ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

スターバックス、中国事業の経営権を現地資本に売却 「高級路線」から「2万店舗・庶民のコーヒー」へ転換か?

コラム&ニュース コラム ニュース
リンクをコピー
スターバックス
パブリックドメインQより

米コーヒーチェーン大手スターバックスが、中国事業の過半数株式を現地投資会社に売却した。競争激化とシェア急落に直面し、スタバは「高級カフェ」という従来の路線を大きく転換。店舗数を一気に2万店超に拡大し、「庶民のコーヒー」市場へ参入するのか、その戦略の裏側を徹底考察する。

 

スターバックス中国事業の「支配権」が現地資本へ:40億ドルの大型取引

米コーヒーチェーン大手スターバックス(Starbucks)は2025年11月3日(現地時間)、同社の中国事業における過半数株式(最大60%)を、現地を拠点とする大手投資会社である博裕資本(ボーユー・キャピタル)に売却すると発表した。この取引により、スターバックス中国事業の経営権は、事実上、現地資本に移ることとなる。

これは、スターバックスにとって中国市場で初めて外部パートナーを経営の中枢に迎えるという、極めて異例かつ大きな経営判断だと言えるだろう。

博裕資本が6割、スタバはブランド維持

今回の売却のポイントは、以下の通りだ。

  • 売却先と割合: 博裕資本が合弁会社の株式を最大60%取得する。
  • 企業価値: 現金と債務を除く企業価値は、約40億ドル(日本円で約6,100億円〜6,160億円)と評価されている。
  • スターバックスの保持分: スターバックス側は株式の40%を保持する。
  • ブランドと知的財産: スターバックスのブランドと知的財産(IP)の所有権は引き続きスターバックスが維持し、新会社にライセンスとして供与し続ける。
  • 将来の収益見通し: スターバックスは、今後10年間にわたり、自社の持ち分とライセンスを合わせた売却益が総額で130億ドル超になるという強気な見通しを示している。

この取引は、単なる資産売却ではなく、現地市場での経験と資金力を持つ博裕資本と組むことで、苦戦する中国市場での事業の立て直しと拡大を強力に推し進めるための「戦略的提携」であると位置づけられている。新たな合弁会社は、引き続き上海に本社を置き、中国国内の約8,000店舗(発表当時)を管理・運営していく方針だ。

なぜスタバは「支配権」を手放したのか?シェア34%から14%への急落

1999年に中国へ進出し、伝統的にお茶文化だったこの国に「サードプレイス(第3の場所)」としてのコーヒー文化を事実上築き上げたスターバックス。一時、中国市場は「いずれ米国を抜いてスターバックス最大の市場になる」と創業者が期待を寄せるほどの成功を収めた。

しかし、現在、その地位は大きく揺らいでいる。今回の経営権売却の裏には、中国市場で進行している急速な市場環境の変化と競争激化がある。

1. 急速な市場シェアの低下:国産ブランドの猛追

市場調査会社ユーロモニター・インターナショナルのデータによると、スターバックスの中国コーヒー市場におけるシェアは、2019年の34%から、わずか数年で昨年の14%にまで急落した。2017年のピーク時には約42%を占めていたことを考えると、その落ち込みは深刻だ。

このシェアを奪っている最大の要因こそ、中国の国内企業が次々と参入した低価格コーヒーチェーンだ。特に、瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)はその象徴と言えるだろう。

2. 競争の主役:ラッキンコーヒーの「価格破壊」と「利便性」

 

ラッキンコーヒーは、当初からスターバックスの牙城を崩すべく、極めて攻撃的な戦略を展開した。

  • 価格破壊: ラテ1杯の価格は、スターバックスの約3分の1となる9.9元(日本円で約200円前後)といった低価格で提供されている。
  • 利便性重視: 店内での「体験」を重視するスタバとは異なり、ラッキンコーヒーのサービスの主体は、モバイル注文、テイクアウト、デリバリーだ。
  • 店舗数での逆転: ラッキンコーヒーは、フランチャイズ方式を活用して店舗数を爆発的に増やし、現在、2万店以上を展開している。これは、スタバの中国国内店舗数(約8,000店)を大幅に上回る。

市場に安価なコーヒーが溢れる中、スターバックスは一部の飲料の値下げなどで対抗を試みたものの、アナリストからは「独自の強みであるカフェという伝統的価値に集中すべきで、価格競争に参入すべきではない」という指摘も出ていた。

3. 景気減速と消費者の「賢い選択」

中国国内では、経済成長の鈍化に伴う消費意欲の低下が指摘されている。特に若年層を中心に、以前のような高い「体験」価値よりも、「コスパ」を重視し、より安価な商品を選ぶ傾向が顕著になっているようだ。このような背景から消費者が国産ブランドの品質向上を認めつつ、経済的な理由から安価な選択肢を選ぶという現実が、スタバの「高級路線」を揺るがしている。

