
都市と地方をつなぐ生活拠点 二拠点生活を支える新制度が始動
都市と地方の双方に生活拠点を構える「2地域居住」が広がりを見せる中、総務省が本格的な支援制度に乗り出した。体験施設の整備や交流イベントの開催にかかる費用を特別交付税で国が一部負担し、地方移住へのハードルを下げる狙いだ。都市一極集中と地方の過疎化という日本社会の構造的課題に対し、二拠点生活は現実的な処方箋となるのか。その可能性と限界を追う。
総務省、新制度で自治体の取り組みを後押し
総務省は、都市と地方の双方に生活拠点を持つ「2地域居住」の促進に向け、自治体に対する財政支援を強化する。2025年4月5日付の読売新聞オンラインによると、新たに創設する制度では、地方自治体が行う体験ツアーの実施や地域住民との交流拠点整備などにかかる経費について、特別交付税を活用し最大半額を国が負担する。都市部に住む人々が地方に足を運ぶきっかけを生み出し、継続的な関係人口の創出を狙う。
新制度では、都市部での移住相談会の開催やパンフレット、紹介動画の作成など情報発信も支援対象に含まれる。また、地方での「お試し移住施設」の整備、住居や副業先のあっせん、地元住民との交流イベントなど、移住を前提としない「関わり」の段階から支える施策が広がる。
さらに、移住希望者に情報提供や相談対応を行うコーディネーターの配置についても支援を行う。1人あたり最大500万円を特別交付税で措置する方針で、自治体の人的基盤の強化を図る。
「地域活性化起業人」制度も拡充
総務省は併せて、都市部企業の人材を地方自治体に派遣する「地域活性化起業人」制度についても拡充を図る。これまでは東京圏・大阪圏・名古屋圏に本社を置く企業のみが対象だったが、2025年度からは三大都市圏以外の政令指定都市や中核市に本社を置く企業も派遣元として対象に加える。都市のノウハウを地域に還流させ、持続可能な地域社会づくりに貢献する仕組みとして期待されている。
約701万人が実施 生活の多拠点化が進行
国土交通省が2022年に実施した推計によると、全国で2地域居住を実践している18歳以上の人口は約701万人にのぼる。新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが浸透し、ライフスタイルの多様化が進んだことを背景に、都市の利便性と地方の自然環境の両方を享受する暮らし方として、二拠点生活は静かに広がりつつある。
2地域居住は、生活の質(QOL)の向上に加え、心身のリフレッシュやワークライフバランスの改善、地域との継続的な関わりによる「関係人口」の形成など、多方面にわたる利点を持つ。また、自然災害時のリスク分散や、地方での副業・起業といった新たな挑戦の場としての役割も注目される。
二拠点生活が抱える現実的課題
しかし、利点の裏には課題も少なくない。第一に、二つの住居を維持するための経済的負担が大きい。住宅費や交通費、固定資産税、光熱費などが家計を圧迫する。さらに、行政手続きや医療・福祉サービスの利用において、生活の分断や制度的な煩雑さも課題として浮上している。
家族全体での二拠点生活が困難な場合には、教育や育児、介護といった家庭内の分業にひずみが生じることもある。また、移住や長期滞在に至らない場合、地域社会に受け入れられにくいという現実もある。いまだに多くの制度が「単一拠点」を前提として設計されていることが、生活の不便さや定着の妨げとなっている。
持続可能な二地域社会へ 求められる受け皿整備
2地域居住を一過性の現象で終わらせず、持続可能な地域社会の構築に結びつけるためには、地域側の「受け皿」整備が鍵を握る。住宅、仕事、子育て、教育といった生活インフラを、移住者・関係人口にとっても利用しやすい形で提供することが求められる。
総務省が新たに打ち出した支援制度は、そうした地域の自助努力を下支えするものとして意義深い。制度の真価が問われるのは、都市部から人が移動する「数」ではなく、地域に根付き、活力をもたらす「質」の構築にほかならない。