
ファミリーマートが展開するオリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」が、コンビニ業界の勢力図を塗り替えている。2021年に誕生して以来、前年比売上130%以上を毎年更新し続け、2024年度には年間売上130億円を突破。いまや「ファミマで服を買う」が当たり前の光景になりつつある。
SNSでは「ユニクロより話題性ある」「推し活グッズのついでに買ってしまう」といった声が相次ぎ、売り場では完売商品が続出。緊急用から日常需要へ――その変化の実態を追った。
キムタク効果で爆発的ヒット、ソックス2800万足
コンビニエンスウェアを世に知らしめたのが「ラインソックス」(390円・税抜)だ。青と緑のファミマカラーを取り入れたシンプルなデザインは、ファッションデザイナー・落合宏理氏の手によるもの。発売直後に木村拓哉さんが着用した姿がSNSで拡散され、「#ファミマソックス」が一時トレンド入りした。
その結果、累計販売数は2025年8月時点で2800万足を突破。インバウンド需要も旺盛で、訪日外国人がかごいっぱいに買う姿が各地で目撃されている。SNS上では「海外の友人に頼まれて10足買った」「お土産に最適」との投稿も増え、いまや観光消費の象徴的存在にもなった。
“緊急用”から“日常着”へ 他社を大きく引き離す
従来のコンビニ衣料は忘れ物や急な出張対応など“緊急需要”に特化していた。しかしファミマは「いい素材、いい技術、いいデザイン。」を掲げ、普段着として長く着られる品質へと転換した。伊藤忠商事の繊維事業を背景に原料調達や縫製技術を活用し、商品力を高めた。
「アウターTシャツ」(1355円・税抜)はUSAコットン100%を採用。厚手で丈夫ながらトレンドのビッグシルエットを実現し、価格はユニクロの定番Tより10円安い。「ならば近所のファミマで」と消費者の選択肢を広げた。
競合を見ると、ローソンは無印良品との提携で女性客を取り込み、セブンイレブンは「セブンプレミアムライフスタイル」で下着やパジャマを販売している。しかしいずれも“緊急需要型”にとどまり、日常使いの領域ではファミマが一歩も二歩も先を行っている。
店頭で起きる“争奪戦”
人気ぶりは現場で如実に表れる。都内のある店舗では「アウターTシャツ」が入荷すると即日売り切れ。「3店舗回ってやっと買えた」という声がSNSで拡散された。売り場では「ソックス全色を揃えたい」と複数人が同時に商品を手に取り、商品棚が数時間で空になることも珍しくない。
2025年夏に発売された「コンビニサングラス」(2264円・税抜)は、想定の3倍のスピードで売れ、3週間で完売。追加販売分も瞬時に消え、「ファミマでサングラスを買う日が来るとは」「推しのライブ直前に壊れて助かった」などの声がSNSにあふれた。もはや“見つけたら即買い”が合言葉となっている。
「試着できない」弱点を逆手に取る
通常なら衣料品にとって致命的な「試着できない」問題も、時代が後押しした。オンライン購入が普及したことで、消費者は試着せずに買うことへ抵抗感が薄れた。ファミマはパッケージやPOPに細かなサイズ表記を載せ、さらにSNSで購入者のレビューや着用写真が拡散される仕組みを生み出した。
「ジョガーパンツ」「ショートパンツ」「ブラウェア」といった本来試着が重要なアイテムですら売上を伸ばしている。SNSには「丈感レビューが役立った」「履き心地最高」といった声が並び、消費者同士が宣伝役となって人気を押し上げている。
海外展開と“ファミマ服”カルチャーの誕生
ラインナップは約150種類。全身コーディネートが可能なまでに拡充され、2025年9月に東京・芝浦にオープンしたサテライトショップは試着室を設けず全身鏡のみ。それでも売上は通常店舗の5〜10倍に達し、週末には若者が列を作る人気スポットとなった。
さらに2024年から台湾でも販売が始まり、現地でも「旅行中に買った服を帰国後も愛用している」と好評。SNSでは「台湾ファミマで服が売っていた!」と驚く投稿が広がり、海外展開そのものが宣伝効果を生んでいる。
ファミリーマートの「コンビニエンスウェア」は、緊急需要の衣料品から日常を彩るカルチャーへと進化した。売上は130億円を超え、ソックスやTシャツは完売続出。店頭では買い物客が争奪戦を繰り広げ、SNSでは「ユニクロ超え」の声すら上がる。
国内コンビニ市場が飽和する中、衣料品は新たな起爆剤となる可能性を秘める。ファミマが築いた“コンビニで服を買う”文化は、今後さらに海外へと広がり、他社を巻き込んだ新しい競争軸を生み出すだろう。