
「2024年の海面上昇は予想以上に深刻だった」。米航空宇宙局(NASA)が発表したデータは、地球の異常な気候変動を改めて浮き彫りにした。世界の平均海面は2024年に0.59cm上昇し、予測を30%上回る数値となった。これまで主な要因だった氷河の融解よりも、温暖化による海水の「熱膨張」が大きく影響したとみられている。なぜ異常な上昇が起きたのか、今後のリスクはどのように広がるのか。NASAの発表をもとに解説する。
異常な海面上昇が起きた2024年の気象状況
NASAは2024年の海面上昇が予想を30%上回ったと発表した。2024年の海面上昇幅は0.59cm。これは当初予測されていた0.43cmを大きく上回る数値だ。
NASAの分析によると、この異常な上昇の背景には、観測史上最も暑い年となった2024年の異常気象が要因だという。2024年の世界の平均気温は15.1℃に達し、過去最高を記録した2023年の平均気温を0.12℃上回った。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、1991年から2020年の平均気温より0.72℃、産業革命以前(1850年〜1900年)と比べても1.6℃高かった。
この異常気象が海水の温度上昇に直結し、海面上昇の一因となったという。
2024年の海面上昇、なぜ予測を上回ったのか
NASAは、2024年の海面上昇の主因として「熱膨張」を挙げた。従来、海面上昇の要因の約3分の2は氷河や氷床の融解によるものだったが、2024年はこの割合が逆転し、約3分の2が「熱膨張」によるものだ。
「熱膨張」とは、海水が温められることで膨張し、体積が増加する現象である。地球温暖化が進む中で海水温が上昇し、2024年はこの熱膨張の影響がより顕著に表れたという。
NASAジェット推進研究所(JPL)のジョシュ・ウィリス氏は「毎年の変動はあるものの、海面が上昇し続けており、そのペースはますます速くなっている」と述べ、気候変動の影響が加速している現状を警告している。
過去30年で10cm、加速する海面上昇の現実

NASAのデータによれば、1993年から2023年までの30年間で世界の平均海面は約10cm上昇している。これは年平均で0.3cm以上のペースであり、その速度は2倍以上に加速しているという。さらに、NASAが進める衛星観測データでは、今後も海面上昇が続く可能性が示されている。
海面上昇がもたらすリスクと影響
海面上昇は、沿岸地域の浸水や高潮リスクを高める。アメリカではノースカロライナ州の海辺の住宅が海面上昇による浸食で崩壊した事例や、フロリダ州での洪水被害が相次いで報告されている。
また、太平洋やインド洋の島嶼国では、30年間で10cmの上昇が「国土水没の脅威」として懸念されている。オランダやバングラデシュ、中国の河口地域などでも、同様のリスクが広がっている。
国連の報告によると、こうした地域に住む多くの住民は移住の必要に迫られる可能性があり、気候変動が引き起こす「環境難民」問題が深刻化すると指摘されている。
今後の対策と私たちにできること
NASAは今後、衛星観測データをもとにさらなる分析を進め、より正確な海面上昇の予測と対策の検討を進める方針だ。
一方、一般の消費者にとっても、異常気象への備えや防災意識の向上が重要となる。特に沿岸地域に住む人々は、ハザードマップの確認や避難計画の策定といった具体的な行動が求められる。
また、気候変動の要因とされる温室効果ガスの削減に向けて、省エネルギーの取り組みや再生可能エネルギーの活用、環境保護活動への関心を持つことも重要だ。
まとめ
2024年の海面上昇が予想を30%上回った背景には、異常な気温上昇と「熱膨張」という新たな要因があった。NASAの分析は、地球温暖化の進行が引き起こす深刻な影響を再認識させるものだった。今後、海面上昇の加速がさらに進めば、沿岸地域の暮らしや生態系に大きな影響を及ぼす可能性がある。地球環境の変化に対して、個人レベルでの意識改革や行動が求められている。
【参照】NASA Analysis Shows Unexpected Amount of Sea Level Rise in 2024(NASA)