
東証スタンダード市場に上場するIT企業クシム(東京都港区)の株価が、わずか1か月で約70億円の時価総額を失った。急落のきっかけとなったのは、同社が運営していた暗号資産交換所「Zaif」を含む子会社群を譲渡し、事実上の“カラ箱”状態になったという1月22日の週刊ダイヤモンドの報道だ。これらの記事はSNS上で拡散され、投資家の間で話題となった。
週間ダイヤモンドの上場廃止ラッシュの報道
特に週刊ダイヤモンドは、1月に「上場廃止ラッシュ2025」の特集内でクシムの経営問題を取り上げた。記事では、同社の現役取締役である田原弘貴氏が、株主提案を行い、クシムの経営陣交代を求めていると報じた。田原氏は「クシムは株主でもない者に実質的に支配されている」と暴露し、「上場企業の体裁を成していない」と強く批判。経営の透明性やコーポレートガバナンスの欠如が浮き彫りになったと指摘した。
この報道により、クシムの支配構造に疑問を抱く投資家が増え、株価への影響が拡大。さらに、3月に入ると週刊文春の報道が続き、経営陣の対立や資本関係の不透明さが改めて注目を浴びることとなった。
クシムは即座に公式声明を発表し、報道内容には「事実誤認が多く含まれている」と強く反論。果たしてこの騒動の裏側には何があるのか。週刊文春と週刊ダイヤモンドのスクープ、そしてクシム側の主張を徹底的に検証し、上場企業を舞台にした異様な対立の真相に迫る。
「Zaif」譲渡で“カラ箱”に──週刊文春が暴いた経営危機
株価下落の直接的な発端となったのは、2月3日にクシムがホームページ上で発表した「代物弁済に伴う連結子会社の異動(株式譲渡)および個別決算における特別利益の計上見込みに関するお知らせ」だった。この発表が投資家の間で大きな動揺を引き起こし、翌2月4日から株価は連続ストップ安となった。
さらに、週刊文春や週刊ダイヤモンドのスクープ報道も大きく影響を与えた。特に週刊文春は、クシムの中核事業がすべて手放され、事実上の“カラ箱”になったと指摘。経営陣の対立や内部の不透明な資本関係を暴露し、投資家の不信感をさらに煽る形となった。
「事業の根幹を担う子会社群がすべて手放されたことで、クシムは事実上の“カラ箱”状態となった。この決定に市場が動揺し、投資家が一斉に株を売却したことで株価が暴落した」(市場関係者)
実際、クシムの株価は1月30日に604円をつけていたが、2月に入り急落。3月3日の終値は168円と、約70%の下落を記録した。
クシムの反論──「事実誤認が多い」
この報道を受け、クシムは3月6日に公式声明を発表し、「週刊ダイヤモンドの記事には重大な誤りが含まれている」と真っ向から反論した。
① 香港オフィス家賃負担の疑惑を否定
週刊文春や週刊ダイヤモンドは、クシムがシークエッジグループの白井一成氏の香港オフィスの賃料を負担していたと報じた。しかし、クシムは「白井氏は香港から撤退しており、当社が家賃を負担している事実はない」と強調。香港法人は暗号資産関連事業の拠点としてM&Aにより取得し、事業展開の一環として賃貸契約を引き継いだものだと説明した。
② 新株予約権による資金調達の使途
また、クシムがライツ・オファリング(新株予約権無償割り当て)による資金を、シークエッジ関連の暗号資産購入に充てたという指摘についても「事実無根」と否定。約14億6000万円の調達資金のうち、暗号資産分野への投資は5000万円にとどまり、その後の売却で約1億円の利益を得たと主張した。
③ 調査委員会の独立性を主張
クシムの社内調査委員会の委員長がシークエッジ出身者であり、「第三者性がない」との批判についても、クシムは「調査委員会には外部の弁護士が参加し、関係者への公平なヒアリングを実施した。調査の独立性は確保されている」と反論した。
クシムとはどんな会社なのか?
クシムは1997年に設立されたIT企業で、ブロックチェーン技術の研究開発(R&D)、システム開発、人材関連事業、M&A事業を展開している。もともとは「アイスタディ株式会社」としてeラーニング事業を手掛けていたが、2020年に現在の社名に変更。暗号資産やブロックチェーン技術を活用したサービス提供を本格化させた。
同社は暗号資産交換所「Zaif」の運営会社であるZEDホールディングスを子会社として抱えていたが、今回の代物弁済により同事業を手放すこととなった。
現在、クシムはブロックチェーン技術の応用開発やWeb3関連事業に注力するとしているが、主要事業の譲渡による影響をどこまで挽回できるかは不透明だ。
株価暴落の余波と今後の展開
クシムをめぐる一連の騒動は、単なる企業の経営問題にとどまらず、投資家の信頼や株主価値にも大きく影響を及ぼしている。現在、クシムの経営陣は透明性の確保と信頼回復を目指し、新たな事業計画の策定に取り組んでいる。
一方で、同社の支配構造や資本関係をめぐる疑念は完全には払拭されておらず、今後の株主総会での動向が注目される。投資家は、クシムの経営再建が成功するのか、あるいはさらなる混乱が続くのか、固唾を飲んで見守っている。