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デロイトトーマツ“3100時間水増し疑惑”の深層 政府委託ビジネスの課題が露呈 アクセンチュア指名停止とつながる構造か

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デロイトトーマツ、総務省の委託事業で違反

デロイトトーマツグループの一角であるデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー(DTFA)が、総務省の「デジタル活用支援推進事業」で少なくとも3100時間分の人件費を過剰計上していた――そんな衝撃的な事実が、週刊文春の取材によって明らかになった。

内部通報をきっかけに調査が進むなか、子会社・デロイトトーマツテレワークセンター(DTTWC)では、他プロジェクトに従事する社員の勤務時間を“デジ活の稼働”に付け替えるような日報改ざんが常態化していた可能性が浮上している。数値は3100時間。単純計算で数億円規模にのぼる不正の疑いである。

 

総務省は「過請求の可能性は把握している」と認め、返還手続きを協議中だという。DTFA側は「管理上の不備」と説明するが、元社員の証言と企業側の説明には大きな溝がある。国の委託事業を担う巨大コンサルで何が起きていたのか。

その背景をたどると、別の省庁で起きたアクセンチュアの指名停止処分とも一本の線でつながってくる。

 

《国の委託事業はどう選ばれる?》知られざる“入札のリアル”と、現場が抱える重い義務

今回の事件を理解するには、国の委託事業そのものを知る必要がある。委託事業とは、省庁が政策を進めるために必要な業務を外部企業に任せる仕組みで、総務省、デジタル庁、経産省、厚労省などが日常的に民間へ外注している。

委託先は公募や入札で選ばれ、応募企業は膨大な提案書を作り込み、価格だけでなく実績や体制、専門性などの総合評価で審査される。国が求める条件は驚くほど細かく、業務の進め方、再委託の可否、セキュリティ要件、人件費の積算方法などが事細かに定められている。

とくに人件費については、誰が、いつ、何時間働いたのかを示す働いた記録を付けるルールが徹底されている。事業終了後には膨大な報告書の作成が義務付けられ、証憑資料はCD-Rなどの媒体に保存して提出するよう求められることも多く、期日までに必ず納品しなければならない。

 

委託調査の売上を保持するための意図的な改ざんか

省庁の委託事業の一種、委託調査に携わった経験のある法人関係者は次のように語る。

「委託調査は、事前に想定する人件費や稼働時間などを記載して見積を提出するが、実作業段階ではヒアリングやレポート作成など作業をすすめるうえで、当初の想定時間とのずれが発生しやすい。大手監査法人やシンクタンクなど委託事業に慣れた業者であれば、当然、想定よりも余裕をもった時間を見込んでいるはず。そのうえで、レポート作成などの作業時間が短くすんだ場合、本来であれば、事実を正確に申告して、国や省庁への請求金額を少なくしなければならない。

ただ、業者としては、どうしても当初見込んだ売上を保持したく、稼働した人間の作業時間の帳尻を合わせるような形で改ざんを実施したのではないか。残念ながら、これはデロイトだけの話ではなく、今回の露呈を機に、他の業者でも改ざんが行われているというような話がちらほらと出てしまうような気がする」

実際に、提出されたデータは省庁側の監査に掛けられ、不備があれば是正指示が入る。現場の担当者は納品物だけではなく、稼働時間やヒアリングの実態などの周辺の「資料作成だけで、各省庁の様式にあわせたペーパーの作成が求められ、それだけで何十時間もかかる」とこぼすほどだ。

 

それほど厳しい制度のもとだから、そもそも大手企業やコンサルファームなど実績が豊富なところしか委託調査などには参加できないのが通例であり、過去の委託調査の受託企業を見ても、名だたるコンサルファームやシンクタンクなどが殆どである。それもこれも、我々の税金が元手となり支払われているものであるから、当然のことといえる。

それほど厳しい制度のもとで、今回の3100時間の過剰計上が起きていた。制度自体の厳格さと、現場で起きていた日報改ざんという“緩み”との落差は、委託スキームそのものの脆弱さを示唆しているのではないか。

《アクセンチュア指名停止の衝撃》デジタル庁が“4カ月の排除”に踏み切った理由

この問題と密接に関連するのが、2025年9月に発覚したアクセンチュアの「無断再委託問題」だ。デジタル庁は、情報提供等記録開示システム(マイナポータル関連)の開発・保守業務で、アクセンチュアが事前申請を行わず複数の企業に業務を再委託していたとして、4カ月の指名停止措置を下した。

国の委託事業では、再委託は必ず省庁への事前申請が必要だ。理由は明確で、行政サービスの根幹に関わるため、どの会社がどの工程を担当するのかを国が把握しなければならないからだ。

しかしアクセンチュアは申請を怠り、「事実を偽って業務を遂行した」と判断され、デジタル庁は「不正または不誠実な行為」と断じて処分した。大手コンサルが不正行為で排除されたことは、業界全体に強い衝撃を与えた。

そして今、DTFAの3100時間過剰計上疑惑が起きた。省庁委託の枠組みそのものに構造的な問題が潜んでいるのではないか――そんな声がSNSを中心に広がっている。

 

SNSでは怒り噴出 「医者の不養生」「数億円の火事場泥棒」世論が最も敏感に反応したポイント

SNSでは怒りと失望のコメントが止まらない。

監査法人グループが内部統制できていないとは“医者の不養生”そのものだ
「管理上の不備で済む話ではない。元社員の証言と食い違いすぎる」
「3100時間は普通のミスでは起きない規模。故意性を疑うのは当然」
「税金の委託でこれは許されない。返還だけで済ましてはいけない」
「アクセンチュアに続き、また大手コンサル。委託スキームの闇が深い」

中でも「3100時間」という数字が象徴的に扱われ、「仮に1時間1万円のタイムチャージでも3億円になる」と問題視する投稿も多い。国の委託費は税金であり、信頼を損なう不正が重なると制度そのものの正当性が揺らぐ。

 

《求められる“制度の再点検”》総務省の判断が今後の業界を左右する

総務省は現在、DTFA側からの報告内容と、元社員の証言の整合性を精査している。過請求が認定されれば返還請求に加え、指名停止や改善命令などの措置が検討される可能性もある。アクセンチュアが処分を受けた前例を踏まえれば、DTFAへの判断が大きな注目を集めるのは間違いない。

委託事業は行政に不可欠な仕組みだが、近年は案件の巨大化・複雑化に伴い、監督側も事業者側も負荷が増している。厳格な制度のなかに潜む“抜け穴”をどう塞ぐのか。今回の3100時間問題は、国の委託事業のあり方そのものに踏み込むきっかけとなる可能性がある。

何より、企業を監査する立場である監査法人の系列会社でこのような不正が行われた衝撃は大きく、デロイトトーマツの看板に大きな傷がつくこととなった。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。株式会社東洋経済新報社ビジネスプロモーション局兼務。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。 連載:日経MJ・日本経済新聞電子版『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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