
イスタンブールの街角で、ひとりの日本人が深く頭を下げた。
お笑いタレント・江頭2:50――彼がトルコへ再び足を運んだのは、笑いのためではなく「お詫び」のためだった。
ファミリーマートとのコラボ商品を紹介する動画で、宗教上食べることが禁じられている豚肉成分を含むポテトチップスを、現地の人々に試食させていたことが発覚した。
SNS上では「誠実な対応」と称賛の声がある一方、「文化理解の欠如」と批判も起きた。
そして10月27日、YouTubeチャンネル『エガちゃんねる』の公式Xは「現地を再訪し、試食された方々にお詫びをしてまいりました」と報告。
“知らなかった”では済まされない時代に、江頭の行動は「宗教リテラシー」と「エンタメ業界の責任」を問い直すきっかけとなっている。
“笑い”の地に再び立つ
イスタンブールの午後。金色に染まるモスクの尖塔を背に、ひとりの男が深く頭を下げていた。
江頭2:50。還暦を迎えた芸人が、再びトルコの地に立っていた。
かつて動画の舞台となったケバブ屋の店先。彼の目の前には、あのとき笑顔でポテトチップスを頬張った現地の人々がいる。
江頭は言葉を選びながら、ひとりひとりに謝罪の言葉を伝えていった。
発端は、ファミリーマートとのコラボ商品「旨辛トルコ名物!伝説のケバブ風味ポテトチップス」。
“トルコ名物”を冠した商品であったにもかかわらず、その原材料には豚肉成分が含まれていた。
イスラム教徒が大多数を占めるトルコでは、豚肉は宗教上の禁忌。
現地で成分説明をせず試食してもらった動画は、SNS上で批判を浴びることとなった。
「知らなかった」では済まされない
江頭は9月7日、自身のYouTubeチャンネルで土下座謝罪を行い、「確認不足でした」と深く頭を下げた。
だが批判は、単なる“炎上”では終わらない。
そこには、グローバルに発信する立場にあるYouTuberや企業が持つべき「宗教リテラシーの欠如という、より根源的な問題が横たわっていた。
宗教リテラシーとは、他者の信仰や文化的背景を理解し、配慮する力のことだ。
特定の宗教を信じていなくても、その国や地域では何が神聖で、何が禁じられているのかを知ることは、
国際的に活動する表現者や企業にとって欠かせない“基礎教養”である。
「おもしろい」「バズる」といった企画の裏で、それが抜け落ちていた。
責任は誰にあるのか?企業と演者の狭間で
SNS上では、「演者を責めるのは筋違い」「企画監修をした企業側の責任が大きい」との意見が多く見られた。
確かに、商品成分の確認や文化的リスクの検証は、本来、企業のコンプライアンス部門が担うべき領域だ。
一方で、動画の主役として現地に立った江頭が、再びトルコを訪れて謝罪する姿勢を見せたことは、“芸人”という立場を超えた責任の取り方として、多くの視聴者に誠意として映った。
エガちゃんねるはその後、コンプライアンス対策専門部署を新設。外部の有識者を交えた監修体制を整えることを発表した。
これは個人チャンネルとしては異例の対応であり、エンタメ業界全体に一石を投じる結果となった。そして10月27日、公式Xで「関係各社と現地を再訪し、試食された方々にお詫びした」と発表。削除済みの動画に代わり、謝罪の経過を報告するという誠実な対応が続いた。
「笑い」は誰のためにあるのか?
イスラム教では、「知らずに食べた場合は罪にはならない」という教義があるという。
それでも江頭は、あえて現地に赴き、直接謝罪を選んだ。
その行動には、「笑いのために人を傷つけてはいけない」という信念があった。
近年、エンタメの国際化が進む一方で、コンテンツが文化や宗教に踏み込むリスクも増している。
“グローバル時代の笑い”とは、誰かの犠牲の上に成り立つものではなく、
相互理解の上に成り立つものでなければならない。
イスタンブールの空に沈む夕陽の下、江頭は再び頭を下げた。
その姿は、ひとりの芸人というよりも、
「文化の橋を渡る者」としての覚悟を示すものだった。



