
神戸・中央区の兵庫県警本部前に、報道陣が次々と詰めかけた。
逮捕の一報が流れたのは、9日午前9時半。
名誉毀損の疑いで身柄を拘束されたのは、政治団体「NHK党」党首・立花孝志氏(58)。
かつて「暴露系政治家」として注目を集めたその男が、今度は“言葉の責任”を問われている。
竹内英明元県議への“虚偽発信”
兵庫県警によると、立花氏は2024年12月、大阪府泉大津市長選の街頭演説で、故・竹内英明元兵庫県議(当時50)について
「警察の取り調べを受けているのは間違いない」と発言。
さらに竹内氏の死後も、「明日逮捕される予定だった」とSNSで拡散したとされる。
これらの発言はいずれも事実ではなく、竹内氏の名誉を著しく傷つけた疑いがあるという。
竹内氏の妻は6月、兵庫県警に刑事告訴し、受理されていた。
告発文書問題と“百条委”の影
発端は2024年の兵庫県知事選をめぐる内部告発文書問題にさかのぼる。
竹内氏は真偽を調べる百条委員会の委員を務め、県政の透明性を追及していた。
しかし、その活動が一部で誤解を招き、SNS上では「黒幕」「責任を取れ」といった中傷が相次いだ。
竹内氏は同年11月に議員を辞職。翌年1月18日、自ら命を絶った。
当時の県警本部長は「逮捕予定は全くの事実無根」と異例の答弁を行っている。
それでもネット上では、立花氏をはじめとする発信が“真実”のように拡散され続けた。
「夫はデマに殺された」
竹内氏の妻は8月の会見で涙ながらに語った。
「夫は『黒幕』と名指しされ、人格を否定する言葉の嵐にさらされた。誹謗中傷は止むことなく、絶望の中で命を絶った」
その言葉には、静かな怒りと深い悲しみがにじむ。
会見の場には、夫の遺影の周囲に白い花が飾られた。
“言葉の刃”が一人の政治家を追い詰めたという現実。
その重みを前に、記者席も息をのんだ。
死者の名誉毀損、異例の立件
兵庫県警によると、今回の逮捕は「死者の名誉毀損」としては極めて異例だ。
刑法上、死者への名誉毀損が成立するのは、発信内容が明確に虚偽である場合のみ。
立花氏の発言は、県警が「事実無根」と明言したにもかかわらず続けられたとされる。
SNSや動画配信による“言葉の暴力”が、法の裁きを受ける形となった。
「表現の自由」と「言葉の責任」
政治活動における言論は、民主主義の根幹を支える自由でもある。
だが、その自由の名の下で虚偽を拡散し、他者を傷つける行為はどこまで許されるのか。
今回の逮捕は、その線引きを社会に突きつけている。
ネット時代における「発信者責任」のあり方を、今、あらためて問う出来事となった。



