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通級指導、20万人を突破 見えにくい「困難」をどう支えるか 現場の声と“その後”を追う

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発達障害支援、通級対象が過去最多に

発達障害

発達障害などにより通常学級での学習に困難を抱える子どもたちが、週1回程度の個別支援を受けられる「通級による指導」。この制度を利用する児童生徒が2023年度、全国で20万3376人にのぼり、前年から5033人増加したことが文部科学省の調査で明らかになった。

 

制度の対象者は、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)、ASD(自閉症スペクトラム)など、知的発達に遅れはないものの、集団生活や学習活動において特別な配慮が必要な子どもたちだ。

文科省によると、増加幅は小学校で1835人(計16万6403人)、中学校で2878人(計3万4393人)、高校で314人(計2327人)だった。特に小学生では、在籍児童の2.8%が通級指導を受けていることになり、1993年度の調査開始以来、増加の一途をたどっている。

文科省の担当者は「発達障害の認知が広がり、適切な支援に繋がるケースが増えている。学校現場の理解も進みつつある」と述べる。

 

現場教員が語る「週1回では足りない」支援のリアル

しかし、制度の拡充が進む一方で、実際の運用には課題も多い。東京都内のある公立小学校で通級指導を担当する教員はこう語る。

「週に1コマ、30分程度の指導で子どもの行動特性や学習の遅れに対応しようとするのは、正直限界がある。通級は“特別な支援”ではなく“最低限の支援”だと考えたほうがよい」

 

その教員は、1人あたり週1コマにも満たない頻度で約20人を担当しており、連携する担任教員や保護者との情報共有だけでも大きな負担になっているという。

また、別の地方都市では「通級指導教員が配置されず、支援が必要とされる子どもが“該当しない”と判断されてしまう」現象も起きている。制度上「支援が必要」と認定されても、受け皿がなければ実施されないのが現実だ。

 

「グレーゾーン」の子どもたちが取り残される構造的課題

通級による指導は、知的発達に遅れがない子どもを前提として設計されている。このため、いわゆる「境界知能(ボーダーライン)」と呼ばれる、IQが70~85前後の子どもたちの多くは対象外とされやすく、通級指導にも特別支援学級にも繋がらない“狭間”に取り残されてしまう。

また、「診断名」がつかない子どもへの対応も大きな課題だ。ある中学校の支援コーディネーターはこう明かす。

 

「“発達障害ではない”とされても、明らかにコミュニケーションや感情のコントロールに困難を抱える生徒は多い。でも制度上“指導対象外”になるケースもあり、学校内で独自に対応せざるを得ない」

さらに、通常学級の担任側に十分な知識や時間的余裕がない場合、「通級に行かせたから安心」と丸投げされることもあるという。制度の導入が一定進んだ今、次に問われるのは「学校全体として、どれだけ包括的な支援体制を構築できるか」だ。

「あの支援がなければ、今の自分はない」通級経験者の証言

 

制度の効果を語る上で、かつて通級指導を受けた当事者の声は貴重だ。

大学3年生の男性Aさん(21)は、小学4年生から中学卒業までの間、週1回の通級指導を受けていた。診断名はADHDとASD。「人の目を見て話せなかったし、授業中も立ち歩いてしまっていた」と当時を振り返る。

「通級では、怒られない。ちゃんと話を聞いてくれて、どうしたらうまくやれるかを一緒に考えてくれた。“困っていいんだ”って初めて思えた」

 

Aさんはその後、自身の特性を理解してくれる支援者や進学先と出会い、現在は大学で心理学を学んでいる。

一方で、「中学卒業と同時に支援がパタリと終わってしまった」とも話す。「高校では支援を申し出るのが恥ずかしかった。『普通でなきゃ』と自分を追い詰めてしまった」と語るAさんは、今後、同じような子どもたちが孤立しないような「継続支援の橋渡し制度」が必要だと訴える。

社会全体が問われている “共に学ぶ”という選択肢

 

通級指導の対象となる子どもたちは、「特別な」存在ではない。一定の条件を満たせば、誰もがその制度の対象となりうる。実際、統合失調症やうつ病などの二次的な問題を引き起こす前に、早期に適切な環境で支援を受けられることは、将来の社会参加を促すうえでも極めて重要だ。

それだけに、制度の量的拡大だけでなく、支援の「質」をいかに高めるかが問われている。教員の専門性向上、家庭との協働、地域医療や福祉との連携、そして何より「困っている子を責めない」社会の空気が、制度の根幹を支える。

20万人の通級指導対象者の背後には、20万通りの個性と課題、そして希望がある。

 

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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