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東京女子医大の女帝岩本絹子事件の真相 創業家一族が築いた一強体制崩壊の全貌

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東京女子医大
東京女子医大の外観(PhotoACより)

東京女子医科大学の元理事長・岩本絹子容疑者(78)が背任容疑で逮捕された。この逮捕は、同容疑者が不透明な資金管理に関与したとされる一連の告発に続くものだ。岩本容疑者は、新宿区にある同大学の新校舎建設をめぐり、架空の報酬名目で約1億2000万円を不正に支出し、大学に損害を与えた疑いが持たれている。

警視庁捜査2課によると、今回の背任行為は、彌生記念教育棟と巴研究教育棟の建設に関連し、非常勤職員として雇用されていた1級建築士の口座に架空の報酬を振り込ませたものとされる。その一部が岩本容疑者に還流されていた可能性がある。さらに、事件には経営統括部の幹部だった50代女性も関与しているとみられている。

東京女子医科大学の清水治理事長は、「元理事長はすでに解任されているが、今回の逮捕を厳粛に受け止めている。不正に得た利益があれば、回収を図る」とコメントした。

創業家一族が築いた“一強体制”の崩壊

岩本容疑者は2014年、手術中の男児死亡事故を受けて、経営再建のため副理事長に就任した。その後、2019年には女性として72年ぶりに東京女子医大の理事長に就任した。同大学の創立者一族の出身で、産婦人科医としての経歴を持つが、大学の経営においては強引な手腕が目立ち、「岩本一強体制」を築いたとされる。

第三者委員会の報告によると、岩本容疑者は全権を掌握し、異論を排除する体制を構築。「金銭に対する強い執着心」が見て取れると指摘されている。大学の同窓会組織「至誠会」の関係者によれば、岩本容疑者は「お気に入りの側近を重用し、反対意見を言わない人を取り立てていた」とのことだ。

同大学の勤務医は、「やっと逮捕されたという感じだ。理事長の顔色をうかがう日々が続き、混乱が絶えなかった。この逮捕を機に大学が正常化することを期待している」と語る。

名門医大が抱えた“私物化”の構図

岩本容疑者が理事長に就任した背景には、創業家一族であることが大きな要因として挙げられる。大学の関係者からは「そもそも創業家一族というだけで、理事長にさせたのが間違いだった」との声が上がっている。

岩本容疑者は、産婦人科の開業医としてのキャリアはあるものの、医局のなかでキャリアを進める大学病院の教授経験は一切なく、最先端の大学病院を率いること自体が無理があったと言える。

「なぜこのような人物が理事長として君臨し続けたのか、女子医大の人事選考システムには大きな問題がある。また、理事長就任後の暴走を止めるルールが存在しなかったことも問題だ」と、教育関係者は指摘する。

“女カルロス・ゴーン”と呼ばれた末路

岩本容疑者は、徹底的なコストカットを行い、一時的に大学の財政を黒字化させたことから「女カルロス・ゴーン」と称された。しかしその結果、病院の診療体制は縮小し、特定機能病院の承認も取り消される事態に陥った。

その過程で、大量の看護師や医師が退職を余儀なくされ、大学病院としての機能が著しく低下した。「そんな中でも辞めずに踏ん張り続けた医師や看護師の努力は本当に称賛に値する」との声も聞かれる。

医療法人に蔓延する“一族経営”の弊害

今回の事件は、東京女子医大に限らず、日本全国の医療法人が抱える根深い問題を浮き彫りにした。医療法人の多くは、一族経営が色濃く、親族が重要なポジションに就いているケースが少なくない。

「医者になれなかった親族が事務長などのポジションに居座る例もある。政治家と医師会が手を組んで、こうした構造が長年守られてきた」と、医療関係者は指摘する。

この“一族経営”の弊害が、ガバナンス不全や組織の硬直化を招き、再発防止策が求められている。

医療現場に広がる影響

岩本容疑者の経営判断は、医療現場にも悪影響を与えた。東京女子医大は2021年、小児重症患者を受け入れるPICU(小児集中治療室)を設置したが、約半年で運用を停止。その原因について第三者委員会は「岩本氏の重大な経営判断の誤り」とし、将来に向けた重要な投資に消極的であったと指摘した。

清水治理事長も「集中治療科やICUが十分に機能しなくなり、提供できる医療サービスが限定的になった」と認めている。

高級ブランドを好む一方でコスト削減を徹底

岩本容疑者は宝塚歌劇団のファンであり、高級ブランドの服やアクセサリーを好んで身に着けていたことが関係者から明かされている。一方で、大学職員にはコスト削減を求め、医療現場のリソースを削減していたという。

「医療現場では人員削減が進められ、多くの医師や看護師が退職を余儀なくされた」と大学関係者は語る。2021年には100人以上の医師が退職し、学費の値上げも相まって受験者数が減少するなど、大学の運営に深刻な影響を及ぼした。

再発防止策の必要性

今回の事件は、名門医大である東京女子医大が創立以来培ってきた信頼を大きく揺るがす事態に発展した。大学の第三者委員会は、岩本容疑者の「専横的な意思決定」をけん制できなかった組織のガバナンスに問題があると指摘している。

「女子医大は再発防止のため、具体的なルール作りが不可欠だ」と教育関係者は述べる。今回の逮捕を受け、大学は信頼回復に向けて改革を進める必要がある。

【岩本絹子医師の人となりやキャリアについての報道はこちらから】

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寒天 かんたろう

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ライター歴25年。月刊誌記者を経て独立。伝統的な日本型企業の経営や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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