
フジサンケイグループ前代表の日枝久氏(87)が、「フジテレビに上納文化は存在しない」と強く否定した。中居正広氏の性加害報道以降、長年にわたりフジテレビの経営トップとして君臨してきた日枝氏に対する“悪玉論”がメディアで高まりを見せる中、沈黙を破って語られたのは、自らの経営責任とメディア批判に対する明確な反論だった。
この発言は、文藝春秋9月号および同社のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されたノンフィクション作家・森功氏による計10時間の独占インタビューの一部である。
「フジに上納文化なんて冗談じゃない」 疑惑を一蹴
上納文化とは、見た目の良い女性社員が経営幹部に取り入るような接待行為を求められる社内風土を指す俗称である。特に、港浩一元社長を囲む「港会」の存在が象徴的に語られてきた。
これに対し日枝氏は、「冗談じゃない。フジに上納文化なんてありません」と明確に否定。さらに、「上納と懇親はまったく違います。上納は自分の体を捧げるわけでしょう。それはテレビの楽しい文化とは異なります」と続けた。
氏がかつて掲げたスローガン「楽しくなければテレビじゃない」の延長が、結果的に性的接待の土壌をつくったとの批判に対しても、「そのような解釈は絶対に許せない」と強い言葉で反論した。
「人事権掌握」批判への釈明
さらに、日枝氏に長年つきまとった「人事への介入」問題についても言及した。第三者委員会の報告書では、代表取締役退任後も、会長や社長人事に日枝氏が強く関与していたと指摘されている。
しかし日枝氏は、「社長や会長の人事に関して、相談を受けてきました。責任はありますが、それはあくまで相談役としての立場で、決めるのはあくまで現職の経営陣です」と語り、自らの影響力を過大に捉える論調に反発した。
ただしこの発言に対しては、「長年経営の中心にいた人物が“相談役”として影響力を行使していないというのは無理がある」とする声もSNS上で多数見られる。
専門家・視聴者からの冷ややかな反応
同志社女子大学教授でコラムニストの影山貴彦氏は、SNSでこのインタビューを次のように評している。
「日枝さんが記者会見には一切出席せず、検証番組にも登場しなかったことを考えれば、文藝春秋という一媒体での独白は、理解を得られにくい。再建を目指すフジテレビにとって、明らかにマイナスでしかない」
また、一般のSNS投稿からは次のような反応が見られた。
「女子アナが気乗りのしない酒席で盛り上げさせられるのは、上納の一種と感じる人も多いはず」
「ホテルまでは手配しなくても、飲み会や連絡先の橋渡しをしていたなら、事実上の“理解ある空気”が存在したのでは」
つまり、“システムとしての上納”はなくとも、“暗黙の了解”による女性社員の負担が常態化していた可能性は、社会的に十分に問題視され得るものである。
文春インタビューで語られた“爆弾発言”と“遠藤提案”
日枝氏はさらに、フジテレビ副会長を務めた遠藤龍之介氏とのやりとり、同氏から退任を迫られた際の提案内容、また局長会で物議を醸した発言など、内部の舞台裏も語った。詳細は8月8日発売の文藝春秋9月号および「文藝春秋PLUS」で公開されている。
インタビューを通じて、日枝氏は自らの立場と見解を説明したものの、視聴者・市民からは「反省よりも弁明に終始した印象が強い」との声も根強い。フジテレビが「脱・日枝体制」への舵を切った現在、過去をどう総括し、未来へとつなげていくのか。日枝氏の発言が今後の経営ガバナンスの議論に与える影響は小さくない。