
福岡県警は2025年9月4日、住居不定・無職の田斉法子容疑者(51)を詐欺の疑いで逮捕した。容疑は2018年10月、福岡市内の女性(52)に対し、実在しない不動産投資を持ちかけ、現金1,000万円をだまし取ったとするものだ。県警は田斉容疑者が2018年以降、知人ら約70人から総額20億円規模の金を集めていたとみて調べを進めている。
架空の「水晶投資」話
捜査関係者によると、田斉容疑者は「建物の土台に水晶を埋め込み風水調整することで付加価値を高め、売却益を得られる」「投資すれば配当金を受け取れるうえ元本も保証される」と虚偽の説明をしていたという。
当時、田斉容疑者は「占星術師」を名乗り、四柱推命や風水を使って企業コンサルタントをしていると周囲に吹聴していた。
取り調べに対し、田斉容疑者は「お金を受け取ったことは間違いないが、嘘を言ったつもりはない」と容疑を否認している。
信頼を築いた豪奢な暮らし
田斉容疑者は被害者夫婦と8年前に出会った。子どもが同じ幼稚園に通っていたことから家族ぐるみの付き合いに発展。夫婦が目にしたのは、華やかな生活ぶりだった。
被害者の夫は「エルメスやグッチが好きで、百貨店ではVIP待遇。担当が商品を並べ、容疑者は次々と買っていた」と振り返る。
また、友人らに対し、食事代や旅行代を惜しげもなく負担し、「経費で落ちるから大丈夫」と語っていた。3,000円のお茶代から数万円の食事代、10万円の会食でも「誰の腹も痛まない」と言い切り、周囲の人々をもてなすことで強い信頼を得ていたという。
「洗脳されていた」と語る被害者
夫婦は知り合って1年半ほどたった頃、投資話を持ちかけられた。最初は200万円、300万円と小口の出資で、5〜10%の利息を受け取った。返金の実績により信頼はさらに深まり、最終的には約1億3,000万円を振り込むまでになった。しかし返ってきた金はごくわずかだった。
被害者の夫は「今思えば完全に洗脳されていた。他人の助言も耳に入らず、裏を取ることもせずに信じ切ってしまった」と悔しさをにじませる。妻も「ニセコの高級リゾートや東京・大名、六本木のビル開発、軽井沢の別荘など具体的な名前を挙げられた。秘密の投資だから口外できないと言われ、信じ込んでしまった」と証言する。
夫婦は別の被害者からの相談で事態に気づき、警察に被害届を提出した。
県警の捜査によれば、田斉容疑者は全国の知人や占いの顧客を対象に投資を勧誘し、少なくとも70人から20億円を集めたとみられる。豪奢な生活や手厚いもてなしを通じて「人脈と金脈に恵まれた人物」と印象づける巧妙な手口が特徴とされる。警察は資金の流れを含めて全容解明を急ぐ方針だ。
広がる「占い商法」への警鐘
占いを利用した詐欺は国内外で後を絶たない。国内では「霊感商法」やスピリチュアルを名目にした被害が相次ぎ、消費者庁も注意喚起を続けている。
今回の事件は「占星術」や「風水」といった馴染み深い言葉を利用して巧みに信頼を築いた点で新たな手口といえる。専門家は「人間関係を土台にした詐欺は被害者の心理的抵抗感が低く、被害額が大きくなる傾向がある」と指摘している。
田斉容疑者は容疑を否認しており、裁判で事実関係が争われる可能性もある。警察は被害者の証言や金融記録をもとに、詐欺の実態を明らかにする構えだ。
今回の事件は「信頼」を武器にした典型的な投資詐欺として、改めて注意喚起が求められている。