
ネット通販大手アマゾンの配達員として働く個人事業主の男性が、宮崎労働基準監督署により労働災害と認定された。業務委託契約を結び、フリーランスとして働いていたにもかかわらず、実態として「労働者」にあたると判断されたのは全国で2例目。労働環境の改善を求める声が高まる中、フリーランスの働き方にどのような変化が訪れるのか。
配達中の事故が労災認定、「フリーランス」でも守られる権利
雨に濡れた外階段がぬるりと滑る。荷物を抱えたまま、男性の足元が崩れ落ちた。強く打ちつけた腰と胸の痛み。立ち上がろうとしても、体が言うことをきかない——。
この事故が労災として認定されるまで、男性は「自分は個人事業主だから、補償などない」と思っていた。しかし、宮崎労働基準監督署の判断は違った。「実態として労働者にあたる」と認定され、補償の道が開かれたのだ。
ネット通販大手アマゾンの配送を請け負うフリーランス配達員が労働災害として認定されたのは、これが全国で2例目となる。労基署の判断は、フリーランスの働き方に一石を投じることになった。
「個人事業主」でも実態は労働者——背景にある雇用のグレーゾーン
この男性は、アマゾンの荷物を運送会社と業務委託契約を結んで配達する個人事業主だった。表向きは独立したフリーランス。しかし、実態はどうだったのか。
配送ルートはアマゾンの専用アプリを通じて指定され、変更の自由はほぼない。GPSで位置がリアルタイム監視され、休憩すらも管理される。男性はまるで「雇用されているかのように」働いていたのだ。
この労災認定は、2023年9月に神奈川県の横須賀労基署が認めたケースに続くものだ。その時も、配達中の事故で60代の男性が腰椎を圧迫骨折する重傷を負った。彼もまたアマゾンのアプリを通じて業務を管理され、1日100件以上の配達をこなしていた。
さらに、海外でも似たような問題が浮上している。例えば、アメリカのカリフォルニア州では、ウーバーやリフトなどのギグワーカーを「独立事業者」ではなく「労働者」とみなす法律(AB5法)が施行された。この法律により、一定の条件を満たせば、ギグワーカーも雇用者としての権利を得ることができる。欧州でも、フリーランスの権利を保護するための法整備が進んでおり、日本も同様の流れをたどる可能性がある。
労災認定がもたらす影響——フリーランスと企業の関係はどう変わる?
この決定により、フリーランスの配達員が今後も労災認定を受けやすくなる可能性がある。万が一の事故でも、一定の補償を受けられる道が開かれたことは、働く側にとっては大きな前進といえる。
しかし、企業にとっては新たな課題となる。業務委託契約であっても、実態が労働者とみなされる場合、企業は労働基準法や労働安全衛生法の適用を受けるリスクが高まる。これにより、契約の見直しや、より厳格な労務管理が求められるようになるだろう。
また、フリーランスの実態を把握するためのデータも注目される。例えば、厚生労働省の調査によると、日本国内でギグワークに従事する人のうち、約30%が1日10時間以上働いているという。また、配送業務に関わるフリーランスの約20%が過去3年間で業務中の事故に遭ったことがあると報告されている。こうしたデータは、今後の政策決定に大きな影響を与える可能性がある。
フリーランス契約は今後どう変わるのか——読者が取るべきアクション
この労災認定が与える影響は、物流業界にとどまらない。現在、多くの企業が「個人事業主」として外部に業務委託する形を取っているが、今回の判断を受けて、契約形態を見直す動きが広がる可能性がある。
企業側は法的リスクを回避するため、業務委託契約の条件を厳格化するか、逆に正社員・契約社員として雇用する方向へシフトするかの判断を迫られるだろう。フリーランスという働き方そのものが、根本的な変革を迎える時期に来ているのかもしれない。
フリーランスとして働く人々にとって、まず検討すべきなのは労災保険への加入だ。個人事業主でも加入できる「特別加入制度」を利用すれば、労災保険の適用を受けられる。次に、業務委託契約を結ぶ際には、業務の裁量や責任範囲について明確にし、労働者性を判断されないよう注意が必要となる。また、フリーランスの権利向上を求める動きが進んでいるため、労働組合や業界団体への加入を検討することも選択肢の一つだ。
今後、類似の事例が増えることで、労基署の判断が一般化し、業務委託契約の在り方が根本的に見直される可能性もある。企業、労働者、そして社会全体が、この問題にどう向き合うかが問われている。