三菱UFJ銀行の貸金庫から金品が繰り返し盗まれた事件で、同行の元行員・今村由香理容疑者(46)が窃盗容疑で逮捕された。その後、逮捕から時間が経過する中で、警視庁の捜査や内部調査により犯行の手口が徐々に明らかになってきている。
産経新聞によると、逮捕の決め手となったのは、今村容疑者が自ら残した貸金庫内の写真記録だった。
写真記録が立証の要に
同行は昨年10月、貸金庫の金品が窃盗被害に遭っていることを把握し、早い段階で警視庁に相談を行った。しかし、貸金庫の性質上、銀行側は中身を把握しておらず、顧客側も客観的な記録を残していないことから、立証には困難が予想された。
そんな中、警視庁が押収した今村容疑者のスマートフォンには、貸金庫内のキャビネットの写真が多数保存されていた。これは、利用者が来店して貸金庫を使用する際、盗難が発覚しないように原状回復するために今村容疑者が残していたものとみられる。
捜査関係者によると、この写真が顧客の紛失物の確認を容易にし、盗まれた金品を立証する重要な証拠となった。さらに、質店に金品を質入れした取引記録も加味し、捜査2課は証拠を固めていった。
他の事例に見るスマホ記録の証拠化
自らのスマホ記録が証拠となり、犯行が立証された事件は他にも存在する。
2018年の「座間9人遺体遺棄事件」では、犯人のスマートフォンに保存されたメッセージ履歴が重要な証拠となった。犯人はSNSを通じて被害者と接触し、メッセージのやり取りが犯行計画の立証に繋がった。
また、保険金目的で替え玉殺人を計画した事件では、犯人のスマホに残されていた検索履歴が動機の解明に大きな役割を果たした。警察は、犯人が被害者に関する情報を事前に調べていたことを確認し、計画的な犯行であることを証明した。
こうした事例は、デジタル機器の普及により個人の行動や通信履歴が詳細に記録される現代において、スマートフォンが重要な証拠物となることを示している。
貸金庫管理の盲点を突く手口
通常、貸金庫を開くには利用客と銀行がそれぞれ所持する鍵で二重ロックを解除する必要がある。しかし、今村容疑者は貸金庫業務を統括する立場を悪用し、封をされた予備鍵を不正に使用していた。封筒を開封した痕跡を残さないように再び封をし、貸金庫の開閉記録が残るコンピューターの電源を切るなどして犯行を隠蔽していた。
また、利用者から「預けた現金がない」と問い合わせがあった際には、今村容疑者自身が対応し、「お忘れ物があった」などと言い逃れ、事態を収拾していたという。
自転車操業的手法で被害隠蔽
今村容疑者は約4年半にわたって窃盗を繰り返していたとされる。警視庁の捜査で明らかになった手口では、顧客の来店時には別の貸金庫から金品を一時的に補填し、盗難の発覚を防いでいた。
さらに、盗んだ現金の帯封や札束の一部を自宅に保管し、補填する際に元の状態を偽装していた。金塊についてもシリアルナンバーを確認し、同じ物を質店から再び請け出して貸金庫に戻すなど、巧妙な隠蔽工作が行われていたとみられる。
再発防止策の必要性
同行は現在、貸金庫の運用を見直し、再発防止策を講じると発表している。SNS上では「貸金庫利用時に本人に通知が届くシステムを導入すべき」といった声も上がっており、銀行の内部管理体制の見直しが急務だ。
今回の事件は、日本を代表する銀行で長期間にわたり内部チェック体制の不備が放置されていたことを浮き彫りにした。金融機関全体の管理体制強化が求められている。