NECの社員である岡田一輝容疑者(29)が、就職活動中の女子大学生に対して性的暴行を加えたとして、警視庁に逮捕された。事件は1月8日に発覚し、同社は14日、岡田容疑者が同社の社員であることを認め、「被害に遭われた方や関係者の皆さまに深くおわび申し上げます」との謝罪コメントを発表した。
就職活動中の学生が、志望企業の社員によって被害を受けるという衝撃的な事件が社会に波紋を広げている。この事件は、就職活動における企業と学生の関係性に大きな課題を投げかけるものであり、NECが推進する職場受入型インターンシップの実態も注目を集めている。
事件の経緯
警視庁によると、岡田容疑者は昨年9月にNECの「職場受入型インターンシップ」で被害者の女子大学生と知り合った。その後、岡田容疑者は「就職の相談に乗る」として接触を続け、11月末に居酒屋で飲酒後、女子大学生の住むマンションに押しかけ、性的暴行を行ったとされる。
被害者の女子大学生はその後、友人とともに警察署に被害を相談し、捜査の結果、岡田容疑者は逮捕された。取り調べに対し、岡田容疑者は「一緒にいましたが、一切触れていません」と容疑を否認しているが、被害者側は「志望する会社の社員であり、相談相手だったため、断りにくかった」と証言している。
NECの対応策
NECは、今回の事件を受けて採用活動における指針を厳格化する方針を打ち出した。具体的には、社員が学生と面会する際には、事前に上司や採用担当者に場所と時間を届け出ることを義務化するほか、会社施設および大学構内以外での対面での面会を禁止するとしている。
さらに、面会時間も平日の午前9時から午後6時までに限定し、飲酒を伴う接触は一切禁止とするなど、学生と社員が接触する場面の透明性を確保する狙いがある。また、ハラスメント行為を防止するため、学生向けのハラスメント相談窓口を設置し、社員に対してはハラスメント防止トレーニングを強化する方針だ。
NECは「社員が立場を利用してハラスメント行為を行うことは決して許されない。指針を厳守し、学生が安心して就職活動に臨める環境を整備する」との姿勢を明らかにした。今回の事件で逮捕された社員については、事実関係を確認の上、厳正に処分することも表明している。
職場受入型インターンシップの課題
NECが推進する「職場受入型インターンシップ」は、学生を実際の業務現場に受け入れ、企業の雰囲気を体験させることを目的としているものだった。この制度は、就職活動をよりリアルに体験させる意図がある一方で、学生が企業の社員と個人的に接触する機会を増やすことで、今回のように犯罪リスクを高めるとの指摘もある(というより、今回のような事件が起きた場合、この種の指摘がでてくることはどうしようもないことだろう)。
NECは近年、職場受入型インターンシップに注力しており、一年間で夏冬合わせて1000人以上の学生を受け入れる見込み。しかし、こうした制度が今回のような事件の要因になりうることが明らかになったことで、制度の見直しが求められているといえる。
インターンから発展した学生への性加害事件の類似例
今回の事件は社会に大きな衝撃を与えているが、過去にもリクルーターや企業の社員が就職活動中の学生に対して不適切な行為を行った事例が報じられている。
2019年には、大手ゼネコンの大林組の社員がOB訪問用のスマートフォンアプリを通じて知り合った女子大学生を自宅マンションに招き入れ、わいせつな行為をしたとして逮捕された。この事件を受け、大林組はOB・OG訪問の際の社員の対応に関する行動規範を見直し、面談場所の制限や事前申請の義務付けなどの対策を講じたと言われている。
また、2007年には三菱東京UFJ銀行の社員が「リクルーター面接」と称して女子大学生をカラオケ店に誘い込み、内定をほのめかして無理やりキスをするなどの行為を行い、強制わいせつの疑いで逮捕されている。この事件も、就職活動中の学生に対するセクシャルハラスメントの問題として社会的な関心を集めた。
これらの事例は、就職活動中の学生が企業のリクルーターや社員から不適切な行為を受けるリスクが存在することを示しており、企業側のコンプライアンス教育や学生への注意喚起の重要性が再認識されるきっかけとなっている。
社会的影響と今後の課題
今回の事件は、就職活動における学生と企業の関係性について、改めて課題を提起した。リクルーターが学生と個別に連絡を取ることや、飲酒を伴う接触がハラスメントや犯罪の温床になる可能性が指摘されている。
専門家は、「学生と接触する社員は、必ず人事部の管理下に置くべきだ。また、インターンシップに参加する学生に対しても、ハラスメント防止の指導を徹底する必要がある」と述べている。
また、就職活動の場がオンラインへとシフトしている現状を踏まえ、企業は非接触型の交流方法を拡充すべきだとの意見もある。学生との接触を可視化し、透明性を確保することで犯罪リスクを低減させることが求められている。
この事件を受け、学生の安全と企業の透明性の確保が今後の就職活動の新たな基準となる可能性が高まっている。NECの対応が他の企業にも波及し、業界全体の採用活動の在り方に影響を与えることが予想される。