ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

こども家庭庁が「面会制限」の基準策定 一時保護後の親子関係修復は進むのか?

コラム&ニュース ニュース
リンクをコピー
こども家庭庁が基準策定
DALL-Eで作成

児童相談所による一時保護の現場で、長らく課題とされてきた「親子分離」と「関係再構築」の在り方に、ようやく具体的な指針が示され始めた。こども家庭庁は、虐待が疑われる段階からでも面会を制限できる新たな運用基準を明示し、安全確保と人権配慮の両立を模索する。しかし、親子の断絶を深めずに再統合を実現するには、現場の負担や制度の隙間を乗り越える多面的な支援が不可欠だ。背景には、法制度の未整備、人的資源の不足、子どもの意思表明の困難さといった、見過ごされがちな構造的問題が横たわっている。

面会制限に運用基準 こども家庭庁が明示

こども家庭庁は6月24日、児童相談所に一時保護された子どもと保護者の面会制限に関する具体的な運用基準を公表した。これは、虐待が「疑われる」段階からでも、子どもに悪影響があると判断されれば面会や電話連絡を制限できる内容で、2024年に成立した改正児童福祉法の施行に先立つ措置となる。

提示された基準は、「虐待が強く疑われる中で保護者が否認している場合」「子どもが面会を拒む場合」「面会によって子どもの心身が傷つくおそれがある場合」の三つに分類され、性的虐待の疑いによって面会時にフラッシュバックが生じるようなケースも具体的に例示された。

こども家庭審議会の部会では、関係を完全に断つことへの懸念も示され、「手紙のやり取りを通じてつながりを保つ努力」や「面会を制限する場合でも、子どもへの説明と心理的ケアを怠ってはならない」といった意見が出された。こども家庭庁は今後、こうした意見を踏まえて自治体向けの詳細なガイドラインを策定する方針である。

 

長年の課題だった「親子分離後の支援」

一時保護制度は、子どもに対する虐待やネグレクトの疑いがある場合に、速やかに安全な場所へ移すことを目的としているが、保護後の支援、特に親子の関係再構築については、これまで十分に制度化されてこなかった。

一時保護所に勤務する児童福祉士は、「一時的な保護は緊急対応として不可欠だが、その後の家庭復帰に向けた橋渡しがあまりに弱い」と語る。「面会が制限されたまま数か月が経ち、子どもが親との関係を断絶されたように感じてしまうケースがある」といい、制度の狭間に取り残される子どもたちの存在を憂慮する。

 

なぜ関係再構築は進まなかったのか

関係再構築が進まなかった背景には、複数の構造的要因がある。

第一に、児童相談所の第一義的任務が「子どもの安全確保」にあること。疑い段階では事実確認が不十分なことも多く、リスクを最小化するため、面会制限が無意識のうちに「常態化」してしまう構図があった。

第二に、人的リソースの圧倒的不足だ。面会調整や心理的支援には高い専門性と手間が必要だが、現場の多くは人手が足りず、十分な支援に手が回らないのが実情である。

第三に、子どもが自分の意思を的確に表明できるとは限らないという課題がある。「怖い」「会いたくない」といった表現が、真意に基づくものか、混乱や防衛反応かを見極めるには、専門的な視点と時間が必要だ。

第四に、法制度自体が長らく未整備だった点も見逃せない。親子の接触制限に関して全国的な基準が存在せず、各自治体や児童相談所に判断が委ねられてきた。結果として、地域によって対応に差が生じ、不信感を抱く保護者も少なくなかった。

 

賛否両論の整理――運用基準への評価をめぐって

児童虐待の予防と子どもの権利擁護のバランスを図ろうとする本運用基準に対しては、専門家や支援者の間でも意見が分かれている。以下に、主な賛成・反対意見を比較表で整理する。

観点賛成意見反対・懸念意見
子どもの安全と心理保護フラッシュバックや再トラウマを防ぐため、疑い段階での制限は妥当疑いだけで接触を断つのは保護者の人権侵害にあたる可能性がある
運用の明確化全国的なガイドラインにより判断のばらつきが減る判断基準の主観性により恣意的な運用の懸念も残る
子どもの意思の尊重会いたくないという子の意思を尊重できる制度である子どもの拒否が一時的な混乱によるものか、丁寧な確認が必要
保護者との関係再構築支援安全を確保した上で、手紙などによる関係維持は今後の支援にもつながる面会制限が続くと関係修復が困難になり、家庭復帰の妨げになる
法的整備・制度的位置づけ国が基準を示すことで現場判断の負担が軽減される疑い段階での制限には法的根拠が不十分で、訴訟リスクもはらむ
保護者支援の視点子どもの安全を優先しつつ、保護者側の変化も見極めて対応できる保護者支援がなお制度上“加害者対応”に偏り、修復の余地を生みにくい

この比較を通じて見えてくるのは、面会制限が「子どもの保護」という目的で機能する一方、親子の関係断絶という別のリスクも孕んでいるという点である。今後の運用においては、双方の権利と利益を丁寧にすり合わせる視点が不可欠となる。

課題から展望へ 制度の転換点となるか

こども家庭庁が今回示した運用基準は、こうした長年の課題に一定の方向性を与えるものである。親子分離を不可逆なものにせず、関係修復を視野に入れた対応が制度化されれば、児童福祉の現場にも変化が期待される。

ただし、現場での運用には、柔軟性と高い専門性が求められることに変わりはない。支援の質を担保するには、人員配置や研修制度、関係機関との連携強化といった実務面の支えが不可欠である。

関係再構築の道は、親子の間に生じた断絶の大きさに応じて異なる。だが、どのケースにおいても、子どもの視点に立った丁寧な支援が、その第一歩となることに変わりはない。

 

Tags

ライター:

ライターアイコン

SHOEHORN くつべらマン

> このライターの記事一覧

児童養護施設の職員。特に中学~新卒年齢の若者の生活・医療・福祉・自立支援に従事している。勤務時間外では、様々な職業の方へ取材活動を実施しており、大人になる若者たちへ情報を提供している。

関連記事

タグ