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CSRと利益追求のバランス|気候変動と健康リスクで増える企業の責任

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フリー画像 工場と夕焼け
pexelsより

ステークホルダーとは直接的または間接的な利害関係者を指すが、その対象となる範囲は実に幅広い。たとえば気候変動、人種差別、タバコの健康リスク。これらの社会問題は企業活動と密接に関わる性質を持ち、現代の課題であるとともに、これから生まれてくる人類や動植物を含めた地球規模の問題だ。

企業の行動を規律づけるCSRとステークホルダー

こうした社会問題に対しては企業が担うべき責任があり、「CSR」と呼ばれている。CSRとは「Corporate Social Responsibility」の頭文字を取った言葉で、日本語では「企業の社会的責任」と訳される。

書籍『コーポレート・ガバナンス改革の国際比較: 多様化するステークホルダーへの対応』(佐久間信夫著、ミネルヴァ書房)では、CSRが重視されるようになった経緯をこう論じている。

「2000年代以降、機関投資家の行動に大きな影響を及ぼした動きとして、国際機関などが推進したCSR国際規格創設の動きを眺める。CSRの議論は、それまでの社会貢献を重視する比較的単純な見方から次第に深化を遂げ、今日のCSR概念は、企業が社会に及ぼす影響への責任として理解されるようになった。すなわち現代企業は社会に対するポジティブな影響を最大化し、ネガティブな影響を最小化していく債務が期待され、そのための企業行動を規律づけるソフトローのイニシアチブが数多く創設されるようになった。」

機関投資家の投資行動にCSRが影響するということは、社会的責任を果たさない企業の価値に低下傾向が現れたのだろう。CSRはしっかりと企業の経営に影響を与えているのである。

 

 社会の発展とともに変化を続けるCSR

企業の基本的な行動目的は利益追求だ。しかし行き過ぎた利益追求はステークホルダーに不利益を招きかねない。

1997年には、スポーツメーカーのナイキによる労働問題が発覚した。生産を委託する東南アジアの工場で、低賃金労働や長時間労働、劣悪な労働環境、子どもの労働が行われていたのである。世界中から批判が集まり、ナイキ不買運動にまで発展した。この件は、ナイキがCSRを重視する大きなきっかけとなった。以来、ナイキは労働問題や環境問題などにおいて、サステナビリティを掲げて真摯にCSRに取り組んでいる。

あるいは、タバコや酒など特定の製造業。嗜好品としての需要が高い市場だが、副作用とも言える負の影響を伴う。ニコチンの健康被害やアルコールが心身に与えるリスクには警鐘が鳴らされて久しい。タバコや酒が持つ危険性については、警告表示を記載するよう法律が整えられた。

労働問題是正や健康リスク喚起は、現代では企業が取り組むべき課題として当たり前に認知されている。ただし時代を遡れば遡るほど、こうした課題解決に取り組んでいた企業の数は少なくなる。

というのも、労働者の権利向上や医療・科学技術の発展などが、CSRの概念誕生の背景にあると考えられるからだ。さらにいえばグローバル化に伴い、ステークホルダーも人種や国籍などを超えて多様化している。

こうした社会の変化や発展に伴い、少しずつCSRの概念は整えられてきた。つまり、企業が果たすべきCSRは、これからますます多様化し複雑化する可能性がある。

多様化・複雑化するCSRと利益追求のバランス

イギリスを例にすると、2000年代に入ってからCSRには次のような経緯がみられた。

「2008年には気候変動法(Climate Change Act)が成立し、後に述べるような環境報告を促す機関投資家のイニシアチブの動きとともに、GHG(温室効果ガス)排出量をめぐる企業対応が促されるようになった。また、2015年10月に施行されたイギリス現代奴隷法(Modern Slavery Act)では、サプライチェーンで生じる可能性がある人権問題に対し、企業の対応措置の公表が要請されるようになった。」(『コーポレート・ガバナンス改革の国際比較: 多様化するステークホルダーへの対応』より)

今後もさらに科学技術は発展し、人類の新しい課題も見つかっていくだろう。新しい権利や法律が整備されるに伴い、企業が守るべきCSRは多様になる。CSRは社会的な関心事項でもあり企業価値にも影響するため、より一層の情報開示が求められるかもしれない。

しかし、企業の本来の目的は利益の創出であるから、CSR対応ばかりしていられるわけではない。では、企業の利益追求とCSRのバランスをとるためにはどんな措置が必要になるのだろうか。

ひとつにはCSR委員会やCSR担当者など、企業活動がCSRに反していないかをチェックするポジションを配置することだ。一人ひとりの社員に判断を任せてしまうと、多様化・複雑化するCSRに対応しきるのは難しい。

CSRが多様化・複雑化する現代において、企業の責任とリスクは増えていく。リスク・マネジメントの一環としても、企業は果たすべきCSRは何かを常にアップデートし続けることが課題となるだろう。

<書籍情報>

『コーポレート・ガバナンス改革の国際比較: 多様化するステークホルダーへの対応』(佐久間信夫著、ミネルヴァ書房)

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