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白内障手術、技術革新と患者中心医療のジレンマ

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白内障手術、患者中心医療を目指して
PhotoAC画像を加工

高齢化社会の到来とともに、白内障(水晶体の混濁)を患う人は増加の一途を辿っている。それに伴い、白内障手術は年間180万件(日本眼科医療機器協会レポート)も行われる身近な手術となった。

しかし、手術件数の増加は、医療現場における技術格差や意識の差といった新たな課題も浮き彫りにしている。

白内障手術の歴史:黎明期から現代まで

白内障手術は視力低下、かすみ、まぶしさといった症状を、水晶体を摘出し、人工のレンズ(眼内レンズ)を眼の中に固定することで改善させるものだ。

白内障は、50代で40~50%、60代で70~80%、70代で80~90%、80歳以上ではほぼ100%が発症するといわれているため、老齢人口の増加とともに今後さらに施行件数が増加すると予測されている。

手術の歴史は古く、紀元前には既に針を用いた手術が行われていた記録が残っている。

その後、様々な手術法が開発されてきたが、現代の白内障手術の礎を築いたのは、1949年にイギリスの眼科医ハロルド・リドレーが開発した眼内レンズ挿入術である。

この画期的な手術法により、白内障によって失われた視力を眼内レンズで補うことが可能になった。日本では1980年代から眼内レンズ挿入術が普及し始め、現在では主流の手術法となっている。

診療報酬の現実:技術革新を阻む壁

白内障手術の診療報酬の点数は、手術の内容によって異なるがポピュラーなもので12,000点前後。これは、金額に換算すると12万円程度に相当する。

一見高額に見えるかもしれないが、手術に必要な医療機器の維持費や人件費、そして医療機関の経営を維持していくためには、十分な金額とは言えないのが現状である。

特に、老視矯正(多焦点)眼内レンズや乱視矯正眼内レンズのような高機能なレンズを使用する場合は、レンズの価格も高額になるため、医療機関にとっては更なる負担となる。

年間約1000件の白内障手術を執刀する南大阪アイクリニックの院長、渡邊敬三先生は、この現状に警鐘を鳴らす。

南大阪アイクリニックの院長、渡邊敬三先生
南大阪アイクリニック 渡邊敬三先生(提供:南大阪アイクリニック)

「真面目に患者さんのために時間をかけて手術を行えば行うほど、経営は苦しくなるのが現状です。最新機器の導入や、患者一人ひとりのニーズに合わせた丁寧なカウンセリング、手術の実施には相応の時間と費用がかかるもの。

しかし、現在の診療報酬では、それに見合うだけの収入を得ることが難しい。そのため、多くのクリニックが効率を重視する手術に走ってしまっている現実があります」(渡邊先生)

悲しいが、「真に患者さんのための医療は実現できているのは少ないのが現実」とのことだ。

最新機器導入の現状:地域差と費用対効果の壁

白内障手術は、眼内レンズを挿入することで視力を取り戻す手術である。

近年、この眼内レンズをはじめとする技術革新は目覚ましく、近くも遠くも見えやすい老視矯正眼内レンズが登場したことで、眼鏡への依存度を大幅に減らすことが可能になった。

しかし、これらの最新技術に対応できる医療機器の導入状況には、地域差や医療機関ごとの差が大きく、費用対効果の壁が立ちはだかっているのが現状である。

「目の長さを精密に測定する機器一つとっても、数百万円から一千万円以上するものまである。高額な機器を導入すれば手術の精度は格段に向上するが、費用を回収できるだけの患者数を確保できない医療機関にとっては、導入のハードルが高いのが現状である。」(渡邊先生)

医師の意識改革:患者QOLを最優先に

最新機器の導入だけでなく、医師の意識改革も不可欠で、

「手術の目的は、ただ単に視力を取り戻すことではない。患者一人ひとりの生活スタイルやニーズを理解し、QOL(生活の質)の向上に繋がる手術を行うことが重要」と渡邊先生は強調する。

例えば、パソコン作業の多い患者のQOLを高めるためには、その距離に焦点が合うようにレンズを選択し、作業が楽なように調整する方が望ましいが、現状では患者の生活習慣を詳細にヒアリングせず、画一的な手術を行う医療機関が少なくないようだ。

また、老視矯正眼内レンズは、遠近両用を実現する画期的なレンズであるが、その効果を最大限に発揮するには、医師の高度な技術力が求められる。

「多焦点眼内レンズは、使い方を誤ると、かえって見えづらくなってしまう可能性もある。医師は常に最新の知識と技術を習得し、患者にとって最適なレンズ選択と手術を行う責任がある」(渡邊先生)

願わくば、患者側も意識改革が必要なのかもしれない。白内障や白内障手術に関する正しい知識を身につけ、自分に合った医療機関を選択することが重要である。

ややもすると、手術件数だけを見て医療機関を選んでしまいがちな安易な選定方法に頼らないリテラシーが求められていると言えるだろう。

未来への展望:患者中心の医療を目指して

課題は山積しているが、白内障手術の未来は決して暗いものではない。医療技術の進歩は日進月歩であり、ひと昔前から比べると、安全で効果的な手術が実現しつつあると言える。

渡邊先生は、「医療制度の改革、医師の意識改革、そして患者自身の意識改革。これらの要素が三位一体となって変化していくことで、誰もが安心して質の高い白内障手術を受けられる社会が実現すると信じる」と未来への展望を語る。

高齢化が進む日本において、白内障はますます身近な病気となる。

だからこそ、医療関係者だけでなく、私たち一人ひとりが白内障手術の現状と課題を正しく理解し、より良い医療の実現に向けて共に歩んでいくことが重要なのではないか。

技術革新の恩恵を最大限に享受し、患者一人ひとりのQOL向上に繋がる白内障手術を目指していく。それが、未来の医療のあるべき姿と言えるであろう。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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