
埼玉県八潮市で今年1月に発生した道路陥没事故で、下水道管内から行方不明となっていた男性運転手とみられる遺体が発見され、5月2日朝、地上へ搬出された。警察は遺体の身元確認を急いでおり、県は今後、事故現場の復旧と再発防止に向けた本格的な工事に着手する。
道路陥没から100日 ようやく明かされた所在
この事故は1月、八潮市内の市道で突然道路が陥没し、通行中のトラックが約5メートル下の下水道管内に転落したもの。以来、運転していた74歳の男性が行方不明となり、家族や関係者の間で懸命な捜索と安否確認が続けられていた。
5月2日未明から、消防と警察による捜索が再開され、同日午前、下水道管内に取り残されていたとみられるトラックの運転席部分付近から、男性の遺体を発見。遺体は慎重に地上へ搬出され、警察が本人確認を進めている。
遺族「受け止められない」 深まる喪失と悼みの声
この事態を受け、遺族は「未だに信じることも受け止めることもできない」「かけがえのない存在だった」との声明を発表した。事故から100日を超える時間を経てようやく迎えた「再会」は、遺族にとって節目でありながら、深い悲しみと喪失感を伴うものとなった。
「恐怖や苦痛と戦って、力尽きるまで生きて帰りたいと思っていたはず」と遺族は綴り、祖父としても家族の中心であった存在を悼んだ。
長期化する復旧と、問われるインフラの管理体制
現場の下水道管は老朽化が進んでいたとみられ、埼玉県は今後、崩落地点周辺の上下流約2キロメートルにわたり、新たな下水道管を併設する「複線化工事」を進める。工事の完了には5~7年を要する見通しとなっている。
水教育研究所の橋本淳司氏は、「点検頻度の基準や非常時対応の見直しが急務」と述べたうえで、「壊れたときの社会的影響の大きさ」も考慮した管理基準の必要性を訴えている。
また、水難学者である斎藤秀俊・長岡技術科学大学大学院教授は、「人が立ち入る前提のない下水道空間への転落は、極めて危険」としたうえで、今後は老朽化に備えた救助訓練の見直しも必要だと指摘した。
今回の事故は、老朽インフラが人命を脅かすリスクと直結している現実を改めて突きつけた。遺体発見という一区切りを迎えたとはいえ、課題は山積している。