「維新の松っちゃん」から「保守党の松っちゃん」へ 繰り返される“擬態”戦法

奈良市議会議員選挙で再び波紋が広がっている。話題の中心にいるのは、政治団体「日本保守党」の代表を名乗って出馬し当選を果たした松下こうじ氏(44)だ。だが、この「日本保守党」は、百田尚樹氏率いる国政政党「日本保守党」とは一切関係がない。名称だけが一致しており、まるで“擬態”したかのような選挙戦だった。
松下氏の今回の得票は前回出馬時の3倍近くに跳ね上がり、見事に当選。この結果を受け、ネット上では「有権者を誤認させる戦術ではないか」とする批判が相次いでいる。
ただ、この松下先生は似た戦法を前にも取っており、前回は「日本維新の会」とそっくりな地域政党名を用いて立候補し、実際に本家維新の候補者をわずか26票差で破って当選を果たしていたというから商魂たくましいというか政魂たくましい。
政党名、色彩、ポスターのデザイン、すべてを“似せて”票を積み上げる擬態戦略は、今回も功を奏した形である。
表面とは裏腹の信念 政治を志した14歳の決意
しかし、松下こうじという人物は、単なる“名前マジック”の使い手ではない。表面的な手法の裏には、思いと個人的な体験に裏打ちされた信念がある?かもしれない。松下氏のホームページによると、
「僕が政治を志したのは14歳のときでした。3歳年下の弟が先天性の心身障がいを抱えて生まれ、共働きの両親に代わって弟の世話をする日々のなかで、弱い者を思い、強い者に挑む自己犠牲の精神が自然と育まれました」
さらに、両親から「医師になって弟の将来を支えてほしい」と期待され、幼少期には再生医療や人工知能による診療支援といった未来型医療の研究に身を投じることを夢見ていたという。しかし、1985年のプラザ合意以降のバブル経済の兆しを見て、日本が誤った道に進んでいるという“国家的な危機感”を感じ、14歳で政治家への転身を決意する。
アップル買収から長野バレー構想まで 壮大すぎる政策群
松下氏はこれまでにも数々の地方首長選に挑戦してきた。1999年の大阪市長選では、当時のアップルコンピュータ(現在のApple Inc.)を市が買収し、大阪ワールドトレードセンタービルに本社を置かせるという“首都大阪構想”を提唱。長野市長選(2001年)では、長野を“シリコンバレー”化し、英語を公用語とする国際都市構想を打ち出した。
政策は壮大すぎて現実味に欠けると揶揄されたが、本人の信念は一貫しているようだ。「世界の情報と人材を地方から引き寄せる仕組みをつくりたい」という熱意は変わらないと書いている。
改革者か、トリックスターか 繰り返す“のっかり”戦法
今回の「日本保守党」の名乗りも、過去の「日本維新の会」騒動と軌を一にする。「維新の松っちゃん」から「保守党の松っちゃん」へ。SNS上では皮肉交じりに“次は参政党か”との声すら出ている。
これらを“制度の盲点を突いた擬態”と断じるのは容易だ。しかし、彼自身はあくまで「地域政党であることは明示している」と主張し、違法性を否定。実際、総務省も届け出上の問題は確認していない。
擬態という生き方 だが、有権者の期待を裏切るな
その政治手法が正攻法とは言えずとも、そこには独自の“生存戦略”がある。批判を浴びながらも、彼は選挙という舞台に立ち続け、票を集め、再び議席にたどり着いた。確かに、松下こうじ氏の歩みは“昆虫の擬態”に似ている。見た目を変え、周囲に溶け込み、生き残る。その巧みさに違和感を覚える人もいるだろう。
だが、当選してしまったからには、現行の法律では、いい仕事をしてもらうしかないだろう。選ばれたからには、政治家として、そしてかつて弟の未来を案じた14歳の自分に恥じないよう、実直に市政に取り組んでもらいたい。有権者を欺くための仮面ではなく、守るべき誰かのための“戦略”だったと証明してほしい。
総務省さん、選挙制度は変えた方がいいね。