
広島県の名門・広陵高校野球部を揺るがした部内暴力問題で、監督の中井哲之氏が21日付で退任した。後任には現コーチの松本健吾氏が就任し、23日から始まる秋季広島県大会の地区予選に新体制で臨む。だが、信頼回復の道は平坦ではない。
発端は「カップ麺」 暴力が甲子園辞退へ
問題のきっかけは今年1月。当時2年生の部員4人が、禁止されていたカップ麺を食べた1年生に対し、胸や頬を叩く暴力行為に及んだ。学校は内部調査を行い、日本高野連に報告。3月には「厳重注意」処分が下され、加害生徒は公式戦の出場を停止された。しかし処分は公表義務がなく、外部には伏せられたまま。被害生徒は3月に転校を余儀なくされた。
その後、広陵は夏の県予選を勝ち抜き、甲子園出場を決める。しかし、暴力問題がSNS上で拡散されると状況は一変。過去の暴力被害を訴える声も広がり、学校は第三者委員会を設置した。誹謗中傷や爆破予告が相次ぐ事態に、学校は8月10日、前代未聞の甲子園辞退を表明するに至った。
「イジメなし」報告と批判の声
退任発表と同じ21日、広陵高校は1・2年生部員へのアンケート調査を実施し「暴力・いじめ等の問題は確認されなかった」と報告。これをもとに、秋季大会には予定通り出場する方針を示した。
しかしSNSでは「被害者が転校しているのに、アンケートで『問題なし』とは欺瞞ではないか」「隠蔽体質のまま大会に出るのか」と批判が渦巻く。特に、被害者本人への謝罪や説明責任を果たさないままの復帰には疑問が集中している。
中井氏は副校長に留任 問われる説明責任
中井氏は1990年に監督就任。選抜大会で2度の全国制覇を成し遂げ、多くのプロ野球選手を輩出した名将でもある。だが今回の不祥事を受けて監督職を退いたものの、副校長や理事の職は続投する。学校側は「将来的な復帰の可能性」も否定していない。
一方で、被害生徒や家族に対して公の場で謝罪や説明を行っていないことが、批判を強めている。隠蔽とも取れる対応や、責任の所在があいまいなまま「新体制」で大会出場を急ぐ姿勢に、地元関係者からも冷ややかな声があがっている。
名門再生の条件は
新監督の松本氏のもとで秋季大会に挑む広陵。だが、信頼回復のためには、まず過去の暴力問題の真相を徹底的に解明し、被害者への誠実な謝罪と説明が欠かせない。SNSで飛び交う「辞任して終わりではない」という声は、広陵が抱える課題の重さを象徴している。
名門復活への道は、新体制の勝敗よりも、透明性ある説明責任をどこまで果たせるかにかかっている。