拡大する美容医療市場の歪みと“個人ブランド依存”のリスク

全国で100超の拠点を展開する麻生美容クリニック(ABC)グループが、大阪国税局などの税務調査を受け、2023年までの約5年間で計約62億円の申告漏れを指摘されたことが分かった。うち約3億円は仮装・隠蔽を伴う所得隠しとされ、過少申告加算税・重加算税を含めた追徴は約12億円にのぼると報じられている。
基幹法人IDEA(大阪市)は取材に「当局との見解の相違はあったが、指導により修正申告と納税を完了している」とコメントした。
税務調査の焦点
関係者によると、グループ内で基幹法人から医療機器等を卸す際の仕入れ価格が実態より高く計上されていたと認定された。指摘は2019年ごろから2023年までの期間が中心で、AGAスキンクリニックや東京美容外科など、グループ各院の取引構造が調査対象になったという。共同通信や沖縄タイムスの報道では、約3億円については所得隠しと判断され、追徴は約12億円とみられる。IDEAはANN(名古屋テレビ)の取材に対し、修正申告と納税の完了をあらためて明言した。
ABCグループの公式コメント(追記)
麻生美容クリニック(ABC)グループは10月10日付で「一部報道に関する声明」を発表した。声明では以下のように説明している。
「このたび、麻生美容クリニック(ABC)グループに関する一部報道により、関係各位にご心配をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。当グループは、意図的に不正行為を行った事実は一切ございません。しかし、国税当局による税務調査を受け、その過程で指摘を受けた事項があり、修正申告および納付を行ったことは事実です。当グループは2024年9月に国税当局による税務調査を受け、指摘に基づき修正申告を行い、2025年3月に追徴税額を納付し、すでに対応を完了しております。今後も法令を遵守し、適正な税務処理を徹底することで、再発防止に努めてまいります。」
声明では「意図的な不正は一切ない」と強調し、納税対応はすでに完了していると説明している。グループは透明性の確保と信頼回復に努める姿勢を示した。
拡大する美容医療市場、その「影」—過当競争と収益環境のばらつき
背景には市場拡大と競争激化がある。国内の美容医療市場は2023年に5,940億円、2024年に6,310億円と推計され、コロナ禍以降も成長が続いた(矢野総研調べ)。一方で「大手医療法人の倒産」など不安定要因も指摘され、拡大の陰で収益環境にはばらつきが生じている。
東京商工リサーチの集計でも、主要248法人の2024年売上は前年から約30%増と伸びたが、「市場は踊り場に差し掛かった可能性」や減収・赤字体の増加に言及している。自由診療中心の拡大は広告・人件・設備等のコスト構造を押し上げ、グループ間取引の透明性や内部統制の巧拙が収益とガバナンスの差となって表面化しやすい環境だ。
また業界では、2025年初頭に他大手グループ(TCB東京中央美容外科)でも申告漏れや追徴課税が報じられており、課税当局が美容医療の事業スキームに注視を強めていることをうかがわせる。
“顔”の影響力とレピュテーション—麻生泰氏の炎上事例
グループの中核ブランドである東京美容外科は、統括院長・麻生泰氏の発信力で知られる。2024年末、同院所属医師による「解剖実習の献体写真」SNS投稿が批判を集め、麻生氏が釈明・謝罪する事態に発展した。
麻生氏は2025年1月、X(旧Twitter)休止を表明。投稿では「医師退職や採用辞退、銀行取引の白紙化」といった業務面の影響にも言及している。個人の発信と企業ブランドが一体化する時代において、経営・医療倫理・広報の連携が不十分な場合、レピュテーションリスクが一気に顕在化することを示した。
今後の焦点
今回の税務指摘は、当該グループにとどまらず、美容医療全体の「内部取引の透明性」「医療法人と運営会社の役割分担」「情報発信と医療倫理」の3点を改めて問い直す。市場は拡大しているが、自由診療ゆえの説明責任も重い。税務上の処理のみならず、患者の信頼に直結するガバナンス整備が問われる局面に入ったと言える。