ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

八王子市職員97人が通勤手当を不正受給、総額915万円超に隠された組織の機能不全

コラム&ニュース ニュース
リンクをコピー
八王子駅
八王子駅(photockより)

東京都八王子市の市職員97人が、実際には徒歩で通勤していたにもかかわらず、バスなどの定期券代にあたる通勤手当を不正に受給していた問題で、市は23日、関与した職員97人と監督責任のある管理職11人の計108人に及ぶ大量処分を発表した。不正受給の総額は915万4207円に上り、行政への信頼を大きく損なう事態となった。市は再発防止に向け第三者による検討会を設置する方針だが、この問題の背景には、「認識不足」では済まされない組織統治の深刻な機能不全が潜んでいる。

 

「バス通勤」のはずが「徒歩」 職員97人の不正受給と巨額な総額

今回の不正受給問題は、東京・豊島区など都内他自治体で同様の不正が発覚したことを受け、八王子市が昨年10月から調査を進めた結果、明らかになったものだ。

八王子市の発表によると、不正に関与したのは、現職職員88人と既に退職した職員9人の計97人。彼らが通勤手当を不正に受け取っていた期間は2019年4月から2024年9月までの最長5年6カ月にわたり、総額は915万4207円に達した。不正受給の多くは、公共交通機関の利用を申請しながら、実際には徒歩や自転車などで通勤していたケースとされる。

個別の不正受給額を見てみると、期間と金額が最大だった男性主査(60)は、約5年半にわたり計49万1778円を不正に受給していた。また、停職1カ月の懲戒処分となった都市整備担当部長兼開発・建築担当部長(59)も、4年以上にわたり計37万3556円を不正に受け取っていたことが判明している。

この事態に対し、八王子市は既に不正受給された全額の返納を完了させている。しかし、本来市民のために奉仕すべき立場の公務員が、公金を不正に受け取っていた事実は極めて重い。職員らは調査のなかで「手当の規程に関する認識が不足していた」といった反省の声をあげているというが、数年にわたり継続的に公金を不正に得ていた行為が、単なる「認識不足」で片付けられるものではないことは明らかだ。

組織の信頼を揺るがす「大量処分」 部長・課長を含む11人に懲戒処分

 

八王子市は、不正に関与した職員97人に対し、不正受給の期間や金額、職責の重さなどを考慮し、厳しい処分を下した。

【不正受給に関与した職員の処分(計97人)】

  • 懲戒処分(11人):
    • 停職1カ月:都市整備担当部長兼開発・建築担当部長(59)。(23日付で依願退職)
    • 戒告:男性課長(58)ら10人。
  • その他の処分:
    • 訓告:19人
    • 厳重注意(口頭):58人
  • 退職者(9人):
    • 戒告相当:2人
    • 訓告相当:2人
    • 厳重注意相当:5人

【管理監督責任者の処分(計11人)】

さらに市は、職員を監督する立場にある管理職の責任も追及した。植原康浩副市長は厳重注意として給料10分の3(3か月)を自主返納し、中邑仁志副市長も厳重注意で給料10分の1(1か月)を自主返納する。また、不正受給には関与していない総務部長ら部長3人、課長6人の計9人の管理職も、監督責任を問われ厳重注意処分となった。

合計108人に及ぶ今回の処分は、不正受給に関わった職員だけでなく、その組織全体に責任を波及させた異例の「大量処分」といえる。市民の信用回復に向けた市の本気度を示すものとして評価される一方、この大量処分自体が、長年にわたる組織的な緩みを証明しているとも受け止められかねない。特に部長や課長といった管理職の不正関与は、組織のモラルハザードの深刻さを物語っている。

「認識不足」で済まされない問題の背景と「隠蔽」の疑い

 

今回の問題が深刻なのは、単に不正受給が行われていたという事実だけでなく、市役所内部での「情報公開の遅れ」や「隠蔽の疑い」が指摘されている点にある。

八王子市は昨年10月から11月にかけて調査を実施し、同12月には職員97人がバスや電車の定期代にあたる計1671万円(不正受給額915万円を含む)を市に返納した。しかし、市は「調査が続いている」との理由でこの事実を公表せず、初宿(しやけ)和夫市長に対しても今年9月まで報告がされていなかったという。

この情報公開の遅延について、23日の記者会見で初宿市長は、副市長らが返納の事実について報告しなかった経緯に言及し、「返納の事実について、隠蔽の疑いがある」と強い言葉で指摘した。市長は会見で「市民の信頼を大きく損なう事態となり、心からおわび申し上げる」と陳謝し、副市長らとともに深々と頭を下げた。

公務員による不正受給は、公金の不正使用であると同時に、市民からの信頼を裏切る行為だ。その事実が判明した後も、長期間にわたり市長を含む市民に対して事実が隠されていたとすれば、それは組織の透明性やガバナンスに重大な欠陥があることを意味する。

八王子市によると、2008年以降、通勤・住居・扶養手当の不正受給で懲戒処分を受けた職員はゼロだったという。初宿市長は会見で、従来の懲戒処分の判断基準に疑義があったため、不正期間の長短などを加えて基準を作り直したと説明しており、今後は住居・扶養手当など、他の手当についても不正が認定されれば処分を行う方針を示している。

市民の信頼回復に向けた第三者検討会の役割

 

八王子市は、市民の信用回復を最優先課題として掲げ、今後の対応として以下の措置を講じるとしている。

  1. 第三者による検討会の設立
    弁護士や大学教授らによって構成される第三者検討会を来月にも発足させる。

  2. 原因究明と管理体制の見直し
    検討会は、庁内での隠蔽行為の有無や不正受給の詳しい経緯を徹底的に調査する。

  3. 再発防止策の策定と公表
    来年3月までに、再発防止策を含めた調査結果を公表する方針。

市長は「市民のみなさんの信用を1日でもはやく回復できるよう再発防止に徹底して努めていきたい」と述べている。

しかし、今回の問題は単なる手当の不正受給に留まらず、市役所という組織全体のガバナンスに関わる深刻な課題を浮き彫りにした。市民の信頼を回復するためには、不正受給の全額返納や懲戒処分といった表面的な対応だけでなく、組織内の意思決定プロセスやチェック機構を抜本的に改革し、その過程を市民に対して透明性高く公開していくことが不可欠となる。第三者検討会には、甘えや慣習に満ちた組織風土にメスを入れ、真に実効性のある再発防止策を提示する役割が求められている。八王子市が公務員としての信頼を取り戻せるかどうかは、今後の徹底した調査と改革にかかっているといえるだろう。

Tags

ライター:

新聞社・雑誌の記者および編集者を経て現在は現在はフリーライターとして、多方面で活動を展開。 新聞社で培った経験をもとに、時事的な記事執筆を得意とし、多様なテーマを深く掘り下げることを得意とする。

関連記事

タグ

To Top