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「25万円のスタートライン」は高いのか? 2025年度・初任給引き上げの波紋と取り残される氷河期世代

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東証プライム197社、8割超が賃上げも「生活のゆとり」には届かず?【労務行政研究所調査より】

氷河期世代を取り残していいのか

2025年春。都内の大学を卒業し、メーカーに入社した新入社員のHさん(23)は、初任給として25万5,000円を受け取った。表面的には順調なスタート。しかし、手取り額を確認した彼は、真顔でこうつぶやいたという。「これで一人暮らしと奨学金の返済、できるかな……」

公益財団法人労務行政研究所が5月1日に開示した「2025年度 新入社員の初任給調査」によると、東証プライム上場企業197社のうち、83.2%が全学歴で初任給を引き上げた。大学卒(一律)の平均額は25万5,115円。前年からの平均上昇額は1万8,220円にのぼる

景気回復と人手不足が賃上げの後押しとなっているが、生活実感とのギャップを感じる若者も少なくない。

 

製造業90.4%が賃上げ、非製造業との「温度差」

引き上げを実施した企業の割合は、製造業で90.4%、非製造業で76.7%と、業種によってばらつきが見られる。これは、エネルギー価格や素材価格の変動に伴い、輸出系製造業の収益が改善している一方で、国内消費依存型の小売・サービス業では価格転嫁の余地が限られていることを反映している。

背景には、業界ごとの利益構造の違い、さらには「人材確保競争」の激化もある。労務行政研究所は、今後は単なる水準の引き上げにとどまらず、福利厚生や職場の柔軟性、リスキリング機会の提供など「総合的な働く魅力」の提示が求められると指摘している。

 

生活実感と数字の乖離、奨学金返済に追われる若者たち

東京都内で1Kの部屋を借りた場合、家賃は8万~10万円が相場。そこに食費・水道光熱費・通信費を加えると、25万円の初任給でも決して「ゆとり」はない。加えて、大学時代の奨学金返済が月2万~3万円あれば、貯金に回せる額はごくわずかだ。

政府は「賃上げは経済の好循環につながる」と強調するが、当事者である若者の多くは、“足元のリアル”に悩んでいる。「高水準」とされる初任給でも、生活の基盤を築くにはまだ不十分な現実がある。

初任給だけでは測れない「働く価値」

数字の上昇だけで企業を評価する時代は終わりつつある。Z世代の多くは、「どれだけ稼げるか」よりも、「どんな社会課題に取り組めるか」「どんな仲間と働けるか」といった“意味”や“実感”を求めている。

企業が人材獲得において真に求められるのは、金額競争だけではない。「この会社で働きたい」と思わせる本質的な魅力が問われている。

忘れられた世代 “取り残されたまま”の氷河期世代

 

一方、2025年、25万円を超える初任給を手に社会に出る若者たちの姿は、20年以上前、就職氷河期と呼ばれた時代に、正社員になれず非正規雇用やアルバイトとして社会の隅に追いやられた“あの世代”と強烈な対比をなす。

「自分が就職活動していた2000年前後は、募集枠が1ケタしかない会社に数百人が殺到していた。今の“売り手市場”をうらやましいとも思うし、悔しさもある。非正規でキャリアを積んでも、正社員への道が開けることはなかった。気づけば“正社員経験なし”のまま40代後半になってしまった」
――43歳・男性(建設業、契約社員)

「弟は10歳下。新卒でホワイト企業に入り、今は年収600万円を超えている。自分は年収250万円。努力の差だけで説明できると思えない」
――45歳・男性(製造業、正社員だが短時間契約)

「ようやく社会が“氷河期支援”を言い始めたころには、私たちはもう『若手』じゃなかった。支援対象の枠にも入らなかった」
――41歳・女性(販売業、フリーター)

SNSでも、「努力が足りなかったのでは?」とする一部の声に対して、「努力ではどうにもならなかった時代だった」との反論が数多く上がっている。一部では、「自分たちは使い捨てられた世代。今さら企業や国に期待なんてしていない」という、あきらめに似た声も散見される。

こうした実情に対し、企業側が本気で向き合わなければ、“賃上げはするが中高年は切り捨てる”という新たな分断の火種にもなりかねない。

 

格差を埋める「企業の責任」と「社会の意思」

数字の上昇だけで企業を評価する時代は終わりつつある。Z世代の多くは、「どれだけ稼げるか」よりも、「どんな社会課題に取り組めるか」「どんな仲間と働けるか」といった“意味”や“実感”を求めている。

そして今こそ、社会は自問すべきではないか――「かつての若者」を取り残したまま、新しい若者に賭け続ける社会の在り方は、果たして健全なのか、と。

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寒天 かんたろう

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ライター歴25年。月刊誌記者を経て独立。伝統的な日本型企業の経営や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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