
人気漫画家の江口寿史が「中央線文化祭」広告イラストで無断商業利用と写真トレース疑惑。モデルの金井球氏は権利を主張、謝罪なし対応に批判も。過去の古塔つみ炎上との類似点から、クリエイター倫理と広告業界の責任を問う。
人気漫画家の広告イラストに”無断商業使用”&”トレパク疑惑”
漫画家・イラストレーターの江口寿史氏が、10月18日・19日にルミネ荻窪で開催される「中央線文化祭」の屋外広告イラストを手がけた。ところが、その作品が一般ユーザーの写真”無断商用利用”して”トレース”したものだったと指摘され、物議を醸している。
江口氏はX(旧Twitter)にて以下のようにコメントした。
「中央線文化祭のイラストは、インスタに流れてきた完璧に綺麗な横顔を元に描いたものですが、ご本人から連絡があり、アカウントを見てみたらSNSを中心に文筆/モデルなどで発信されている金井 球さんという方でした。その後のやり取りで承諾を得たので再度公開します。金井さんの今後の活動にも注目してくださいね。」
広告掲出後に、図らずもモデルとなった女性本人から問い合わせが入り、江口氏は事後的にモデル本人へ使用許諾を得たという。本人コメントは事態は丸く収まったかのような口ぶりであるが、謝罪や経緯の詳細説明はなく、「SNS写真の無断商用利用」と「創作活動におけるトレースの是非」をめぐり議論が広がっている。
過去には漫画の実写背景を批判、大ブーメラン
江口氏は過去に『おやすみプンプン』『アイアムアヒーロー』を例に出して、漫画の背景が限りなく実写化していく傾向に対して批判をしていた。現実の写真をトレースするようにそのまま漫画に反映させる行為に対して、これが続けば「漫画の魅力はこの先どんどん無くなっていく」と発言したのだ。
そのような発言からも分かるように創造性を重んじる江口氏が、今回他人の写真を無許可でトレースして制作報酬を受け取ったのは、過去の発言と矛盾しているのではないかという意見もあがっている。
モデルとなった金井球氏「わたしはわたしだけのもの」
問題の広告イラストの元写真モデルは、文筆家やモデルとして活動する金井球(かない・きゅう)氏だった。
「わたしの横顔が、知らないうちに大きく荻窪に……? と、お問合せをしたところ、直接ご連絡をいただき、このようなかたちとなりました」
と経緯を説明し、事後にクレジット表記・使用料の支払いを受けたそうだ。金井氏は大きく騒ぎ立てることはしていないが、先ほどの文章に続けて
「わたしはわたしだけのものであり、人間としてさまざまな権利を有しております」
と投稿。肖像権やパブリシティ権などの観点から、自身の権利を静かに主張しているように感じられる一文だ。
モデル本人が表立った批判を避ける中でも、SNS上では
「モデルの女性が気付かなかったらそのままにしてたんか?」
「勝手に人の写真をトレースした作品で金もらっておいて、SNSで謝罪もなく「金井さんに注目してください」はナメてるやろ」
といった批判の声が上がっている。
想起される“古塔つみ”トレパク騒動
今回の件で多くの人々が思い出したのが、2022年に大炎上したイラストレーター・古塔つみ氏の「トレパク騒動」だろう。古塔氏は広告や音楽ジャケットなど商業的な場面で活躍していたが、作品の多くが写真のトレースや加工だったと発覚。実際には芸術的実力が無かったのではないかという評価になったところで、実は古塔氏が男性であり性別を偽って未成年女性フォロワーから画像を集めて利用していたのではという点も指摘され、活動休止に追い込まれた。
当時も「プロのクリエイターがトレースに頼るのはどうなのか」「被写体の権利は軽視されていないか」という強い批判が巻き起こっており、今回の江口氏の事例も近しい構図で受け止められている。
大物なら事後許諾でもOK?倫理やコンプライアンスの問題に
今回の江口寿史氏による広告イラストの”無断商用利用”&”トレース疑惑”は、本人が大きな謝罪を示さず事後対応で収束を図ったことで、かえって議論を広げている。過去の古塔つみ騒動が示すように、トレース問題はクリエイティブ業界にとって避けて通れない課題である。作品の完成度や広告効果以前に、「モデルの事前同意」と「創作における独自性」をいかに担保するか、今後の広告制作のあり方を問い直す事件となったのではないだろうか。
「創作活動におけるオマージュと盗用の境界」「事後許諾で済むのか」「著名作家だから許されるのか」といった論点が噴出し、クリエイター倫理や広告業界のコンプライアンス体制にも疑問符がついている。