
経団連は、十倉雅和会長の後任として、日本生命保険の筒井義信会長を次期会長に起用する方針を12月16日に固めた。金融機関からの選出は初めてとなる。筒井氏はどのような人物なのか、また、日本生命はどのような企業理念を掲げているのか。
本稿では、筒井氏の経歴や人物像、そして日本生命のサステナビリティ経営への取り組みについて掘り下げる。
筒井義信とは? 多様な経験を持つリーダー
1954年神戸市生まれの筒井氏は、京都大学経済学部を卒業後、1977年に日本生命保険相互会社に入社した。企業保険業務課、東京調査第一課など企画系のキャリアを歩み、特別法人営業第二部、秘書部秘書役、市場開発部次長兼広宣課長など、多岐にわたる部署で経験を積んだ。その後、長岡支社長、企画広報部長、取締役総合企画部長、取締役専務執行役員を経て、2011年に代表取締役社長に就任。2018年には代表取締役会長に就任し、現在に至る。
IIJの社長対談「人となり」コーナーでのインタビューで開示されているところによると、5人兄弟の末っ子として育った幼少期の家庭環境や、大学時代に打ち込んだバスケットボールなど、多様な経験が現在の経営スタイルに影響を与えていることが窺える。筒井氏は、「部下に任せる」、「人の話を最後までよく聞く」という姿勢の大切さを説き、自身も実践している。また、「飲みニケーション」の効用を語り、職場の人間関係構築を重視する姿勢も明らかになった。
筒井氏のキャリアの中で特に印象的な出来事として、保険金・給付金の不払い問題が挙げられる。当時、総合企画部長であった筒井氏は、この問題を通して、社業全体の見直しの必要性を痛感した。この経験は、現場での顧客との接点の重要性を再認識する契機となり、その後の経営哲学に大きな影響を与えたようだ。
人を大切にする経営哲学
筒井氏の経営哲学は「人は力、人が全て」という言葉に集約される。チームで仕事を進めることの価値を最大化するために、社員一人ひとりの力を引き出すことを重視している。リーダーには「人徳」が不可欠であると筒井氏は考える。多様な経験を活かし、変化に対応しながらもブレない姿勢を貫くことが重要だと説く。
日本生命のサステナビリティ経営
日本生命は、創業以来135年間、「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立」に取り組んできた。その中で、人、地域社会、地球環境への貢献を重視し、「誰もが、ずっと、安心して暮らせる社会」の実現を目指している。重要課題に紐づくアウトカム目標を設定することで、取り組みの進捗状況を検証し、着実に目標達成を目指していることが、清水博社長のトップメッセージで説明されている。
実際に、この点は社会的インパクトとして、2021年にソーシャル・インパクト・ボンドへの投資を実施する旨のリリースが開示されている。
具体的には、健康寿命の延伸、地域社会への貢献、地球環境の保全などを重要課題として掲げ、事業活動を通じて社会課題の解決に貢献している。特に地球環境問題に対しては、機関投資家としての立場から、温室効果ガス排出量の削減に積極的に取り組んでいる。短期的な視点に囚われず、長期的な視点で企業とエンゲージメントを行うことで、脱炭素社会の実現に向けて貢献していく方針だ。
安心を提供する「多面体」
日本生命グループは、長期的な企業像として「生命保険を中心にアセットマネジメント・ヘルスケア・介護・保育等の様々な安心を提供する“安心の多面体”」を掲げている。
これは、同社が目指す社会の実現に向けた重要な一歩となる。生命保険事業にとどまらず、幅広い分野で人々の暮らしを支えることで、社会全体の安心と活力向上に貢献していく考えだ。
経団連次期会長としての役割
筒井氏は、豊富な経験と明確なビジョンを持つリーダーとして、経団連の次期会長としての重責を担う。日本経済が抱える課題は山積しているが、筒井氏のリーダーシップのもと、持続可能な社会の実現に向けて、経済界全体を牽引していくことが期待される。
特に、サステナビリティ経営、デジタル化、ESG投資など、日本経済の未来を左右する重要なテーマにおいて、経団連会長としてどのような舵取りを行うのか、注目が集まっている。
筒井氏は先にあげたIIJの対談のなかで、若者に向けて、「日本がこれまで受け継いできた社会の規律や仲間との連帯を今後も守っていってほしい」とメッセージを送っている。変化の激しい時代だからこそ、変わらないもの、守るべき「風土」を大切にすることが重要だと説いた。そして、対話の重要性を改めて強調し、フェースツーフェースでのコミュニケーションを通じて、共感や信頼を育むことを若者に期待している。
経団連の会長というと、いまだメザシの土光敏夫が思い浮かぶ。土光は、自民党の新人議員の歓迎会で「君たちは憧れの国会議員になった。当然国民の代表になったのだから自分や自分の家族を犠牲にするくらいの覚悟はできているのだろうな。その覚悟のない奴は今すぐ議員バッチを外してこの場から出て行け」と訓示したことが有名である。
昭和の時代、経団連の要職にあった人は気骨のある経営者が多くいた。
筒井会長にはこれから、政官財でお得意の対話を重視しながらも、自民党とずぶずぶ関係だけはやめていただきたい。往時経団連が果たしてきた役割を思い出し、日本の財界、ひいては社会のかじ取りをお願いしたいものである。