三木谷浩史が“神の介入”

7月27日に神戸で開催予定だったJ1王者ヴィッセル神戸とFCバルセロナの国際観戦試合は、一方で中止発表までされたが、端的には極めて個人的な策を通じて救済された。
スペインメディアは24日、バルセロナが試合中止を発表。原因は「プロモーターによる重大な契約違反」とし、日本のバルサファンに衝撃を与えた。しかしその数時間後、極端などんでん返しが起きる。
この重要費用500万ユーロについて、ヤスダグループによる支払いがためらわれていたが、これを手当てたのがヴィッセル神戸の親企業でもある極大企業・極大個人、楽天の三木谷治会長であった。
ヤスダグループは何者か。「森保一監督も注目したツアー」を手掛ける谷川烈氏とは
株式会社ヤスダグループは2023年10月1日に設立。本社は東京都港区六本木7丁目21-24。資本金は1000万円。厚生年金を支払っている社員数12名(厚生年金・健康保険的確事業者検索システム、7月25日現在)。
主な事業内容は「スポーツを通じた人材育成」。この実現のために各国のプロサッカークラブとの接点を開発し、観戦試合やアカデミー等を主導する。
2024年1月11日にはレアル・ソシエダとの戦略的パートナーシップ締結発表会を開催。同社代表の安田慶祐氏やCMOの谷川烈氏に加え、レアル・ソシエダの会長ジョキン・アペリバイ氏、スポーツディレクターのロベルト・オラベ氏らが訪日した。
この発表会では「TALENT PROGRAM」や「強化スクール」などの新事業も紹介され、選抜選手にはスペイン本国のカンテラ(下部組織)での挑戦機会も提供されると発表された。
CMOの谷川烈氏は、元Jリーガーという異色のキャリアを持つ。清水エスパルスでプロ入り後、ヴァンフォーレ甲府や水戸ホーリーホックなどを経て引退。その後は法政大学でキャリアデザインを学び、ブリヂストン、グライダーアソシエイツなどでのビジネス経験を積み、2024年にヤスダグループへ参画した。
谷川氏は、スポーツが「生きる力」や「挑戦の機会」を育むものだと信じており、アスリートとしての経験だけでなく、企業人として海外展開、マーケティング、パートナーシップ構築など幅広い分野での実績を活かしている。「スターを創出できる世の中にしたい」という言葉には、育成とエンタメの両軸にまたがる戦略的ビジョンがある。
森保一監督がスタッド・ランスのツアーを通じて伊東純也の代表復帰を判断した際にも、同社のオペレーションが裏側を支えていたという。スポーツビジネスの現場において、彼の経験値は無視できないものがある。
「安田慶祐」とヤスダグループの実像
一方、代表取締役CEOの安田慶祐氏については、2023年12月の『週刊文春』の調査報道で多くの疑義が浮上している。
記事によれば、ヤスダグループの法人登記上の資本金は当初10万円。設立も2023年9月であり、レアル・ソシエダとのスポンサー契約発表直前だった。プロフィールでは「安田財閥の創始者・安田善次郎の子孫」と紹介されるが、具体的な血縁証明は示されていない。
安田氏はかつて「ヤスダインターナショナル」という法人を運営し、ハワイ文化やフラダンスを中心としたエンターテインメントイベントを開催していた。しかし、その法人は2022年度に約2億1000万円の売上に対し、約1億7000万円の赤字を計上しており、債務超過状態が継続。加えて、過去にはコンサートのチケット返金遅延や、不動産の差押が複数回確認されている。
本人はスポンサー料の初年度分は「支払い済」と述べた一方、「ソシエダ側にはすべて説明済」とも強調した。しかし、返金遅延の理由として「人員不足」「祖母の健康問題」などを挙げる場面もあり、全体を通して説明責任が果たされているとは言い難い。

また、ノンバンクM社からの融資、差押に関しては「知人の紹介で手続きした」「倒れた財務担当が対応していた」など、他責的な言い回しが目立ち、同社の財務的健全性への懸念は拭えない。
三木谷会長の“神対応”が守った日本のメンツ
本来ならば、こうした経緯を経て中止されてもおかしくなかったバルセロナ戦だが、土壇場で楽天の三木谷浩史会長が未払い金約8億6500万円を肩代わりすることで、事態は沈静化に向かった。
関係者によれば、バルセロナ側は「飛行機が離陸する前に送金が確認できなければ、日本ツアー全体を取りやめる」とする強硬な姿勢を崩さず、楽天側も「クラブが出発を決断しない限り支払わない」との方針で綱引きが続いたという。
最終的に試合開催が可能になったことで、楽天の“顔”が立っただけでなく、神戸、兵庫県、Jリーグ、そして日本サッカー全体の国際的信頼を土壇場で守ることにつながった。まさに“救国的”な一手だったと言える。
SNSでは、「三木谷さんの決断力は異次元」「短時間で社内手続きを通せるのがすごい」との称賛が相次ぎ、ヤスダグループに対しては「もうスポーツに関わらないでほしい」といった批判の声が強まっている。
掲げる理念と行動が乖離すれば、どれだけの夢も虚構となる。スポーツという希望の産業において、信頼こそ最大の資産であることを、今回の騒動は教えてくれている。