
ドローン専業メーカーのACSL株式会社(グロース市場)は7月1日、前代表取締役CEO・鷲谷聡之氏が関与した「実態のない不適切取引」が社内調査で判明したことを受け、社外専門家らによる特別調査委員会を設置したと発表した。
鷲谷氏は4月30日付で代表取締役及び取締役を辞任しており、すでに経営は早川研介氏と寺山昇志氏の2名による共同代表体制へと移行している。
不適切取引の発覚と調査委員会の設置
発表によれば、今年3月、鷲谷氏の個人的な経済状況に関して社内で懸念が生じたことをきっかけに、社外取締役3名を中心とした内部調査が開始された。その結果、同氏が代表取締役の立場を利用し、2025年3月から一部業者との間で実態のない取引を行っていたことが発覚した。
同社は「過年度業績への影響は現時点で確認されていない」とする一方で、「全容解明と再発防止」を目的に、社外弁護士と独立取締役らによる特別調査委員会の設置を決議。調査報告書は7月中旬をめどに公表される見通しだ。
先進的ビジョンの裏で、ガバナンスの綻び
鷲谷氏は東京大学工学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントとして勤務。その後、2016年にACSLの前身である自律制御システム研究所に入社し、CFO、CMO、COOなどを経て2020年に代表取締役社長、2023年には代表取締役CEOに就任。企業の成長フェーズを一貫してけん引してきた。
上場後には、物流ドローン「AirTruck」や空撮セキュリティ対応機「SOTEN」などの開発を主導。「ドローンは都市設計の前提を覆す存在」「空の移動が地上の価値観を変える」と語るなど、先端分野への見通しの鋭さでも注目された人物だった。
しかし、経営トップとしての強い裁量が私的な目的に悪用される結果となり、産業をリードする立場にあっただけに、社内外に与える衝撃は大きい。黎明期のドローン産業において、信頼性と説明責任の重要性があらためて問われる形となった。
共同代表体制ですでに再始動 ガバナンスの立て直し急ぐ
ACSLでは、すでに4月30日付でCFOだった早川研介氏と、COOの寺山昇志氏の2名が共同CEO(Co-CEO)として代表に就任しており、経営は新体制のもとで再始動している。
会社側は今回の選任について、「多面的な視点と機動力を備える体制」と説明。2名の代表が相互に補完・けん制することで、事業成長とガバナンスの両立を目指す姿勢を明確にしている。
調査委員会の委員長はアンダーソン・毛利・友常法律事務所の弁護士・西谷敦氏。調査対象には今回の事案に加え、類似行為の有無と、その原因分析、再発防止策の提言も含まれる。
今後の開示に注目
今回の事案は、2024年に国産ドローンの導入が公共分野で本格化する中で起きた。不正の全容や金額の確定、責任の所在、そして再発防止策が明らかになるかどうかが、ACSLの今後を左右する。
日本のドローン産業にとっても、成長とともに経営の透明性と説明責任をどう確保するかという命題が突きつけられた形だ。