
高齢者によるアクセルとブレーキの踏み間違い事故が相次ぐ中、国土交通省は2028年9月以降に発売されるオートマチック車(AT車)に対し、誤操作を防ぐ装置の搭載を義務付ける方針を発表した。背景には免許返納が進まない高齢ドライバーの存在や、ペーパードライバーの事故増加といった現状がある。装置の普及とともに、個人・家族・地域・行政が連携して、操作ミスによる事故を防ぐ取り組みが求められている。
高齢ドライバーの事故抑止へ、省令改正
国土交通省は2025年6月17日、2028年9月以降に発売されるオートマチック車(AT車)に、アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する装置の搭載を義務付けると発表した。改正省令は道路運送車両法に基づき、対象車両は発進時に前方1〜1.5メートル以内に障害物がある場合、急発進を抑制し、時速8キロ未満の低速走行にとどめる機能を求めている。マニュアル車(MT車)は踏み間違いによる事故の発生率が低いため、義務化の対象から外された。
背景には、高齢者による操作ミスが原因とされる事故の頻発がある。特に商業施設や住宅街における踏み間違いによる急発進事故は、重大な人的被害を招いており、警察庁や国交省はこれまで啓発活動や支援策を講じてきたが、一定の歯止めには至っていなかった。
免許返納は進むも、運転継続の高齢者も多数
警察庁の統計によれば、2023年の運転免許自主返納件数は約54万件にのぼった。これは過去最多を更新したものの、75歳以上の高齢者のうち実際に返納した人の割合はわずか20%程度にとどまっている。地方では公共交通機関の利便性が低く、自家用車が生活の「足」となっている現実が背景にある。
一方で、返納を選ばず運転を続ける高齢ドライバーが事故を起こすケースも相次いでいる。警察庁によると、2023年に発生した高齢運転者による死亡事故は346件。そのうち、操作ミス(アクセル・ブレーキの踏み間違い)が原因とされる事故は全体の約30%を占めている。
ペーパードライバーによる事故も懸念
また近年、再就職や育児負担の変化などから運転を再開する「ペーパードライバー」による事故の増加も指摘されている。特に20〜40代のペーパードライバーによる物損事故や軽傷事故が増えており、操作感覚のブランクが重大事故につながるリスクが懸念されている。
民間の教習所では、ペーパードライバー向けの再訓練講座の需要が伸びており、事故回避に向けた技術や心構えの再習得が求められている。
操作ミスを減らすために、それぞれができる対策とは
操作ミスによる事故を防ぐためには、運転者本人だけでなく、家族、地域、行政それぞれが関わり合いながら対策を講じる必要がある。具体的には、以下のような取り組みが考えられる。
運転者本人の取り組み
- 定期的な運転講習やペーパードライバー教習の受講
- 医療機関での視力・反射神経チェック
- 靴や座席の見直しなど、運転時の環境整備
- 不安や疲れを感じたときには運転を控えるという判断
家族による支援
- 運転の様子に注意を払いつつ、冷静な声かけを行う
- タクシー券や交通系ICカードなど、移動手段の代替策を一緒に考える
- 免許返納後も安心して移動できる環境を整える
地域・企業の役割
- 高齢者向けの運転適性チェックや体験講座の実施
- デマンド交通や巡回バスの整備
- 企業による安全運転研修の拡充
行政・制度による支援
- サポカー購入補助や安全装置装着支援制度の周知徹底
- 高齢者講習の強化と認知機能検査の制度整備
- 免許返納者への移動支援・優遇制度の充実
これらの多層的な対策を重ねることで、操作ミスによる事故を減らし、誰もが安心して移動できる社会の実現が目指されている。