになると考えています。
そのような状況を踏まえ、コンサルティング部の柱の一つとして、人的資本の開示に関わるコンサルティングを行うことを視野に入れて2021年より準備を進めてきました。
人的資本についてどう考えるか。これは、企業の根幹にかかわる部分ですので、各企業が人という資本についてどう考えどう扱うかという土台からしっかり支援したいと考えています。
人的資本の開示はもちろん、人と組織を総合的に診断し、躍動化する組織への変革を一緒に作っていくことを描いています。
実際に私を含め、ISO30414リードコンサルタント / アセッサーを有していているコンサルタントは、当社には7名おります(2022年9月現在)。
この後も順次取得予定でこの先特に力を入れていきたいと考えています。
古河原さんが辿った変遷
コンサルティング部のメンバーがどういった背景をもつチームなのかを理解しました。ところで、古河原さんはどういった経歴を歩んできたのでしょうか。
古河原
Adecco Group Japanには、2021年7月に組織開発・人材開発・人事企画・採用における戦略・実行を専門とするコンサルタントとして入社し、2022年6月から部長を務めています。
大学卒業後、証券会社にて役員秘書としてキャリアをスタートしましたが夫の転勤に伴い渡米する際、「退職」か「別居」の二者択一を迫られた当時の人事制度に疑問を持ち、人事というキャリアを本格的に目指すきっかけとなりました。
米国でビジネススクールを卒業後、大手商社米国法人に勤務し、帰国後2016年10月より当時急成長をしていたメガベンチャーと呼ばれるIT企業に採用担当として入社しました。
ところが、入社早々業績の悪化により採用はストップ。退職者は毎月100名以上に及ぶようになり、入社後数か月で企業の危機に直面しました。
そこで人事全体の機能を見直し人財開発チームを立ち上げ、経営者と喧々諤々と議論をしながら社員の能力開発、マネジメント機能の正常化、エンゲージメント向上を実現し、会社を復活させようと尽力しました。
2019年に分社化され、私は人事関連事業の新しい会社に移り、1,700名規模の会社の人事をゼロから立ち上げる体験をさせてもらいました。
ミッション・ビジョン・バリュー策定と浸透、人事制度の策定、育成体系の構築、そして各育成プログラムやコンテンツの企画など、ハードの部分からソフトの部分まで150ほどの項目の施策を設計・実施し、長期的な視点でどういう会社にしていくのかを社員たちとコミュニケーションを取っていきました。
お蔭様でその結果、2021年に「働きがいのある会社」において大企業部門ベスト10に入賞することができました。
そこで次のステップは、この経験を世の中の多くの会社に展開したいと思い、コンサルティング部の立ち上げメンバーとしてアデコに入社を決めました。
コンサルティング部立ち上げ時のエピソード
コンサルティング部の立ち上げにあたり、何がミッションとして与えられましたか?
古河原
「人財躍動化コンサルティング」という全く新しい事業を立ち上げるため、どのような組織を目指し、どのようなビジネスやソリューションを展開し、どのような人材を採用するか、本当に何もない状態から考え作り上げていくことに面白みを感じました。
以前コンサルティング事業を立ち上げようとしたが、なかなかうまくいかなかったという話も聞いていたので、スタート直後は、最初の半年くらいの成果で今後のこの事業自体の存続が決まるだろうと覚悟を決めていましたが、来年コンサル部自体が存続していないかもしれないという不安は常にありました。
少数での立ち上げでしたので、目の回るような忙しさが続きました。
ただ、「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」というAdecco Group Japanのビジョンへの共感や、経営からの大きな期待、そしてやりたいことが確実に形になっていく手ごたえがありましたので、必ずうまくいくだろうという自信もありました。
入社したとき、社内では「個人の躍動化」についてはコンセンサスが形成されていたものの、「組織の躍動化」については統一された見解が確立されていませんでした。
そこでコンサルティング事業戦略を立てるためにも、コンサルタントとしての提案やデリバリーと並行しながら、「組織の躍動化」を定義し、会社としての承認を得るということを初期の段階で行いました。
「組織の躍動化」は具体的にどのように定義されたのですか?
