自動車保険の不適切事案が焦点に
金融庁は中古車販売大手「ネクステージ」に対し、保険業法に基づく立ち入り検査を実施したことが12月4日明らかになった。2023年9月、同社は自動車保険契約のねつ造といった不適切な事案を公表しており、その後、当時の社長が辞任。創業者である広田靖治会長が社長職を兼務する事態に追い込まれた。
今回の立ち入り検査は、同業他社や新車ディーラーに対する検査が続く中、業界全体の透明性や法遵守を問う動きの一環と見られる。
業界全体が抱える構造的問題
この検査をめぐり、中古車販売業界全体への不信感も浮上している。金融庁は10月に、同じ中古車販売のイドム、グッドスピード、新車ディーラーのトヨタモビリティ東京にも立ち入り検査したことが伝えられている。
SNSやコメント欄には、「どの会社を選んでもリスクがあるのではないか」「業界全体で透明性を高める努力が必要だ」といった声が相次いだ。特に、自動車保険契約のねつ造や不正請求は消費者の信頼を著しく損ねる行為だ。ある業界関係者は、「現場では短期間に高い数字を求められ、達成が困難なノルマが課されている」と吐露しており、不正が現場のプレッシャーによって生じている可能性も否定できない。
一連の問題は旧ビッグモーターの保険請求不正問題をきっかけに表面化したが、他の大手中古車販売業者や新車ディーラーでも類似の事案が確認され始めている。金融庁は2025年の通常国会に保険業法の改正案を提出する方針を示しており、業界全体の構造的な問題解決に向けた動きが本格化している。
業績好調の中での不安要素
一方、ネクステージの業績は2024年通期の予想を下方修正してはいるが、おおむね好調だ。2023年11月期における同社の売上高は4634億円を超え、毎年事業拡大を続けている。しかし、こうした好調な業績の裏で、事業リスク管理の側面には課題が残る。25期および26期第1、第2四半期の有価証券報告書(有報)では、ビッグモーターの事件を受けた風評被害や同業他社への事象に対するリスク記載が見当たらないことが指摘されるべき点だ。
このような事象は、投資家にとって重要な判断材料となり得る。しかし、リスク情報が有報に反映されていない現状は、リスクマネジメントに対する同社の取り組みに疑問を投げかける。透明性を高めるためには、リスクを正確に把握し、開示する姿勢が求められるのではないだろうか。
サステナビリティ開示として気候変動予測に対する事業への影響を表すTCFDの開示は行っているのだが、中古車販売業界が向き合うべきリスクはTCFDの充実を図る前にやることがあるだろうと感じる。
消費者の声と業界の未来
SNS上では消費者や業界関係者の忌憚のない声が数多く見られる。「どの会社も似たり寄ったりなのでは」「小規模で地味な販売店の方が信頼できる」といった意見が散見される一方で、「整備士や営業スタッフの努力が報われる業界であってほしい」と、現場で真面目に働く人々へのエールも寄せられている。
また、自動車保険の仕組みに対する疑問の声も多い。例えば、車両修理や事故対応に関する過剰な保険金請求が問題視される中、保険料の値上げが相次ぐ現状に対して「根本的な仕組みの見直しが必要ではないか」という指摘もある。消費者の信頼を回復し、クリアな業界を作るためには、経営者だけでなく業界全体が一丸となって取り組む姿勢が求められる。
広田社長の座右の銘「正々堂々」通り、向き合うべき課題
ネクステージの広田靖治社長はコーポレートサイトのIRのトップメッセージのなかで「正々堂々」という座右の銘を掲げ、「お客様や従業員、株主の皆様に正直であること」を誓っている。しかし、今回の立ち入り検査や業界の不祥事が、同社の掲げる理念とどこまで一致しているのかは疑問が残る。
顧客にとって「愛されるクルマ屋さん」となるためには、透明性や信頼性を再構築する取り組みが不可欠だ。金融庁の動きは、中古車販売業界だけでなく、自動車保険全体の制度にまで影響を及ぼす可能性がある。
今後、ネクステージをはじめ、各社がいかにして信頼を取り戻すかが問われている。サーキュラーエコノミーの実践者として同業界が社会で果たしていくべき役目は大きい。同業界には、健全化とステークホルダーの信用回復に真摯につとめることを期待したい。