業務への影響実感 待遇改善、未来への投資
保育現場に円安・物価高の影響が深刻化している。人材紹介サービス「マイナビ保育士」を運営する株式会社マイナビ(東京・千代田)が2024年10月11日に発表した「保育職に関する調査」によると、保育士の約8割が業務に影響が出ていると回答。
人件費削減による職員不足や、光熱費・食材費の高騰などにより、現場は厳しい運営を強いられている。保育士の多くは仕事にやりがいを感じながらも、待遇面での不安を抱えており、専門家は「保育の質の低下を招きかねない」と警鐘を鳴らす。
保育現場の人手不足を深刻化させる円安・物価高
マイナビの調査によると、回答した保育士の約8割が、昨今の円安・物価高騰の影響によって、保育業務に影響が出ていると回答した。その影響として最も多かったのが「適切な人員配置がされず業務過多」(40.7%)だった。次いで「園内の節電」(36.3%)となり、円安や物価高騰により人件費や光熱費のコストカットが行われている実態が浮き彫りになった。
具体的な影響の内容としては、「人件費削減のため求人を出せない」「行事の規模縮小や回数を減らしている」「おもちゃや遊具の購入を控えている」といった声が上がった。安全確保や保育の質を維持するために、保育士は本来業務以上の負担を強いられている実態が浮き彫りになった。
【調査概要】「マイナビ 保育職に関する調査」
○調査期間/2024年8月6日(火)〜2024年8月19日(月)
○調査方法/クロス・マーケティングモニターへのインターネット定量調査
○調査対象/20~59歳男女/正社員勤務
2022年以前から現在の勤め先で同じ職種で働いている会社勤務者
職種:保育(保育士・幼稚園教諭)、一般会社員(介護・看護・保育を除く)
※除外職業(本人及び家族):転職サービス・転職エージェント、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ・広告等マスコミ関係、市場調査
○調査機関/株式会社クロス・マーケティング
○有効回答数/保育:300、一般会社員:600
給与への不満を抱えながらも、保育士の7割以上が「今後も仕事を続けたい」と回答
保育士として働く人に、自分の働きに見合うと思う年収額を聞いたところ、平均は524万円だった。一方で、現在の年収額の平均は374万円にとどまり、150万円もの差が生じていることがわかった。
一般会社員では、働きに見合うと思う年収額と現実の年収額の差は89万円だった。保育士は、他の職種と比較して、自身の労働に見合った収入を得られていないと感じている傾向が強いと言えるだろう。
現状の生活に関して、金銭的な不安を感じるかを聞いたところ、82.3%の保育士が「感じる」(「感じる」37.3%+「少し感じる」45.0%)と回答。普段の生活で節約をしている保育士は84.0%に上り、節約しているものとして「日用品(53.0%)」「食費(53.0%)」が上位を占めた。
このような状況下でも、保育士の77.0%が現在の仕事に充実感ややりがいを感じていると回答。一般会社員(47.0%)と比較して30ポイントも高い結果となった。また、75.7%が今後も「同じ職種で働きたい」(「現在の勤め先で同じ職種の仕事を続けたい」52.9%+「別の勤め先で同じ職種に転職したい」22.8%)と回答している。
企業の6割以上が「円安は利益にマイナス」と回答
保育現場における厳しい状況は、決して他人事ではない。帝国データバンクが2024年5月に行ったインターネット調査(有効回答企業数は1,046社)では、円安の進行について、企業の63.9%が「利益にマイナス」と回答した。
他の産業セクターでも、コスト増加や価格転嫁の難しさなど、円安・物価高の影響は広がっている。保育業界に限らず、多くの企業がコスト管理や事業運営の効率化を迫られるなど、厳しい状況に置かれている点は共通していると言えるだろう。
保育は、未来を担う子どもたちの成長を支える、社会にとって極めて重要な役割を担っている。国は、2024年度予算案で、保育士の賃上げを目的とした補助金を拡充する方針を打ち出している。
しかし、今回の調査結果を受け、マイナビの医療・福祉第2統括本部 統括本部長である丸田綾希氏は、
「物価高騰・円安などの社会情勢に関わらず、保育や教育の内容に悪い変化が起こらないような取り組みを社会全体で考えていくことが必要です。保育職は仕事にやりがいを感じながらも、現在の給与に満足していないことも明らかになりました。
施設の出費を抑えるために事務用品などを自腹で購入する保育職もいるようです。現在政府が掲げている保育職の待遇改善の今後の進展に期待します」とコメントしている。
保育の現場では、子どもたちの安全を守るため、質の高い保育サービスを提供するために、日々努力を続けている。保育士の待遇改善は、単に保育士の生活を守るというだけでなく、日本の未来を支えるためにも、社会全体で取り組むべき喫緊の課題と言えるだろう。