古河原
最終的に「ビジョン・やりがい・働きやすさ」の3つの要素をベースに規定しました。弊社はビジョンを非常に重要視していて、ビジョンマッチング(*1)という言葉を大切にしています。
組織のビジョンと個人のビジョンを丁寧にヒアリングした上で、高次元でマッチングしていくこと。「ビジョン」という原動力をもった組織があって、はじめて「やりがい」や「働きやすさ」、をつくっていけると考えています。
※1「ビジョンマッチング」:企業と求職者の双方を深く知り、お互いの想いや価値、ビジョンなど求めているものの共通点を少しでも多く見出し、マッチングさせる
※2「適財」:キャリアビジョンが明確となり、VUCAの時代に必要とされる多様なスキル・能力の向上を実現する人財を輩出する
※3「適所」:全ての組織で働く人財が、ポジション・働き方・雇用形態などに関わらず、組織のビジョンに向かって躍動化できる環境を創出する
コンサルティング部 クライアントからの評価
クライアントから実際にどのような評価をもらっていますか。
古河原
大手企業の戦略子会社立ち上げフェーズの人事戦略アドバイザーとして関わったあるユースケースです。当初は、採用や人事制度運用プロセス構築からお仕事が始まりました。
クライアント組織へ深く入り込む中で、様々な組織・人事課題が見つかり、そこから次々と具体的な解決方針を提案していきました。
最終的には人財派遣、タレマネシステムの選定と導入、研修プログラムなど、ご支援を開始してからの約1年の間に1企業で8件ほどのプロジェクトを受注するに至った例があります。
その後、「会社立ち上げ時に大手人事コンサルが設計した評価制度よりも、一番自社を理解してくれているAdecco Group Japanさんに評価制度を作り直してほしい」ということで、人事制度改革プロジェクトの大型案件も受注しました。
また、競争倍率の高いIT人財の採用支援を行ったあるIT関連のクライアントからは、「Adecco Group Japanさんがいなかったら数十名規模の採用は不可能でした。
この半年で人材採用ができる体制が整いワンチームとして一緒に働けたことに感謝しかない」というお言葉を採用担当の方からいただきました。
クライアントからのありがとうの言葉は嬉しいですよね。
古河原
ちょっとしたご相談もいただきますし、課題が見つかればプロジェクトとして新規提案する場合もあります。我々は社員数20人規模から20万規模まで、様々な規模の企業にサービスを提供しています。
お客様から人事組織のことだったらなんでも相談できると言っていただけることは嬉しいですね。
クライアントの対象範囲が広いですね。事業規模の小さな会社の支援も行うのですね。
古河原
企業規模で顧客を選ぶことはしていません。ある家族経営の電子部品製造業の顧客からは、社員を巻き込んだビジョン策定の支援についてご相談いただきました。
経営者から従来のビジネスモデルを捨ててでも変革していくという熱量を感じましたので、もし弊社が関わることによってこの企業が元気になり、この事例が日本の中小企業を元気にできるならば、その影響は大きく、「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」というビジョンの実現に直結すると考えています。
さまざまな産業セクターのクライアントに関わらせていただいたことによって、私たちに望まれているのは、中長期での「人事部の育成」なのだということが見えてきました。
人事部が自立して自走できる状態を伴走しながらご支援していくこと、それをAdecco Group Japanの総合力を活用して展開します。
古河原
ある大手メーカーの子会社の支援をさせていただいたのですが、子会社の事例をご覧になった親会社の担当の方より「うちにもぜひ支援をしてほしい」という依頼をいただきました。
現在は、子会社ごとに行っている採用において、グループ全体での最適化を図るための調査やプロセス構築、人権デューディリジェンスに関するコンサルティングなど、多岐に渡る支援を伴走型で提供しています。
他にも様々なソリューションや事例を構築中です。採用、組織開発、人材開発、人事制度、その他各人事領域におけるスペシャリストを育成しながら、多くの案件に対応しています。
例えば人財開発だと育成体系構築など大きなプロジェクトもありますが、マネジメント研修やリーダーシップ研修、面接官トレーニングといった比較的簡単に導入できるソリューションも数多く用意しているので、多くの企業から引き合いがあります。
コンサルティング部 今後のロードマップ
今後どのようなロードマップを描いて行きたいですか?
古河原
「人財躍動化」を実現するための、「適所」創出は、2025年までに会社が目指している最も力を入れなければいけないテーマの一つです。
コンサルティング部として人財躍動化ソリューションを多く生み出し、組織の躍動化を次々に実現していくと同時に、 “人事・組織のトータルサポートならAdecco Group Japan”というイメージを発信し、社内外のイメージを変えていきたいと思っています。
ありがたいことに、ビジネスは順調に推移しています。2025年コンサルタントを50名規模まで拡大していくことを想定しています。
「人財躍動化」の実現に向けての今後のコンサルティング部の躍進に期待をしています。本日はありがとうございました。
古河原さんにお話を聞く中で、前職での経験値の大きさを感じた。成長企業の人事職に身を置いた局面もあれば、逆に後退フェーズの仕事も体験している。かと思えば一からチームを組成した経験も持ち合わせている。
人事職のありとあらゆる局面を経験してきた経験から、人を扱うことやチームを組成していくことの難しさや喜びを我が身で体験したのだろう、学んできたのだろうことを想像させる。クライアントの立場に丁寧に寄り添える人は貴重だ。
潜在している課題の輪郭を描いて見せ、解決に向けて共に歩調を合わせることができる存在。古河原さんにはそれができると感じた。では、他のメンバーはどうだろう。これは今後お話を聞いてみたいところだ。
HRのあらゆるソリューションを備えたアベンジャーズチームとして、クライアントのトランスフォームを伴走支援していく存在。これを文字通り体現していくことは本当に難しいだろう。
しかし、アデコは「人財躍動化」を掲げる会社だ。
単なる人材派遣・人材紹介の会社ではないことに自社の存在意義を見出している。クライアントを躍動化させるというのは、言うは易く行うは難しの道だろう。
それでも、SDGsの誰一人取り残さない、皆が幸福を見出せる社会の醸成を考える時に、個と組織のビジョンがマッチングし、人が躍動化する場の必要性を思う。その意義は大きく、ぜひ体現してほしい。(加藤俊)
◎プロフィール
古河原久美(こがはら・くみ)
2007年大学卒業後、大手証券会社に入社。結婚を機に退職、米国へ渡米し現地にてMBA取得、大手総合商社の米国法人にて勤務。帰国後、2016年より大手IT企業にて幅広い人事課題解決に取り組む。2021年7月Adecco GroupにHRコンサルタント及びコンサルティング事業の立ち上げメンバーとして参画。2022年6月より現職。