4. 米中対立という政治的リスク

さらに、スターバックスは2024年の年次報告で、中国事業におけるリスク要因として、景気減速だけでなく「米中緊張の激化」を指摘している。関税措置、ボイコット、そして「政治的感受性の高まり」など、海外企業ならではの経営リスクも無視できない要素となっている。現地資本に経営権を委ねることで、これらの政治的・地政学的リスクを軽減する狙いもあると見られている。

高級路線からの大転換?「2万店舗・庶民のコーヒー」計画

 

今回の経営権の譲渡は、スターバックスが中国市場での戦略を根本から見直すことの証左だ。現地市場での経験と専門性を持つ博裕資本をパートナーに迎えることで、スタバは事業の「ローカル化」を劇的に進めることとなる。

最も注目すべきは、両社が掲げる野心的な店舗拡大計画だ。

1. 「2万店舗計画」は「庶民のコーヒー」への明確なシフト

現在約8,000店舗であるスターバックス中国の展開規模を、徐々に2万店舗にまで拡大する計画が発表されている。

この「2万店舗計画」は、従来の「高級路線」では到底達成できない数字である。スタバはこれまで、大都市の主要な商業施設やオフィス街といった一等地に「サードプレイス」としてゆっくり過ごせる空間を提供することで、コーヒーを「贅沢品」として売ってきた。

しかし、2万店舗という規模は、ラッキンコーヒーのような「テイクアウト・デリバリー中心」「低価格」のビジネスモデルでなければ現実的ではない。今回の提携は、スタバが中国勢との価格競争に本格的に参入し、市場の主戦場である「庶民のコーヒー」市場へシフトしていく意思表示だと解釈できる。

2. 博裕資本が持つ「現地での手腕」と「ローカル化」

博裕資本は、中国の名だたる企業に出資してきた巨大ファンドであり、現地市場における強固なネットワークとノウハウを持っている。スターバックスのブライアン・ニコル会長兼CEOも、「博裕投資の現地市場での経験と専門性によりスターバックスの中国市場、特に中小都市と新興地域での展開が力強く加速される」とコメントしている。

今後、新生「中華スタバ」は、

  • 中小都市や新興地域への積極的な出店
  • 現地消費者の嗜好に合わせたより多様で安価なメニュー開発
    (コーヒー以外の飲料や地域限定品の強化など)
  • テイクアウトやデリバリーを前提とした小型店舗の展開

といった、徹底したローカル密着型の運営を進めていく可能性が高い。

3. 成功への最大の課題:「質を保ったまま、価格を下げる」

 

スタバが新たな戦略で成功を収めるためには、大きな課題が立ちはだかる。それは、「質を保ったまま、価格を下げる」という、極めて難易度の高い舵取りだろう。

スターバックスがこれまで築いてきた「接客」「空間」「体験」といったブランドのクオリティを維持しつつ、ラッキンコーヒーに対抗できる価格帯で商品を提供できるのか。特に、これから進出する中小都市や地方で、その「スタバ体験」の質をどこまで保てるのかが鍵となる。

もし、価格を下げるために品質やサービスまで落としてしまえば、ブランドの価値そのものが失われ、スタバ独自の強みが消滅してしまうリスクがある。現地資本の手腕をもって、いかにコスト効率を上げ、ブランド価値を守り抜くか。このバランスが、今後の「中華スタバ」の命運を分けることになるだろう。

まとめ:日本の消費者にとっての「スタバの未来」

今回のスターバックスの中国事業における大転換は、グローバルブランドといえども、現地市場の変化、特に「価格競争」の激化と「消費者の賢い選択」に抗うことはできないという現実を突きつけた。

「高級カフェ」から「庶民のコーヒー」市場へ。

この大胆な方向転換が、今後、スターバックスの世界戦略全体、ひいては日本のスターバックスの経営方針にも何らかの影響を与える可能性は否定できない。例えば、グローバルでのメニューや価格戦略の見直し、デリバリーやテイクアウトに特化した新業態の開発など、より市場のニーズに合わせた変化が起こるかもしれない。

中国で「中華スタバ」が成功を収めるかどうかは、現地資本の実行力と、スターバックスが培ってきたブランドの力が試されることになる。私たちは、この世界的なコーヒー大手の挑戦を、単なる企業ニュースとしてではなく、「消費のあり方」が変化する時代の象徴として、今後も注目していく必要があるだろう。

【関連記事】

Tags

ライター:

新聞社で記者としてのキャリアをスタートし、政治、経済、社会問題を中心に取材・執筆を担当。その後、フリーランスとして独立し、政治、経済、社会に加え、トレンドやカルチャーなど多岐にわたるテーマで記事を執筆

関連記事

タグ

To Top