
気候変動の影響で日本の夏が過酷さを増すなか、エアコンの設置はもはやぜいたく品ではなく、生存を左右する設備となっている。東京都多摩市では、住民税非課税世帯などを対象に、エアコン購入費を最大10万円まで助成する新制度を開始。他自治体にも広がる同様の取り組みとともに、「冷房弱者」を取り巻く社会課題を考える。
記録的猛暑と熱中症リスクの高まり――「冷房弱者」を守る行政支援
地球温暖化の影響が直撃する日本列島では、夏季の高温化が年々深刻さを増している。環境省によると、2023年の熱中症による救急搬送者は全国で9万1千人を超え、特に高齢者や生活困窮世帯においては、適切な冷房設備の未整備が重篤な健康被害を招く事例も報告されている。
こうしたなか、東京都多摩市は4月16日、住民税非課税世帯などの低所得層を対象としたエアコン購入費助成制度を新たに導入すると発表した。2024年度の市内在住者を対象に、最大10万円を上限として、エアコンの購入・設置・配送費までを支援する。事業は6月末から受付を開始する見通しである。
訪問調査で要件確認 エアコン購入は「事前申請」が原則
対象となるのは、自宅にエアコンが設置されていないか、既設機器が故障もしくは製造から15年以上が経過している世帯に限られる。事業開始に先立ち、6月中旬には対象世帯に案内はがきを発送し、同月末から市職員による訪問調査(現地確認)を実施する。なお、調査前にエアコンを購入した場合は助成の対象外となる。
助成の支給方法は2通りが想定されている。利用者が設置費を一旦支払ったうえで市に申請するケースと、あらかじめ指定された協力事業者に市が直接支払う形式である。多摩市は5月に事業者向けの説明会を開き、連携体制の構築を進める方針を示している。
市福祉総務課の担当者は「熱中症による重症化や孤立死のリスクを軽減するには、冷房環境の整備が不可欠。経済的な事情で導入をためらう世帯にぜひ活用してほしい」と語っている。
全国に広がるエアコン設置助成 青森、山形、東京でも支援策
多摩市のような取り組みは、すでに複数の自治体でも始まっている。たとえば、青森県三戸町では、高齢者世帯を対象に最大5万円を補助する独自制度を運用しており、山形県鮭川村では住宅リフォーム補助の一環としてエアコン設置費を支援している。
さらに東京都が主導する「東京ゼロエミポイント」では、省エネ型家電への買い替えを促進するポイント還元制度を展開しており、付与されたポイントは商品券などに換えられる。これは冷房設備の導入促進と併せて、家庭の光熱費削減にも貢献している。
一部自治体では、夏季の電気料金の一部を補助する制度を検討・導入しており、「設置後の負担」にも目を向ける動きが見られる。
「電源を入れられない」現実 光熱費支援の充実が急務に
支援制度が存在しても、実際には利用されないケースもある。理由として多いのは「制度を知らない」「申請手続きが難しい」「電気代が怖くて使えない」といった声である。特に高齢者や障害者世帯では、制度の複雑さそのものが障壁となる場合が多い。
このような実態を踏まえ、今後は「使いやすい制度設計」と「支援を届ける手段」の両輪での対応が求められている。申請支援員の配置や、包括支援センターとの連携による個別訪問などが、有効なアプローチとなる可能性がある。
熱中症は“防げる災害” 支援の持続性と地域連携が鍵に
熱中症は自然災害でありながら、その多くは予防可能とされている。冷房設備の普及は単なる生活の利便性向上ではなく、命を守るための社会的インフラ整備である。多摩市のような自治体支援が今後さらに広がり、地域ごとの特性に応じた柔軟な制度運用が行われることが望まれる。
全国的な制度整備とともに、民間団体や地域住民との協働による「見守り」と「助け合い」が、夏を安全に乗り越える鍵となるだろう。