廃墟からまちの未来へ 「ミナカミ・ミライ・マルシェ」開催へ 産官学金が連携、再生と観光を融合した新たな地域共創イベント

利根川源流の温泉地として知られる群馬県みなかみ町で、廃墟再生を軸にした地域活性イベント「ミナカミ・ミライ・マルシェ −水上温泉 廃墟再生ストーリーズ2025−」が10月11・12日の2日間にわたり開催される。主催はミナカミ・ミライ・マルシェ実行委員会で、共催にはみなかみ町、群馬銀行、オープンハウスグループ、そして東京大学大学院都市デザイン研究室が名を連ねる。
昨年の開催では2日間で延べ4500人が来場。廃墟を舞台にしたユニークな試みが注目を集め、今回はその発展形として「未来のまちづくり」を掲げて開催される。
「10の小さなマルシェ群」が温泉街に点在

水上温泉街1.5kmにわたる範囲を舞台に、かつての宿泊施設や工場など10カ所の再生拠点がマルシェ会場となる。それぞれが独自の物語をもつ建物で、すでにリノベーションされた施設から再生途上の廃墟まで、多様な表情を楽しむことができる。
地元の飲食店やクラフト作家など60を超えるブースが出店予定。地元食材を使った料理や雑貨、アート、展示など、地域の文化を体感できる。訪れた人はJR水上駅から道の駅「水紀行館」までの約1.5kmを、ゆるやかにめぐりながら各会場を楽しむことができる仕組みだ。
東京大学と産官学金の協働で「旧一葉亭」再生プロジェクト進行中
今回、東京大学大学院工学系研究科都市デザイン研究室を中心とする産官学金連携による再生プロジェクトが進む大型廃業旅館「旧一葉亭」も会場のひとつとして暫定開放される。建物の減築や再生が進む現場で、廃墟の内部構造や再生の過程をガイド付きで見学できるツアーが実施される。

また、アートイベント「おためしオープンアトリエ」を重ねてきた「旧ひがき寮」では、ハロウィンをテーマにしたクラフト・アップサイクル企画やキャンドルナイトが行われる。廃屋をリノベーションした複合施設「MIDORI SOW」では、「農場の感謝祭」をコンセプトに、地域農家と来場者がつながる場をつくり出す。
スローモビリティや地域通貨も導入 まちづくりの実験の場に
マルシェ期間中は、群馬大学とみなかみ町の共同研究として電気バス「eCOM-10」を運行し、環境負荷の低い「スローモビリティ」の社会実験を行う。JR水上駅から旧一葉亭、道の駅水紀行館を結ぶルートで、ゆったりとした移動そのものを楽しむ仕掛けだ。
また、地域通貨「MINAKAMI HEART Pay」を活用したデジタルスタンプラリーも展開。10拠点を巡ると500ポイントが付与され、地域アプリ「ことつて」を通じて利用できる。さらに、大正期に建てられた「木榑家の土蔵」も特別公開され、地域の原風景を感じられる空間として来場者の休憩所となる。
「廃墟は未来の種」 東京大学が描く地域再生の実装モデル
「廃墟再生マルシェ」は2022年に始まり、年を重ねるごとに会場数・来場者ともに増加してきた。イベントを通じて、空き家や廃業施設が新たな観光資源となり、地域の若者や移住者が活動の場を得ている。
東京大学の関係者は、「研究室の取り組みとして、地域が主体となる再生プロセスをいかに社会実装できるかを模索している」と語る。かつての温泉街の面影を残しながら、地域の新しい文化や経済が芽吹く「まちの再生」の物語が、今年も水上で紡がれていく。