
カレーハウスCoCo壱番屋が2024年8月の値上げ以降、客数減少に直面している。背景には業界全体の競争激化があると考えられ、今後の動向が注目される。
値上げ後のココイチ—客離れの実態
カレーハウスCoCo壱番屋(以下、ココイチ)は、2024年8月に一部商品の値上げを実施した。これにより、最もシンプルなポークカレー(ライス300g)は、東京都・神奈川県・大阪府で591円から646円へと55円の値上げとなり、他の地域では570円から646円へと76円の値上げが行われた。この価格改定以降、ココイチの客数は減少傾向にある。
運営会社である壱番屋の2025年2月期第3四半期決算によれば、9月から11月の客数は前年同期比で4.9%減少した。第1四半期(3.1%増)、第2四半期(1.5%増)と増加していた客数が、9月以降減少に転じている。
価格競争が激化—ココイチが直面する市場の変化
ココイチは2019年以降、断続的に値上げを行ってきたが、大きな客離れは見られなかった。しかし、2024年8月の値上げ以降、特に地方部での客足減少が顕著となっている。これは、地域別に異なっていた価格を全国一律にしたことで、大都市以外の地域での値上げ幅が大きくなったことが一因と考えられる。
また、牛丼チェーン各社が低価格のカレーメニューを展開しており、例えば松屋のマイカリー食堂ではプレーンカレーが税込530円で提供されている。さらに、ネパール人を中心とした店主が営むインドカレー店、通称「インネパ」が全国的に増加し、リーズナブルな価格でカレーを提供している。これらの競合店との価格差が、ココイチの客離れにつながっていると考えられる。
競争が激化するカレー業界—ココイチのライバルたち
ココイチの競争相手として、まず牛丼チェーンのカレーメニューが挙げられる。松屋のマイカリー食堂はカレー専門業態として価格の安さを武器に拡大しており、松屋や松のやとの複合型店舗が増えている。また、すき家や吉野家もカレーを低価格で提供しており、すき家カレーや吉野家の黒カレーなどは500円前後で食べることができる。
インド・ネパール系カレー店、いわゆる「インネパ」も競争を激化させている。ネパール人経営のカレー店が増加しており、ナン食べ放題などのサービスで支持を集め、全国のショッピングモールやフードコートにも進出している。800円程度でカレーとナンのセットを楽しめる点が強みとなっている。
また、ゴーゴーカレーなどの他のカレー専門チェーンも競争相手となる。ゴーゴーカレーは金沢カレーを展開し、カツカレーが主力商品であり、ココイチと同じかやや安い価格帯で提供されている。日乃屋カレーは東京を中心に展開しており、「甘くて辛い」独特のルーが特徴である。関西や北陸ではカレー堂やカレーのチャンピオンが競争を繰り広げている。
さらに、家庭用レトルトカレーやコンビニカレーも無視できない存在である。セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなどのコンビニが提供するカレーは、味やコストパフォーマンスの面で競争力を増している。加えて、高品質なレトルトカレーが増え、自宅で手軽に本格的なカレーを楽しめる環境が整っている。
トッピングの価格高騰と消費者の選択
ココイチでの食事において、多くの利用者がトッピングを追加することが一般的である。基本のポークカレー(ライス300g)は646円(税込)で提供されているが、人気のロースカツ(352円)、チーズ(264円)、ほうれん草(252円)を追加すると、合計価格は1,514円(税込)となる。これにサラダやドリンクを加えれば、1,800円を超えることも珍しくない。
かつては「自分好みにカスタマイズできる楽しさ」がココイチの魅力の一つであった。しかし、現在では自由にトッピングを選ぶと高額になり、「好きなものを組み合わせると予算オーバーしてしまう」との声も増えている。SNS上では「トッピングの楽しさはあるが、気軽に頼める価格ではなくなった」「もう牛丼屋のカレーで十分」といった意見も見られる。
この価格高騰の背景には、原材料費の上昇だけでなく、人件費や物流コストの増加があるとされる。企業としては利益確保が必須であるものの、消費者の可処分所得が伸び悩む中、高価格化が購買意欲を削いでいる可能性も否めない。
値上げがもたらす客離れと競争の激化
消費者の中には、以前よりもトッピングを控えめにする傾向が見られ、満足度と価格のバランスをどう取るかが課題となっている。ライスの増量や辛さの調整によっても価格は変動し、よりボリュームのある一皿を求める場合には1,800円を超えることもある。
ココイチの値上げは、原材料費や人件費の高騰に対応するための措置であり、企業としての利益確保には寄与している。しかし、消費者の価格感度が高まる中、値上げが客離れを招くリスクも浮上している。特に、低価格帯の競合店との価格差が広がることで、消費者の選択肢が増え、ココイチ離れを加速させる要因にもなり得る。また、地域ごとの価格設定やプロモーションを見直し、消費者のニーズに合わせた柔軟な戦略が求められる。企業としては、コスト増加への対応と顧客満足度のバランスを取ることが重要だ。