経済同友会は2024年12月2日、現役世代の負担を軽減しつつ持続可能な年金制度への転換を目指し、「第3号被保険者制度」の廃止を求める提言を発表した。この提言は、日本が直面する少子高齢化という現実と、年金財源の圧迫という切実な課題に向き合うための一手である。
これにより、年金制度の構造的な不公平が是正されるのか、そしてこれが日本社会全体にどのような影響を及ぼすのか。今、この議論に注目が集まっている。
「第3号被保険者制度」とは何か
「第3号被保険者制度」は、会社員や公務員の配偶者で年収130万円未満の人を対象とする優遇制度だ。これは、保険料を自ら負担しなくても国民年金の基礎年金を将来的に受け取れる仕組みであり、1985年に制度として導入された。その背景には、専業主婦世帯が一般的だった時代の家族モデルを念頭に置き、扶養配偶者にも老後の生活保障を提供するという目的があった。しかし、この制度が長年議論の的になってきたことは周知の事実だ。
まず、第3号被保険者の保険料は、配偶者である第2号被保険者(主に会社員や公務員)の保険料の中から賄われている。言い換えれば、第3号被保険者自身は1円も負担しない一方で、共働き世帯や単身世帯はその分の負担を背負う構造になっている。この仕組みが、共働き世帯や単身者から「不公平だ」との声を引き起こしているのは当然だ。
「不公平」という声を超えて見える現実
経済同友会が指摘するのは、第3号被保険者制度がもたらす「不公平」だけではない。この制度が、労働市場における女性の就業機会を阻害している点も大きな問題だ。年収130万円未満という条件が、扶養内で働くパートタイマーにとって「年収の壁」となり、多くの女性が意図せず働く時間を制限している現実がある。結果として、女性の労働参加率が低下し、企業の人材不足が加速するという悪循環を生んでいる。
また、家庭内で家事や育児を担う第3号被保険者に依存している現状が、男女間の役割分担を固定化し、賃金格差の解消を妨げる要因となっているとの批判もある。こうした社会構造が続けば、少子高齢化が進む中で日本の労働力人口はさらに減少し、国全体の成長力が低下するリスクも否定できない。
経済同友会の提言がもたらすインパクト
今回の提言では、第3号被保険者制度の廃止に向けて、まず5年間の猶予期間を設けることが提案された。この間に対象者は、第2号被保険者として厚生年金に加入するか、第1号被保険者として国民年金に移行することが求められる。これにより、突然の制度変更による混乱を最小限に抑えつつ、段階的な制度移行を達成する狙いがある。
さらに、扶養控除の見直しや「年収の壁」に対応する助成金制度の導入も議論されており、これらの施策によって短時間労働者が働きやすい環境を整えることが期待されている。
「家庭内労働」の価値と社会全体の課題
ただし、この提言がすべての人にとって歓迎されるとは限らない。特に、専業主婦や短時間労働者にとって、家計への影響は小さくない。現行の第3号被保険者制度の下では、保険料の負担なしに老齢基礎年金が支給されるが、制度廃止後は年額20万円近くの保険料負担が新たに発生する。これが家計に重くのしかかることは容易に予想できる。
また、専業主婦として家庭を支えている女性たちの「家庭内労働」の価値を軽視するのではないかという懸念もある。育児や介護といった無償労働がなければ、社会が成り立たないという現実を忘れてはならない。これらの労働を担う人々への適切な評価や保障も、制度改革の中で議論されるべきだ。
制度改革の先にある未来とは
経済同友会の提言は、年金制度の持続可能性を確保するための第一歩である。しかし、その道のりは決して平坦ではない。日本社会が抱える構造的な課題——少子高齢化、女性の社会進出、労働市場の変化を解決するには、単に制度を廃止するだけでは不十分だ。
必要なのは、家庭や労働市場の現実に即した包括的な政策である。家庭内労働の重要性を認めつつ、働く意欲を持つ人々が自由にその意欲を発揮できる環境を整えることが求められる。第3号被保険者制度の廃止は、そのための一つの契機となるかもしれない。だが、それはあくまで始まりに過ぎない。読者一人ひとりも、この議論に興味を持ち、自分の生活にどのような影響があるのかを考えるべきだ。