
何が起きたか 8/7の申立て
大阪府寝屋川市が「特区民泊」からの離脱を表明し、8/7付で大阪府に区域認定の廃止を申し立てた。府を通じて国が手続きを進める段取りである。
関西テレビによると、府内では訪日客の増加を背景に実施可能エリアが広がってきた一方、大阪市ではごみや騒音などの苦情が相次ぎ、住環境の悪化が問題視されてきた。寝屋川市はこの状況を踏まえ、住民の安心を最優先に据えた政策転換に踏み切った。
市長の狙い 「住宅都市」ブランドを前面に
広瀬慶輔市長は「本市に暮らす人の満足度を最大化するまちづくりの方向性と、旅館業法の規制を緩和して旅行者を受け入れる特区民泊の方向性は大きく異なる」「住宅都市としての新たなブランド構築に取り組む今の寝屋川市には特区民泊は不要と判断した」と述べた。観光需要の取り込みよりも、定住志向の市民が安心して暮らせる街の価値を磨く方針を明確にした格好である。
手続きと既存施設 廃止届で個別に整理
離脱は市→府→国の順に認定廃止が進む。すでに認定済みの施設については、事業をやめる際の「廃止届」の仕組みがあり、個別に手続きが整えられる。発効日や経過措置は今後の確定を待つが、運用上の出口は制度内に用意されている。
なお共同通信配信では、寝屋川市内での特区民泊認定は2019年度に2件とされ、件数自体は大きくない。今回の離脱により、市の運用は住環境重視へと一本化される見通しである。
仕組みの要点 特区民泊と民泊新法の違い
制度の違いを押さえると判断の背景が読みやすくなる。特区民泊は最低滞在が2泊3日で、年間の営業日数に上限がない。住宅宿泊事業(いわゆる民泊新法)は年間180日上限という枠があり、条例で期間制限を加える自治体もある。
特区民泊は「外国人旅客に適した施設」を要件とするが、利用者の国籍は問わない。地域の住宅事情や騒音・ごみ対策の体制に応じて、自治体がどの枠組みを選ぶかが政策の分かれ目になっている。
受け止めと広がり—住民の声、海外の動き、今後の焦点
神戸国際大学の中村智彦教授は、観光公害の深刻化を踏まえた制度見直しは妥当だと指摘し、住民との協調が問われると述べる。SNSでも「当時は宿泊不足の受け皿として必要だったが、ホテル供給が増えた今は離脱が賢明」という声が見られる。
海外では、バルセロナが2028年までに短期観光アパートの免許を段階的に廃止する方針を示し、アムステルダムは新規ホテルの原則禁止とベッド数の純増抑制に動く。総じて「量の確保」から「質と地域合意」への転換が世界的に進む中で、寝屋川市の判断は国内の議論を一歩先取りするものといえる。
今後は、制度を続ける自治体でも、最低滞在の順守、清掃・ごみ処理、深夜の苦情対応、巡回・監督の実効性など、運用の細部で地域合意をどう担保するかが焦点になる。