2024年から2025年にかけての年末年始は9連休となる人もいるだろう。
「働き方改革」が進み、休みやすくなっている話題はよく聞くが、持続可能な働き方に向けた「休み方改革」にも注目していくべきだろう。
今年は9連休?変わる年末年始の過ごし方
2024年末から2025年始にかけて、9連休が可能となるカレンダーの並びが話題を集めている。
「奇跡の9連休」と称されるこの特別な機会は、2024年12月28日(土)から2025年1月5日(日)までの連続休暇を指す。多くの人々が旅行や帰省、ゆったりと過ごすプランを立てる一方で、休暇を取れない人々の声も少なくない。
SNS上では、「9連休が取れるのは嬉しい」と喜ぶ声がある一方、「12月30日と1月2日しか休みがない」「年末年始は6連勤」といった不満の声も相次ぐ。「その連休を堪能できる人々のために働いている人もいる」といった意見も寄せられ、年末年始の休暇に対する待遇や働き方の違いが改めて浮き彫りになっている。
円安や物価高の影響で、旅行先にも変化がみられる。海外旅行を控え、国内旅行やホテル滞在型の過ごし方が注目される一方、自宅でのんびりと過ごすことを選ぶ人々も多い。特に3世代での旅行や家族での滞在を計画する声が多く聞かれるが、休日を満喫できる人と、労働を続けざるを得ない人々の間には依然として大きなギャップがある。
デパートの初売りも働き方改革が進む
デパート業界でも、「働き方改革」を反映した動きが進んでいる。これまで元日や1月2日からの初売りが一般的であったが、年始からの初売りを1月3日に遅らせる店舗が増加している。北海道の大丸札幌店や福岡天神店をはじめ、いくつかの大手デパートが従業員の働きやすさを優先するためにこの決断を下している。
初売りのスケジュール変更には「人材確保」という背景もある。従業員の正月休みを確保することで、雇用環境を改善し、より良い人材に集まってもらう狙いだ。正月は売り上げを大きく左右する重要な時期ではあるが、「職員にも正月はあり、バランスが大切」という意識が企業に広がりつつある。
このような動きは、デパートに限らず小売業界全体で見られる。
スーパーやドラッグストアでも元日営業を取りやめ、1月2日を休業とする店舗が増えている。これらの取り組みは、単に休業日を増やすだけでなく、正月商戦のあり方を見直し、従業員の働き方を持続可能にするための試金石となっている。
また、この変化によって消費者にも意識の変化が求められる。従業員の休暇確保に理解を示し、事前の備えや計画的な買い物を心がけることが重要だ。
時代の流れに沿った新しい働き方が、企業と消費者双方の協力により実現されつつある。
日本の労働環境と「休み方改革」の課題
日本の労働環境において、「休むこと」はいまだ十分に浸透していない課題の一つである。
有給休暇の取得率は主要先進国の中で最低クラスであり、2022年の取得率は62.1%にとどまった。政府が掲げる70%の目標には達しておらず、「休まない国・日本」という現状が続いている。
この背景には、長時間労働や休みを取りづらい職場文化が根深く存在していることが挙げられる。
特に年末年始のような繁忙期は、多くの業種で人手が必要とされ、休暇取得が難しい状況にある。その一方で、休暇を取れない労働者にも配慮する視点が、社会全体に求められる。
SNS上でも、「休める人たちのために働いているのが現実だ」「9連休なんて関係ない」といった声が多く見られた。さらに、「その連休を堪能できる人のために働いている人たちに感謝すべき」という意見も広がり、休暇を取れる人々とそうでない人々のギャップが浮き彫りになっている。
このような状況を改善するためには、単に労働時間を削減するだけではなく、「休み方改革」という新たな視点が必要だ。
例えば、休暇を「ただ休む」だけでなく、心身をリフレッシュし、仕事の生産性を向上させるための時間として活用することが重要となる。企業側にも、従業員が安心して休暇を取得できる環境づくりが求められる。
年末年始の特別な休日は、「休まない国」から脱却するための機会でもある。働き方改革の延長として、休暇の質を向上させる「休み方改革」を進めることは、持続可能な労働環境を築く第一歩となる。
ワーク・ライフ・ハーモニーと休暇の質
仕事と休暇をいかに調和させるか。
この問いに応える一つの指針として、2016年にAmazonのジェフ・ベゾス氏が提唱したことで広がったとされる「ワーク・ライフ・ハーモニー」の概念がある。
ベゾス氏は、仕事とプライベートを「競合」ではなく「融合」させることを目指すべきだと主張した。プライベートが充実すると仕事のエネルギーが高まり、仕事が充実するとプライベートもより楽しめるという、相互にポジティブな影響を与え合う関係が理想とされる。
これを実践する好例として、マイクロソフトの「休み方」が挙げられる。
彼らは、休日を単なる「休息の時間」としてではなく、仕事のパフォーマンスを高めるための「自己再生」と「エネルギーチャージ」の時間と位置づけている。
例えば、趣味やスポーツ、家族や友人との交流を楽しみながら、心身をリフレッシュすることを重要視している。さらに、デジタルデトックスを実践して仕事から完全に距離を置くことで、脳の疲労を回復させるといった工夫も行っている。
こうした「休むために仕事をする」という視点は、日本のビジネスパーソンにも示唆を与える。
日本では、働き方改革が進められているものの、休暇の取得率やその質はまだ十分とはいえない。休暇を単に「疲れを癒す時間」と捉えるのではなく、自己成長や充実感を得るための時間として活用する意識改革が必要である。
年末年始の「奇跡の9連休」は、こうした考え方を実践する絶好の機会といえるだろう。仕事とプライベートを「対立構造」ではなく「融合」させる視点を持つことで、休暇がより豊かなものとなり、働き方改革の本質に近づくことができるはずだ。
休暇を楽しむ者、働きを続ける者――交差する現実
年末年始の「奇跡の9連休」は、多くの人々にとって期待の声が上がる一方で、すべての人が同じように休暇を楽しめるわけではないという現実も存在している。特にサービス業や医療業界など、生活を支える業種では、年末年始も業務が続き、連休とは無縁の人々も多い。
SNS上には、「休暇なんてない」といった不満の声が投稿される一方で、旅行の計画や帰省先でリラックスするといった休日を享受できる人たちのコメントでの対立構造が目立つ。9連休を満喫する側と働き続ける側のギャップが、この時期特有の社会的な課題として浮かび上がっているのだ。
また、休暇を取得したとしても、単なる「休息」に終わらせてしまうのはもったいないという意見もある。休暇中に趣味や家族との時間を充実させることで、リフレッシュだけでなく、それが新たなエネルギーとなり、仕事にもプラスに働くという視点が注目されている。
これは、仕事とプライベートを融合させる「ワーク・ライフ・ハーモニー」の考え方とも通じる。
一方で、休暇を取得できない人々の労働環境の改善も重要な課題である。
持続可能な働き方を実現するには、企業や雇用主の責任だけでなく、労働者自身の意識改革も必要である。働く人々がそれぞれの事情に応じた柔軟な働き方を選択できる社会こそ、真に豊かな休暇を享受できる土壌となる。
年末年始の特別な休暇は、あらゆる人が等しく経験できるわけではない。しかし、社会全体で「休み方」を見直し、働く人々への感謝を忘れないことが、これからの働き方改革の一助となるだろう。